人手も予算も限られるIT部門にとって、分散するITインフラの運用管理の効率化は切実な問題だ。特にVMware問題に代表されるライセンスコストを抱える組織にとってはコストとITリソースの最適化はすぐにも着手したいはずだ。この動きにオープンな技術で取り組むベンダーを取材した。オープンでありながらエンタープライズ品質というのがポイントだ。
VMware製品は企業ITを長く支えてきた仮想化基盤の一つだ。だが製品ポートフォリオとライセンス体系の変更をきっかけに、コスト負担増などの難題に直面する企業が増えている。次期システム更改においてはゼロベースでIT基盤を見直そうという動きもある。
ITインフラの見直しでは、“攻めのIT”を実現することはもちろんだが、IT予算の大半を占める運用コストをいかに削減するかが課題になる。企業IT全体をゼロベースで考えるならば、オフィス業務だけでなく、製造現場や流通、顧客接点など多様な現場に置かれるITインフラ環境を考慮することも重要だ。こうした分散環境を含めた合理化を進めることで、運用を効率化することが期待できるだろう。
「『Wind River Cloud Platform』はオープンソースソフトウェアをベースにしており、ベンダーロックインのリスクがない点が強みの一つ。モダンなITシステムのトレンドへの追従も早い」と語るのは、ウインドリバーのCTO(最高技術責任者)であるポール・ミラー氏だ。
ウインドリバーといえば、航空・宇宙や防衛、産業機器、医療機器、通信など、停止が人命や社会インフラに影響を与えるミッションクリティカルな分野に、商用リアルタイムOSや組み込みLinux OSを提供し、その分野をリードしてきた企業だ。だが近年はクラウドテクノロジー企業へと変化を遂げつつある。クラウド関連のオープンソースソフトウェア開発コミュニティーへの投資にも積極的だ。
「この10年ほどで、ウインドリバー自身が新しい技術への移行の必要性を痛感し、かつてのOT機器向けソフトウェアのリーディングカンパニーからクラウド技術を活用してITとOTの連携を実現する企業に変貌してきました」と、ミラー氏は自社のクラウドシフトについて説明する。
その同社が独自のオンプレミス型商用プライベートクラウド基盤として提供するのがWind River Cloud Platform(以下、Cloud Platform)だ。商用クラウド基盤には幾つかの選択肢が考えられるが、その中でも同社が特に強みとするのが、ベンダーロックインのないオープンソース技術を商用化している点と、OT領域で培った大規模かつミッションクリティカルなシステムの構築・運用ノウハウだ。
Cloud Platformは、「StarlingX」「Kubernetes」「OpenStack」などのオープンソースソフトウェアを基に構築されている。その信頼性は、これまでベライゾンやボーダフォンをはじめとする世界の通信事業者に実運用されて、実証されてきた。
OSにはリアルタイム拡張したLinux kernelを採用でき、稼働率99.9999%という高い信頼性を特徴とする。5万を超えるノードを扱ってもダウンタイムなしという運用実績もあるという。
Cloud Platformは、各種ワークロードの自動化機能や、ネットワーク遮断時でも稼働を継続する自動修復機能も備えており、システムの可用性を高めながら効率的かつ安定した運用を実現する。
Cloud Platformはライセンス体系がシンプルな点も魅力の一つだ。VMware製品のような商用IaaS基盤のライセンスは仮想マシン(VM)数やコア数に基づく複雑な課金体系を取るものが多い。この場合、ハードウェア構成は各ベンダーの課金ルールを考慮してコア数やVM数を調整する必要があるが、ひとたび課金ルールが変わってしまえば想定外のコスト増を招く。
Cloud Platformは、エンドユーザー企業のこうしたリスクを考慮し、シンプルにノード単位のライセンス体系を採る。ライセンスコスト負担との「板挟み」になることなく、システムパフォーマンスを最大化するハードウェア構成を取りやすくなる。
もう一つの特徴は、運用の集約を意識した構成だ。ハイパフォーマンスで低遅延なエッジ環境を想定したクラウド基盤の開発プロジェクトであるStarlingXは、「Debian GNU/Linux」を低レイテンシ化したものをベースに、分散型のクラウドコンピューティングを想定した構成になっている。1つのシステムコントローラーから分散インフラ全体を管理でき、最新バージョンのCloud Platformでは最大5000のサブクラウドを1つのシステムコントローラーで管理できるという。この仕組みを企業ITインフラに生かせば、子会社や事業所、工場や倉庫、店舗などの多様なITインフラ全体を集中管理することもできる。
ウインドリバーはStarlingXプロジェクトをリードするメンバーであり、現在も活発に開発フィードバックを続けている。Cloud Platformは、このプロジェクトの成果を商用プロダクトに落とし込み、運用を支援する各種ツールや商用サポート、システム移行支援サービスなどを組み合わせて提供する。
同社が提供する運用支援ツールには「Conductor」や「Analytics」がある。Conductorは、分散するクラウド環境におけるアプリケーションのデプロイ作業の自動化やゼロタッチで管理を自動化するオーケストレーション機能、分散クラウド環境をエンドツーエンドで一元管理する機能を備え、システムの構築や運用にかかる負荷を大幅に軽減する。Analyticsは、Cloud Platformからのデータを収集・分析して、分散クラウドシステムの効率的な運用を可能にする。
Cloud Platformは、コンテナ技術であるKubernetesをベースとする既存のIaaSを統合するための道筋も用意している。
Cloud PlatformはOpenStackをサポートしており、そのコントロールプレーンはコンテナ化されているため、そのまま同プラットフォーム上のコンテナアプリケーションとしてシームレスに動作する。VMware製品からの仮想マシンの移行に加え、近年使われ始めたコンテナも同一クラスタ内で運用できる。
実際、同社が提供するマイグレーションサービスを使い、VMware製品をコンテナ基盤に移行した企業の事例もある。
米国内で5Gネットワークサービスを提供する通信事業者のBoost Mobileは、自社サービス基盤としてVMware製品を採用してきた。現在はCloud Platformに移行して運用の効率化や自動化を実現している。
とはいえVMware製品をコンテナ基盤に移行する作業は決して簡単ではない。ウインドリバーの移行サービスは要件をあらかじめ綿密に検討し、移行によるコストメリットの試算などユーザー企業が望む幅広いサポートを提供する。業界ごとの要件や課題のありかを熟知した企業でなければサポートできないようなOT領域固有の問題にも対応し、個々の企業に適した移行サービスやプロフェッショナルサービスを提供できる体制がある点も魅力と言えるだろう。
企業のあらゆる拠点のあらゆる業務がIT化したことで、IT部門が管理すべきシステムは多様化、複雑化、分散化が進んでいる。これらを個別に管理し続けていると、日々のコスト削減にいくら励んだとしても運用コストがIT予算を圧迫する状況を回避できないだろう。
将来の攻めのIT投資に向けた余力を確保するためにも、分散した環境を包括的に運用する、安定した仕組みが必要だ。キャリア網の運用管理で実績があり、スケーラビリティや可用性、コストパフォーマンスなどの面で優位性のあるCloud Platformは、次の強靱(きょうじん)なIT基盤を構築する際に検討の俎上(そじょう)に載せるべき選択肢の一つと言えるだろう。
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