市場のニーズや変化に素早く対応するには、スピーディーで柔軟なITシステム開発が欠かせない。しかし、IT人材には限りがある――この課題解決策の一つが、システム運用・保守の効率化だ。これにより「新たな開発力の確保」「攻めのIT投資」などを実現させられる。その方法とは。
目まぐるしく移り変わる市場に合わせて事業を変容させるため、変化に対してスピーディーに対応できるITシステムを多くの企業が求めている。しかし、そうしたITシステムの開発に必要な人材の約8割は既存システムの運用に手いっぱいで、開発人材が不足しているという現状がNECとアイティメディアの調査(2024年実施、回答数305件)で分かった。事業変容につながる「攻めのIT投資」に人材を振り向けるには、手間と工数がかかっているITシステム運用の効率化が不可欠だ。
「ITシステムの開発、運用にかかる手間とコストを減らして余力を確保し、ビジネスの価値を向上させるアプリケーションをスピーディーに開発したい」──そんな企業のニーズに応えるべく、NECは持ち前の“総合力”と国内企業の支援で培った知見を通してシステムライフサイクル(設計、開発、設定、運用)の効率化と自動化をサポート。個社ごとの支援で培った成果とノウハウを詰め込んだツール「Exastro」を開発し、企業の枠を越えて活用できるようにOSS(オープンソースソフトウェア)として無償公開している。
NECがITシステムの運用効率化を支援する背景には、同社の吉田功一氏が経験した“超”大規模ITシステム開発の苦難がある。同氏は、人手に頼ったシステム運用に限界を感じたと振り返る。
さかのぼること十数年前、「iPhone」や「Android」搭載端末の登場によってスマートフォンが急速に普及した時期に、大手通信キャリアの通信システムの開発、運用プロジェクトを担当したのがNECだった。吉田氏も同プロジェクトに参画。爆発的に増大するトラフィックやサービス需要に応じてシステムを拡充するために、昼夜を問わず開発、リリース、断続的な設備の増設が続いていたという。
当時、通信システムとしては国内屈指の規模とされたこの仕組みは、膨大なコンポーネントライブラリで構成されていた。同システムの複雑な構成情報を手作業で扱っていたのが、“リブ管”と呼ばれるライブラリ管理者たちだ。「コンポーネントの追加やサーバアドレスの変更などで構成情報が変化したら、関係者間で幾度もレビューするといった厳格な手順が求められました。構成情報の管理だけで大量の人員と工数を割いていました」と吉田氏は振り返る。
しかし、非常に大規模なシステムであることから人手に頼った管理に限界が見え始めた。追加設備に最新のコンポーネントライブラリをリリースするはずが、構成情報の管理ミスが原因でリリース漏れが発生してしまったのだ。「このままではシステムが破綻してしまう」という強い危機感を抱いた吉田氏は、構成情報を人手に頼らず一元管理する仕組みを開発し、負担を大幅に軽減することに成功した。これが、NECがシステム運用の効率化をサポートするようになった源流の一つだ。
吉田氏は「私が経験した破綻の危機は、コンテナやマイクロサービスなどのクラウドネイティブな技術を活用し、『開発(Development)』と『運用(Operations)』を統合して効率化を図る『DevOps』を採用している企業でも起こる可能性があります」と警鐘を鳴らす。
DevOpsに取り組んでいる企業は内製にせよアウトソーシングにせよ、構成管理の複雑さに留意しなければならない。コンテナ環境で動作するマイクロサービスから成るITシステムの仕組みは、従来のモノリシックなITシステムに比べてはるかに複雑だ。運用保守フェーズでは、複雑なITシステムで発生した障害からの素早い復旧とサービス再開が要求される。
DevOpsの目的はサービス品質を継続的かつスピーディーに向上させて事業変容に寄与することなので、開発からリリースまでのサイクルを迅速に回すことが欠かせない。従来のように人手に頼ったリリース作業では、このサイクルを実現するのは困難だ。
DevOpsに取り組む企業に必要なのは、開発と運用に伴う複雑さを軽減して自動化や省人化によって運用を効率化する仕組みだ。それをツールとして整えたのが、NECがOSSとして公開しているExastroだ。Exastroは、ITシステムの設定を一元管理する機能や、運用業務の自動化や効率化、省力化を支援する機能、クラウドネイティブアプリケーションの開発を支援する機能を持つ。
同ツールを開発した吉田氏は「ExastroはOSSなので、どなたも無償で利用できます。NECが培った知見を詰め込んだツールです。構成管理を軸としたシステム運用の効率化と、その先にあるDevOpsの推進まで幅広いシーンでご活用ください」と呼び掛け、「お客さまとSIerが本来注力すべき仕事に集中できるようになる」と訴える。
NECのノウハウを取り入れたExastroは非常に有用だがあくまでもツールであり、その効果を最大化するには適切に使いこなす必要がある。コンテナ技術やマイクロサービスを利用したアプリケーションの構成情報データベースを作るには相応のスキルが欠かせないし、運用業務を効率化しようにも「どの運用業務をどう効率化するのか」を検討していないと先に進めない。ソースコードの継続的インテグレーション(CI:Continuous Integration)と継続的デリバリー(CD:Continuous Delivery)を組み合わせたCI/CDパイプラインを活用する場合も同様で、DevOps体制の構築が欠かせない。
そこでNECは、DevOpsの推進や人材不足の解決に取り組みたいという企業に向けた有償サポートを用意している。取り組み初期、“最初の一歩目”から丁寧に支援。構成データベースの構築といったExastroの導入支援と、初期のトライアル開発や運用の支援、システム開発を本格化させた後の拡大展開に対する「伴走型支援」だ。
NECの支援によってシステム運用の効率化に成功し、経営に貢献した企業が増えている。
ある金融企業は運用負荷の大幅な削減に成功した。同社のITシステムを支えているのが、アプリケーション開発を担当するシステム開発部、インフラを構築するプラットフォーム部、運用を担う運用部だ。しかし、組織間の情報連携に課題があり、構成情報などを個別に管理していたことで運用業務に多くの人手がかかっていた。そこで、Exastroによる構成情報の一元管理を目指した。
まず、プロジェクト全体を「施策検討」「施策適用」「SI保守/OSS保守」のフェーズに分割。施策検討フェーズでは、運用管理業務を分析して目指すべきゴールの設定から着手した。次に現状とゴールのギャップから課題を特定し、その課題を解決するための施策案を作成して効果を試算した。
「施策検討をお客さまと二人三脚で進められたことが成功の秘訣(ひけつ)だったと心から思います。施策案が承認された後は施策適用フェーズに移り、Exastroによって施策を実装します。疎通確認やアラート対応、仮想マシンの払い出しなどの業務を自動化しました」
SI保守/OSS保守フェーズでは、顧客側のエンジニアへのスキルコンバートを実施。顧客側のエンジニアによる運用管理の自動化の範囲拡大につなげた。
この企業は、NECと共に立ち上げたシステム関連業務を効率化するための仕組みによって5年間で約5億7000万円ものコスト削減を見込んでいる。今後は、コスト削減によって生まれたIT投資余力をクラウドネイティブなアプリケーション開発に投じることで、新規サービスによる新たな価値の提供にも力を入れるという。
「自動化や省力化によって運用保守のコストを削減して余力を生み出したら、いよいよDevOpsの真の目的であるスピーディーなサービス提供に力を入れられます。これらを包括的に支援できることが、私たちが提供するサービスの最大の特徴です」
クラウドネイティブ開発のCI/CDにおける構成管理にExastroを活用する企業も増えている。ある物流企業は、クラウドネイティブな技術とDevOpsによる経営ダッシュボードの構築管理にExastroを採用。同社はDevOpsの知識も経験もなかったことから、NECのサービスを利用することにしたという。開発組織の立ち上げや開発ガイドラインの策定、環境構築などをNECが支援した。NECのレクチャーを受けて最初の開発を終えた後は、自力で開発を進めていると吉田氏は紹介する。
ある大手通信キャリアは、顧客の要望に対応するまでの時間を短縮して利益を拡大すべく、会員サイトの開発にDevOpsを導入。「Amazon Web Services」にCI/CDパイプラインを構築し、リリースを自動化することで作業ミスの減少や高頻度のリリースを実現した。
多くの企業がビジネススピードの向上を目指してシステム開発を進めているが、運用保守の負荷、自動化に対する知識や経験の不足などの壁が立ちはだかっている。企業がそれらの壁を乗り越えるサポートをしていきたいと吉田氏は力を込める。
「これまでと同等の安定性を維持しながら運用保守の負担を減らすことで、変化する市場に事業を変容させるための手段である『攻めのIT投資』に注力できます。この考えに共感していただける全てのお客さまを今後も支援していきます」
NECは、企業変革を成功に導く価値創造モデル「BluStellar」(ブルーステラ)にITシステム運用の効率化、自動化の支援を組み入れて、運用効率化の変革シナリオとしての提供も始めている。
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2025年3月30日