AI時代、日本企業は変革をどう加速できるのか――SAP APAC社長が語る障壁の突破と好循環の鍵データとAI、アプリケーションの好循環で事業成長を実現

経営における意思決定のスピードや質の高さを左右するAI。しかし、AI活用の“入り口”でつまずいている日本企業は多い。日本企業に積み上がる課題の解消方法と、経営変革のための道筋をSAPアジア太平洋地域プレジデントのサイモン・デイビス氏に聞いた。

PR/ITmedia
» 2025年10月06日 10時00分 公開
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 生成AIをはじめとするAIが経営における意思決定のスピードや質を左右する時代が到来した。しかし多くの日本企業は、データがAI活用に適した状態にはなっておらず、AIの恩恵を享受するために不可欠な前提条件がそろっていない。

 ITmedia エンタープライズが読者を対象に2025年3月に実施した調査によると「データが整理できておらず活用できる状態にない」という回答は37.9%、「データがサイロ化しており活用できる状態にない」という回答は28.2%に上った。

 データを活用できなければ、AIを使っても大きなビジネス成果につながる価値は生まれない。外部環境が激しく変化して経済の先行きが不透明さを増す今、AIやデータの活用を含むIT戦略と経営戦略を統合できなければ、事業の成長どころか現状維持さえも難しいだろう。さらに、レガシーシステムの刷新が進まない現状がこれらの問題を深刻化させている。

 ERPをはじめとするビジネスアプリケーション領域において世界で存在感を示すSAPはこうした日本企業の課題に対し、どのような打開策を示すのか。SAPのアジア太平洋地域(APAC)のプレジデントであるサイモン・デイビス(Simon Davies)氏に聞いた。

photo SAP サイモン・デイビス氏(APACリージョナル プレジデント)

AIとデータ、アプリケーションの相互作用で好循環を生む「フライホイール効果」とは

 デイビス氏はオーストラリア出身で、数多くのグローバルIT企業でビジネスリーダーを務めてきた。2025年2月から、SAPのAPACトップとして78拠点を統括している。

 デイビス氏は「SAPの強みは、幅広いビジネスプロセスに関わるシステムを提供していることです」と語る。「グローバルで商取引に関わるデータの多くが、SAPのシステムを介しています。それだけ広範囲なデータにアクセスして、AIやデータの活用によってビジネスの価値を高められる可能性が広がっています。今、SAPは『AIファースト』『スイートファースト』を掲げ、お客さまのビジネス環境を整えて長期にわたって価値を提供できると考えています」

 冒頭で言及したAI活用におけるデータの重要性について、デイビス氏は「AIを事業に生かせるかどうかは、データからいかに価値を引き出せるかにかかっています」と強調する。元のデータの質が高く、ビジネスの文脈を用いて学習させることがAIの精度を向上させるポイントになる。

 質の高いデータを学習したAIがビジネスプロセスを強化し、さらに質の高いデータを生み出す。そのデータを学習することでAIが強化されるという好循環が生み出され、投資対効果が最大化される。SAPはこれを「フライホイール効果」と呼ぶ。「時間がたてばたつほどより大きなインパクトが出るため、長期的な視点でビジネス価値を最大化するための指針になります」

photo AIとデータ、アプリケーションの好循環でフライホイール効果が生まれる(提供:SAPジャパン)《クリックで拡大》

 重要なのは、単にデータを循環させる仕組みをつくればいいという訳ではない点だ。語源であるフライホイール(はずみ車)が回転エネルギーを蓄えて滑らかな動きを生み出すように、データを軸にした好循環を回すためにはAIとデータをつなぐアプリケーションの役割が重要だ。しかし、多くの日本企業は長年のカスタマイズでERPが複雑化し、連携が阻害されている。

 「当社が取り組んでいるアプリケーション戦略が『クリーンコア』です。ERPやビジネスアプリケーションから複雑さを取り除き、ビジネスプロセスにグローバルなベストプラクティスを採用しやすくします」

 SAPのクリーンコア戦略は、ERP本体を標準に保ち、拡張や連携は「SAP Business Technology Platform」(SAP BTP)が担うことで俊敏性とアップグレード性を両立させ、ビジネスのニーズに応える。

 このプラットフォームで稼働する「SAP Business AI」のユースケースは270以上に及び、世界各地の3万4000社以上に利用されている。2025年末までにユースケースは400に、加えて40のビジネス特化型AIエージェントが稼働する予定だ。

 フライホイール効果を最大化するためには、データとアプリケーションをスムーズに連携させてAIに質の高いデータを引き渡す必要がある。だがデータのアクセスに問題を抱える日本企業は多い。冒頭で紹介した調査によると、「必要なときに必要なデータにアクセスできる環境を用意しているか」という問いに対して、「違う」「どちらかと言えば違う」と答えた企業は合計で68.6%に達した。

 デイビス氏は「SAPはこうした問題に応えるため、クリーンコアコンセプトのビジネスアプリケーションとデータの連携をスムーズにする仕組みに力を入れています」と話す。同社はSAPシステムだけでなく、社内に点在するSAP以外のシステムのデータも統合するプラットフォーム「SAP Business Data Cloud」(SAP BDC)をDatabricksと共に開発した。複数ベンダーのアプリケーションのデータを、複製することなくリアルタイムに分析できるのが特徴だ。

 「日本では2025年8月に提供を開始したばかりですが、日本で初めてSAP BDCのユーザー企業となったのがNTTデータさまです。同社は多様なデータを分析環境にセットして、データから示唆を得ることを目指しています」

日本企業の課題を「SAPの強み」でどう解決する?

 SAPが最も力を入れている市場の一つが日本だ。前述のSAP Business AIやSAP BDC、生成AIコパイロット「Joule」は日本語に対応している。

 「SAPはアジア太平洋地域において比類のない投資をしています。『SAP Labs』という研究開発センターを世界20カ所に開設しており、アジア地域では日本、韓国、シンガポール、中国、インドに加え、最新の拠点としてベトナムに設置しています」

 日本企業はITシステムを導入する際に社外のITベンダーに依頼するケースが多い。SAPの日本企業向けプロジェクトも約90%がITベンダーとの協業だという。SAPジャパンはアビームコンサルティングやNEC、日立ソリューションズなどの国内大手SIerや、グローバル企業を含めた約500社とのパートナーエコシステムを形成している。

 デイビス氏自身は、日本市場の特色や日本企業の課題について以下のように話す。

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 「日本の産業界は高度に教育され、熟練した人材に支えられています。しかし今、高齢化による将来的な労働人口の減少やIT人材の不足、レガシーインフラの問題に直面しています。これは、システムのモダナイズが主なテーマである他国と日本の大きな違いだと認識しています」

 こうした中で、IT人材やIT予算を有効に活用して脱レガシーを図り、データ活用の課題を解決するためにSAPはさまざまなオファリングパッケージを用意している。ERPをクラウド移行するための「RISE with SAP」「GROW with SAP」というオファリングはデータやAIをネイティブに活用できる環境を提供するだけでなく、Amazon Web ServicesやMicrosoft Azure、Google Cloudなどの主要クラウドベンダーと協力してデジタル変革のコストを最適化できるように努めている。

 「大きなプロジェクトだけでなく、コンパクトでシンプルなパッケージも用意しています。お客さまが真っ先に取り組みたいものが財務会計や人事の領域であれば、それらに特化したシステムの刷新にも対応しています。特定業務の変革から全社プロジェクトまで柔軟にお応えできるのがSAPの強みです」

能登半島地震で避難所データ集約に貢献したSAP

 こうした柔軟なアプローチの成果として、デイビス氏はNECと日立ハイテクの2つの事例を紹介した。

NECがRISE with SAPでSAP S/4HANA Cloudに移行

 NECは、RISE with SAPを採用して「SAP S/4HANA Cloud」に移行。同社のERPには1200以上のアドオンプログラムと200以上の外部インタフェースが存在しており、移行に当たっては生成AIを利用してクリーンコアの促進と運用効率向上を図っている。また、同社独自の生成AI「cotomi」とSAPのJouleによってアドオン分析やレポート解釈、仕様書からのコード生成、テスト自動化などのプロセスを自動化している。

日立ハイテクがSAP S/4HANA CloudとSAP BTPを採用

 日立ハイテクは、長年利用してきたSAP ERPの複雑性を解消し、データドリブン経営を実現するためにシステムを刷新した。システム刷新に当たってはFit to Standardの考え方でSAP S/4HANA CloudとSAP BTPを採用し、9000以上あったアドオンをERP本体で22に、外部システム連携用のAPIを含めると600未満に削減した。

 「日立ハイテクさまは、国内ではプライベートクラウド環境、海外ではパブリッククラウド環境を導入して連携させるという2層のERP戦略を採用しました。ビジネス環境の変化に迅速に対応できるこの事例は、SAPのグローバルカンファレンスでも報告されて世界中の注目を集めています」

 企業の変革支援だけでなく、社会課題の解決にもSAPは貢献している。SAPジャパンは、2024年1月1日に発生した能登半島地震の際に避難所データの可視化アプリケーションをSAP BTPで開発して石川県に提供した。仕様策定から実装までにかかった時間は72時間だった。

 「これはクラウドの俊敏性が生かされた例として、その後の防災アプリケーションの開発にも生かされています」

photo 避難所データ集約・可視化アプリケーションと周辺システムの構成(提供:SAPジャパン)《クリックで拡大》

「日本からグローバルリーダーが数多く出る可能性がある」

 SAPは日本での事業を1992年に開始して以来、日本企業の基幹システムを支えてきた。デイビス氏は日本企業の将来についてどうみているのか。

 「日本はイノベーションを起こすグローバルリーダーを数多く輩出できる可能性を持つ国です。今後もSAPの日本へのコミットメントは揺るぎません。単に技術を提供するだけでなく、お客さまの課題に寄り添い、シンプル化やレジリエンス強化、イノベーション促進を通じて持続可能な成長を支援していきます」

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提供:SAPジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2025年10月25日