事業が拡大して拠点が増えるほど、「紙や表計算ソフト、電子メールでのやりとり」による業務効率の悪さは大きな課題になる。グループ連結で従業員約1万3000人を抱えるGENDAはなぜ課題解決に「kintone」(キントーン)を選んだのか。同社のグループ企業であるGENDA GiGO Entertainmentの海外拠点「GiGO台湾」が業務アプリ開発で自走する体制づくりとともに紹介する。
紙の書類での申請や表計算ソフトを使ったデータ管理による業務効率の悪さは、多くの拠点を擁する企業にとって大きな課題だ。国内外にエンターテイメント(エンタメ)施設等を多く展開しているGENDAも同様の課題を抱えており、事業の拡大に伴って深刻化していた。その解決に役立ったのが、サイボウズのノーコードツール「kintone」(キントーン)だ。
GENDAのDX(デジタルトランスフォーメーション)施策におけるkintoneの立ち位置と、国外のアミューズメント施設「GiGO台湾」のkintone活用術を見てみよう。
GENDAは、2018年に創業したエンタメ企業だ。国内外でアミューズメント施設「GiGO」やカラオケチェーン店「カラオケBanBan」などを約1000店舗、主に30台以下のゲーム機を設置する無人運営のゲームコーナー「ミニロケ」を約1万4000カ所運営。その他にもツーリズムやキャラクター・マーチャンダイジング、フード&ビバレッジ、コンテンツ&プロモーションなどエンタメ領域で事業を幅広く手掛けている。従業員数はグループ連結で約1万3000人(2025年1月時点)に上り、米国や中国大陸、香港、台湾、英国、ベトナム、オランダ、カナダ、シンガポールなどでも事業を展開している。
同社の梶原大輔氏は「当社は『世界中の人々の人生をより楽しく』というAspiration(大志)を掲げて事業を展開しています」と語る。ゲーム機のレンタル事業からスタートした同社は、2040年に「世界一のエンターテイメント企業」になることを目指し、創業以来50件以上のM&Aによって事業を拡大してきた。
事業拡大のための技術戦略には、3つの柱があると梶原氏は語る。
「私が入社した2021年以来、前任者から引き継いで推進しているのが内製化です。以前はベンダーなどに開発業務を委託してきましたが、業務改善のスピードを上げるために自社のエンジニアに切り替えていきました」
DXを推進するため、梶原氏が率いるIT戦略部は業務プロセスを見直すことにした。非競争領域で標準化された業務にはSaaSなどのパッケージソフトウェア(ソフト)を利用する方針だ。基幹業務の周辺にある業務や迅速な改善が求められる業務はkintoneのアプリを利用して他のシステムと連携させたり、新たなkintoneアプリを構築したりすることで、業務効率化とシステムにかかるコストの最適化の両立を図る。
GENDAはもともと、kintoneを全社におけるDX推進のためのツールとしてではなく、個別の業務アプリを開発するために利用していた。同社の山崎朝樹氏は次のように話す。
「多くのM&Aを進める中で、グループインした企業の屋号変更に伴う交渉プロセスの管理が煩雑(はんざつ)になってきました。システム化しようにも、ニッチな業務であるためそのまま使える市販のソフトがありません。そこでkintoneを導入し、自分たちで作ることにしました」
このアプリの開発を皮切りに、GENDAは前述した基幹システムと周辺システムを連携させるツールとしてもkintoneを利用し始めた。この段階ではノーコード環境を生かした現場部門への利用拡大は念頭になかったという。
2022年5月にIT戦略部に合流した寺井裕介氏は、前職でkintoneを利用した経験がある。GENDAにkintoneが導入されていることを知った寺井氏は、kintoneで解決できそうな課題が山積しているのにkintoneの利用が進んでいない状況を目の当たりにした。現場部門に活用を勧めてみたものの反応は薄かったという。
どうすればkintoneが浸透するのか――。転機になったのは、現場の声だった。GiGOの運営部門から、「店舗の管理業務から紙や表計算ソフトをなくしたい」という依頼が届いたのだ。kintone経験者である寺井氏を中心にIT戦略部と現場部門でチームを結成し、業務改善アプリの開発プロジェクトがスタートした。
最初にターゲットにしたのは「落とし物管理」だった。「プロジェクトが始まった当時、全国に300店舗以上あるアミューズメント施設※から、落とし物が毎月2000件以上本社に報告されていました。店舗のスタッフがメモ紙に記入し、それを別の台帳に転記して報告するという作業を強いられていました」(寺井氏)
※2025年8月末時点でGiGOの店舗数は600を超えている。
IT戦略部はkintoneの基本操作を現場メンバーにレクチャーし、既存のテンプレートを改変する形で業務実態に沿ったアプリ開発を促した。こうして「落とし物管理アプリ」が完成して全国の店舗に展開された。同アプリは、現店舗管理部門が主導して開発したGENDA初のアプリになった。
開発したアプリによって落とし物処理業務の効率は大幅に改善され、年間1400時間に換算できる作業が削減された。この成果が評判を呼び、全国の店舗からkintoneによる業務改善の依頼や相談が急増した。
そこでIT戦略部は、kintoneによる現場主導のアプリ開発を伴走支援する仕組みを構築。毎週1時間のレクチャー会でkintoneの基本機能を紹介し、IT戦略部が作成したサンプルアプリを土台にして現場メンバーが自業務に合ったアプリを開発する体制を整えた。IT戦略部は拡張機能の導入や設定のフォローに回る。現場の作業負荷を抑えると同時に、現場目線で使いやすいアプリを作ることに主眼を置くことでkintoneユーザーとアプリを増やしていった。
この取り組みにより、ミニロケの管理アプリやクレーンゲームの景品発注アプリなどが生まれた。現在、GENDAでは全国約300のkintoneユーザー、約700のアプリ、10種類のプラグインが稼働している。kintoneの活用によって年間8000時間以上の作業時間を削減することに成功。景品発注アプリに関しては、作業時間が半減しただけでなく、店舗の売り上げ向上にもつながっているという。
「DXをスケールさせるためには、IT部門だけでは限界があると考えています。全ての従業員がIT人材として、業務課題をスピーディーに解決するためのツールとして、kintoneは当社に欠かせない基盤となっています」(梶原氏)
GENDAのグループ企業であるGENDA GiGO Entertainmentの海外拠点でもkintoneは運営の効率化に寄与している。その皮切りとなったのが、GiGO台湾だ。
GiGO台湾の基幹システムはSaaSによって標準化されていたものの、申請をはじめとする周辺業務には紙や表計算ソフトが使われ、電子メールでやりとりしていた。
「GiGO台湾の董事長から『申請や稟議(りんぎ)などの業務の効率が悪い』と相談を受けました。そこで、国内でも実績を挙げつつあったkintoneを台湾でも使ってみようと動き出しました」(梶原氏)
GiGO台湾では、店舗の備品購入に関する稟議は台湾の本部に申請することになっていた。細かい備品も含めて1点ずつ申請用紙から転記して申請しなければならないために作業負担が重く、時間もかかることが問題だった。2024年8月に、この課題を解決するためのアプリ開発が始まった。
開発は、寺井氏が現地従業員にリモートで指示する形で進められた。GiGO台湾の店舗管理部門に所属する日本語と中国語に長(た)けた従業員が寺井氏との窓口になり、開発でも中心的な役割を務めた。
台湾で開発するに当たってkintoneが多言語に対応していることは大きなメリットだったと、山崎氏と寺井氏は口をそろえる。「海外での開発ツールにkintoneを選んだ決め手の一つが、標準で多言語に対応しており、ユーザーのアカウント設定に応じて自動で切り替え可能なことでした。開発中のアプリをチェックする際、私の環境では開発画面が日本語で、GiGO台湾では同じ画面が中国語で表示されます」(寺井氏)
備品購入時の稟議を効率化する申請アプリの開発は順調に進み、完成したアプリについて寺井氏は「従来は品物を撮影して電子メールに添付する必要がありました。アプリの導入によって効率が大幅に向上しました」と説明する。さらに、店長がどこにいても申請プロセスの状況を確認できるように通知機能も追加された。
申請アプリを皮切りに、備品の管理アプリなど新たなアプリが生まれていった。「今では開発メンバーの採用やトレーニングもGiGO台湾が実施しており、自走する体制が整いました」(山崎氏)
GiGO台湾では現在、kintoneのユーザー数は約40アカウントに達し、約20のアプリが稼働している。報告書やスタッフの勤怠管理もデジタル化され、リアルタイムでの情報共有が可能になった。
アプリの開発に際しては、稼働前に日本本社でのチェックを義務付けるなど、事故の防止といわゆる「野良アプリ」の乱立を防ぐためのガバナンスルールを設定している。
「当社は現場での開発を推奨していますが、『データは原則的に削除してはいけない』といった最低限のルールは守ってもらう必要があります。そこで、開発者向けのルールブックを作りました。kintone展開時に開発者に内容を伝えることで海外でも日本と同じルールが順守されるようにしています」(寺井氏)
台湾を皮切りに、GENDAのkintone活用は中国、米国、欧州に拡大している。「開発基盤をkintoneに統一したことで、世界各地にあるグループ会社の開発状況を確認できます。開発が滞っている拠点に向けたアドバイスも可能です」(山崎氏)
梶原氏は、開発環境の標準化と、柔軟なカスタマイズの両立に期待する。「世界中にあるグループ会社に似たような業務プロセスがたくさんあります。既存のkintone製アプリをコピーして横展開することで、アプリ開発をスピードアップできます。もちろん商慣習の違いや新たにグループに加わった企業独自の機能もあるため、業務プロセスを完全に統一するのは困難です。そこでkintoneには『統一できるところは統一し、個別要件はカスタマイズしてバランスを保つツール』としての役割を期待しています」
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2025年11月12日