外回りの後に事務所で作業、煩雑な手続きに疲労困ぱい――。こうした福祉用具業界のお悩みを解決してシェアを拡大した業務管理システムがある。クライアントサーバ型からクラウドに移行したことで得たメリットとは。
働き方の多様化や生産性向上を目的に、場所を問わず柔軟に働ける就労環境が求められている現在、オフィスでの利用を前提としたオンプレミスの業務システムは時代にそぐわなくなりつつある。こうした背景から、業務システムのクラウド化が急速に進んでいる。
福祉用具の販売、レンタルを手掛ける事業者向け業務用ソフトウェアを開発・販売するエースシステムは、2000年からクライアント/サーバ型業務管理システム「れん太壱番」を提供してきた。業界の大規模事業者が相次いで導入し、同社調べ(注)で業界シェアの約30%を獲得したという。れん太壱番は介護福祉用具事業者の業務効率化に大きく寄与したものの、クラウド化のニーズが高まったことで需要が徐々に減速していった。
注)厚生労働省「介護保険事業状況報告2024年11月審査分」に基づき、同社サービス利用者数から推計。以降のシェア情報は全て同様。
エースシステムの塚原 崇氏(事業推進本部 営業グループ 東京事業所 マネジャー)は、「この15年ほどでクラウド化が急速に進み、れん太壱番では顧客のニーズに応えることが難しくなってきました」と語る。
「福祉用具事業者の営業担当者は、車いすなどの福祉用具を貸し出すまたは販売するために個人宅や介護施設に出向くため、日中はほぼ外出しています。れん太壱番はクライアント/サーバ型のシステムだったため外出先で仕事ができず、外回りが終わると事務作業のために事務所に戻る必要がありました。これが担当者の大きな負担になっていたのです」
塚原氏は、介護保険法が施行された2000年以降、福祉用具事業者の競争が徐々に激化して経営に影響を与えるようになったと語る。
「介護福祉用具のレンタル1人当たりの料金を介護保険法の施行直後と現在で比べると、現在は約半分の1万数千円程度まで下がっています。競争の激化によって料金が下がったことが理由です。どこも経営が厳しく、福祉用具事業者は限られたリソースの中で利益を確保するための工夫が求められています」
エースシステムはこの課題に対応するため、れん太壱番にクラウド機能を連携させた営業支援の新サービスを2012年にリリース。タブレットを使って、営業担当者が外出先で顧客情報をリアルタイムに閲覧できるようにすることで業務の効率化を狙った。
しかしフルクラウドサービスではないため、れん太壱番を運用するサーバとは別に外部サーバを立てる必要があり、運用コストが膨らんでしまった。思うように普及が進まず、最終的にサービスを廃止。福祉用具事業者を支援する取り組みは振り出しに戻ることになった。
2012年、エースシステムはれん太壱番をリニューアルし、システムを根本的に刷新することを決断した。この背景には、顧客課題の解決だけでなく、同社のビジネス上の問題もあった。
「れん太壱番を利用するには、サーバをお客さまが用意する必要がありました。ハードウェアのコストを含めると、れん太壱番の導入コストは最低数百万円以上になります。福祉用具業界では小規模の事業者さまが圧倒的に多く、この費用感では中規模以上のお客さまでないと導入が難しい。導入後は年間数十万円程度の保守費用を頂いてサポートしていましたが、それだけでは当社の売り上げが拡大しないことも問題でした。新規のお客さまを獲得し続けなければ事業を成長させにくい構造でした」
クライアント/サーバ型システムよりも安価で提供できるクラウドサービスに移行することで、小規模事業者にも提案しやすくなる。エースシステムは、売り切り型からサブスクリプション型サービスへ移行することで、安定的な成長を目指そうと考えた。
新サービスの開発は2014年ごろから始まった。サービス基盤にするパブリッククラウドの検討から開始。幾つかのサービスが候補に挙がったが、日本の介護保険制度に準拠した運用管理ができるサービスが少なかった。検討を重ね、最終的に採用を決めたのが、民間企業だけでなく官公庁や自治体でも採用実績が豊富な「Microsoft Azure」(以下、Azure)だ。
「パブリッククラウドはリージョンを置いている地域の法律が適用されるため、国外のリージョンを利用すると日本の法律に則した運用が難しくなります。Azureは日本国内に2つのリージョンがあり、介護保険法に準拠した運用管理が可能なことが決め手となりました。セキュリティ対策もサービスに含まれている他、SQLのメンテナンスが不要な点もポイントでした」
アナログ業務が多い介護福祉業界でも「Microsoft Excel」などのOfficeアプリケーションは多用するので、仕事で使い慣れているツールの多くはMicrosoft製品であり、ブランドとしての信頼性が福祉用具事業者への提案時に有効になった。
れん太壱番時代から支援を受けているダイワボウ情報システムの協力の下、新たに福祉用具事業トータル管理システム「SMARTれん太」を2017年にリリースした。
クラウドサービス化したことで、外出先でもスマートフォンやタブレットで顧客のレンタル品や販売品のデータ、在庫状況をリアルタイムで確認可能になった。サービス計画書や契約書の作成、注文の入力や発注処理など、営業担当者が日常的に行う業務を外出先で完結できるというメリットが大きい。
営業担当者は空き時間を無駄なく使えるだけでなく、日中に必要な事務作業を出先で終わらせられるので営業後にオフィスに戻る必要がなくなった。特にコロナ禍で出社が制限されていた時期は、顧客から評判の声が多く届いたという。
「従来は、外出先で契約履歴や購入履歴といった情報を知りたい場合、オフィスに常駐する事務担当者に電話して確認しなければなりませんでした。SMARTれん太によって営業担当者自身が顧客情報や在庫をその場で確認できるので、営業担当と事務担当どちらの負担も軽減できます」
システム刷新の際に、もう一つ実現したい機能があった。それはタスク管理機能だ。
介護保険に関わる業務は月単位の作業が多く、どうしても月末月初に仕事が集中してしまう。担当者のスキルによって対応にばらつきが生まれる上に、特定の担当者に作業が集中しがちという課題があった。ベテラン職員が退職してしまうと、同職員が持っていたノウハウが蓄積されないことも悩みのタネだった。
業務の管理手法にも問題があった。従来は、事務所にいる職員が各営業担当に「●日までにAさんにレンタル品の継続有無を確認して」「Bさんに未入金を回収するように」といった指示を出していた。しかし、こうしたアナログな運用では事務スタッフとの行き違いが生じることも少なくなかった。人と人とのやりとりがスムーズに進まなければ、社内の雰囲気の悪化につながる。属人的な管理をシステムによる管理にする必要があった。
SMARTれん太の開発に際して福祉用具事業者の業務を分析し、350〜400の業務プロセスがあることを割り出した。そこから定例の仕事をまとめてシステムに組み込むことで、人ではなくシステムが仕事を通知して、効率的に期日管理や情報共有が可能となる、タスク管理の機能が誕生した。
クラウドシフトしたことで、SMARTれん太は介護用品事業者の事業成長に寄与している。
「介護福祉用品業界は、営業担当者1人が担当できる顧客は100人程度といわれています。それが、SMARTれん太の導入によって1人当たり200人担当できるようになったお客さまもいます。これは業務効率化が成功した結果であり、クライアント/サーバ型システムをクラウドシフトしたことが功を奏した好例と言えるでしょう」
れん太壱番をクラウドサービス化したことでイニシャルコストを抑えられ、中堅・中小の新規顧客でも導入が進んでいるという。れん太壱番時代に同社調べで30%だった市場シェアは、SMARTれん太にしたことで45%に拡大したと塚原氏は話す。
SMARTれん太の開発からリリースを裏で支えたのが、ダイワボウ情報システムだ。
「ITディストリビューターのダイワボウ情報システムさまは全国に拠点を構えていて、地域密着の販売体制を取っています。当社は全国の介護事業者さまから相談を受けるのですが、地域を問わず全国の顧客を支援できるのは、ダイワボウ情報システムさまの後ろ盾があってのことです」
塚原氏は、介護事業に関わる業界はデジタル化が遅れていると感じているが、SMARTれん太が業界を一歩ずつ変えていく原動力になっていると胸を張る。介護という社会を支えるサービスだからこそ、デジタルによる持続的な発展は欠かせない。今後、SMARTれん太がますます「スマート」なサービスを提供する基盤となることを期待したい。
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提供:ダイワボウ情報システム株式会社、日本マイクロソフト株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2025年5月15日