「3階層アーキテクチャの柔軟性と、HCIのシンプルさ。この2つを同時に実現できないか」――企業のIT部門が長年抱えてきたジレンマに、新たな解決策が登場した。
AIを活用することが企業の競争力を左右し始めた。ビジネスに影響する政策の変化や気候変動、地政学的リスクなど、今後何が起きるかを予測することは難しい。こうした不確実性の高い環境において、企業は「ベンダーロックインを回避しながらハイパーコンバージドインフラストラクチャ(HCI)並みに簡単に運用できるITインフラ」を求めている。
アイティメディアが主催したオンラインイベント「Enterprise IT Summit 2025 夏」に登壇したデル・テクノロジーズは、同社が新たに提案する分離型インフラ「Dell Private Cloud」の価値について紹介した。本稿は「AI時代のインフラモダナイゼーションの最適解、Dell Private Cloud が実現する世界」と題したセッションの内容から、AI時代に求められるITインフラの姿を探る。
デル・テクノロジーズは、現在の企業が抱えるAIインフラに関する課題について、アンケート調査を実施した。
「AIインフラを選択する際、組織にとって最も重要な機能は?」という質問に対しては、「高性能なコンピューティング能力」という回答が42%で1位になった。「導入の容易さと既存インフラとの統合」(39%)、「データガバナンス、セキュリティ」(39%)が続き、「実装・管理における自動化とオーケストレーション」(36%)、「管理とメンテナンスの容易さ」(32%)などの回答も上位に挙がった。
デル・テクノロジーズの森山輝彦氏は「この結果から、導入性や自動化、運用管理といった要素に関しても、AIをサポートするITインフラに求められる重要な機能だと分かります」と語る。
ここで注目すべきは、企業のオンプレミスインフラへの回帰傾向だ。クラウドファーストの流れが続いてきたが、AIとデータガバナンスの観点からオンプレミス環境の価値が再評価されているという。
森山氏は「クラウドの利用を否定するつもりはありません。しかし、AIや予測不可能な外部環境、データガバナンスを考慮すると、オンプレミスが適しているという議論が最近多くのお客さまやパートナーとの間で交わされています」と現状を分析した。
この議論の背景には、特にAI導入に伴うデータ量の加速度的な増加があり、これがクラウドの利用コストを押し上げる大きなリスク要因となっている。一方で、 ITインフラ全体としては、エネルギー価格の上昇や繰り返し作業による生産性の低下といった課題にも直面している。
こうした状況を受け、森山氏は次世代ITインフラに求められる要素として3つの「効率性」を挙げた。1つ目は「データ効率」だ。データ削減技術をより効果的に利用することで保存コストと物理スペースを削減する。2つ目は「運用効率」だ。自動化やオーケストレーションを全面的に取り入れたシンプルな運用に変える。3つ目は「ライフサイクルの効率性」だ。無停止アップグレードや将来を見据えた設計によってITインフラを長寿命化する。
「TCO(総保有コスト)を削減もしくは維持しながらITシステムの付加価値を最大化することが求められています」
「企業のITインフラは長年にわたって『柔軟性』と『シンプルさ』のどちらかを選ぶ必要がありました」と森山氏は指摘する。
コンピュート、ネットワーク、ストレージからなる3階層アーキテクチャは、ワークロードのニーズに合わせた独立したスケーリングやリソースの効率的な利用の他、ベンダーロックインを回避できる柔軟性といった利点を持つ。ただし、管理性には課題があった。森山氏は「特に、コンピュートとストレージの互換性、アップグレード、ソフトウェアとストレージの組み合わせなど、設計・運用担当者の負担の大きさが課題でした」と振り返る。
この問題を解決したのがHCIだ。HCIを利用することでオーダー、オンボーディング、デプロイが簡便になる。ライフサイクル管理の自動化やシングルスタックサポートの合理化を実現にも役立つ。しかしHCIを導入すると、リソースのスケーリングに難点が浮かび上がった他、低効率、低使用率、ハイパーバイザーのロックインという新たな課題が生まれた。
「3階層の柔軟性とHCIのシンプルさを両立させられないか――。そんな発想から開発したのがDell Private Cloudです。『Dell Automation Platform』というオーケストレーション基盤を中核として動作する統合ソリューションで、3階層の柔軟性を維持しながらHCIのような使い勝手を実現しました」
Dell Private Cloudの最大の特徴は、ハイパーバイザーに依存しない柔軟性にある。従来のHCIは特定のベンダーのエコシステムに縛られていた。Dell Private Cloudは、検証済みブループリントを通じてVMware製品や「Red Hat Virtualization」「Nutanix AHV」などのハイパーバイザーをポータルで選択でき、数時間でIaaS環境を構築できる。
特筆すべきは、ITインフラの再利用機能だ。既存のハイパーバイザー環境から異なるハイパーバイザー環境に移行する場合、既存環境をリセットして同一ハードウェア上に新たな環境をデプロイできる。ハードウェア資産を継続利用しながら、ソフトウェア部分のみを柔軟に変更可能だ。
この仕組みによって、1年または3年のサブスクリプションライセンス契約終了時に継続利用するか他のハイパーバイザーに移行するか、あるいはコンテナ環境やベアメタル環境に変更するかといった選択ができる。それも簡単なオーケストレーターのブループリント実行だけで実現可能だ。
森山氏は「変化の激しい時代、ハイパーバイザーに縛られずにITインフラを柔軟に展開できる環境が求められています。Dell Private Cloudはまさにそうした不確実性に基づく新たなITインフラの在り方を提案するものです」と、価値を強調した。
Dell Private Cloudを支える重要なコンポーネントが、2020年に発売された企業向けオールフラッシュストレージ「Dell PowerStore」だ。コンパクトな筐体(きょうたい)で、スケールアップやスケールアウトに柔軟に対応でき、さまざまなインタフェースを持つ使い勝手の良いストレージとして位置付けられている。
約2万件の顧客と3万ノードを超える利用実績を誇り、同社の主力製品になっている。同製品は5:1のデータ削減保証が付帯しており、データフットプリントの縮小に貢献する。
ビルトイン型AIまたはSaaS型で提供される無償のAIOps機能を活用することで、運用効率の大幅な向上も実現した。2025年9月時点で最新のバージョン4.1ではカーボンフットプリントの予測やパフォーマンス余剰のレポーティング、AIを活用した予測的アラート機能などが追加された。
特徴的なのは「スマートサポート」機能だという。3万ノードを超えるテレメトリーデータを収集・分析することで、問題発生の可能性を予測して対処できる仕組みを構築。これによって従来の事後対応型から予防型のサポート体制への転換を実現した。
Dell PowerStoreは、ユニファイドストレージとしてブロックストレージとファイルストレージの融合や多要素認証などのセキュリティ機能強化といった機能拡張を続けている。米国連邦政府が製品を調達する際に用いる「認定製品リスト」にも含まれており、セキュリティ面での高い信頼性も特徴だ。
AI時代の予測困難な経営環境において、Dell Private Cloudは3階層アーキテクチャの柔軟性とHCIのシンプルさを両立させる分離型インフラとして適応力を提供している。オープンなソフトウェアエコシステムや自動化による運用の簡素化、投資保護とベンダーロックイン回避により、企業は変化する事業ニーズに迅速かつ効率的に対応できる。Dell PowerStoreを中核とするDell Private Cloudは、不確実性の時代に企業競争力の源泉となるプラットフォームになり得るだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
提供:デル・テクノロジーズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2025年10月17日