商談がブラックボックス化して適切な育成につながらない企業は多い。これを解決するのが「話術AI」だ。トップセールスの会話を論理的に解析して再現可能な「勝ちパターン」を導き出すことで、新人でも早期に成果を出せるようになる。仕組みや特徴を開発者に聞いた。
営業部門のDXに取り組む企業は増えているが、AIツールの導入が本来の目的である営業力の向上に結び付かないケースは多い。ツールを導入しても、担当者の主観で作成した報告内容から活動の詳細をマネジメント層が正確に把握できず、適切な育成につなげられないことがある。
営業力の向上に貢献するAIツールの選択肢の一つがUmee Technologies(以下、Umee)の「Front Agent」だ。サイボウズのノーコードツール「kintone」(キントーン)のようなSFAやCRMと連携することで、報告書を作成する手間が省けたりkintoneが持つSFAやCRMとしての機能を向上させたりできる。
なぜ、AIツールを導入するだけでは本来の目的を達成できないのか。Umeeを設立した新納弘崇氏はこう指摘する。
「多くの企業は、AIツールがアウトプットした結果をどう活用するかまで考えずにツールを導入しがちです。期待と少しでも違うアウトプットが出た瞬間に、それ以上の活用を諦めてしまいます」
この指摘は多くの企業の実態を言い当てている。商談中にAIが生成する議事録やチャットツールで顧客と交わした会話履歴の多くは、読み返されることなく放置されていることも多い。データは蓄積されているのに、それを生かし切れないことがDXを停滞させる要因になっている。
さらに深刻なのは、AIツールの導入が完了していない企業だ。なぜなら、そうした企業は営業活動の中心である商談内容がブラックボックス状態になってしまっていることが多いからだ。多くのマネジャーは部下が作成した報告書の情報でしか商談の内容を知ることができない。そのため、トップパフォーマーがなぜ成果を出せるのか、新人がどこでつまずいているのか、データに基づいて客観的に分析するのは困難だ。
そもそも多くの企業は、「優秀な営業担当者」の定義さえ曖昧なままだ。「優秀な営業担当者」が成果を出せる客観的な理由が明らかではないため、再現性のある育成ができない。
つまりAIツールの導入有無にかかわらず、「商談」という一番の生データを活用できていない状況に陥ってしまっている。
こうした課題に対してUmeeは、独自開発したAI「Front Agent」による新たなアプローチを提示している。Front Agentは「話術AI」とも呼べる。なぜ「話術」なのか? それは、話し方や会話の組み立て方、つまり「どのような会話をするか」から営業成果の差がつくポイントを解析できるからだ。
Front Agentの開発者でもある新納氏は、電気通信大学と東京大学で神経接続に関する研究に従事した。研究で培った人間の神経パターン解析の知見を基に、2019年にUmeeを設立。会話の志向性を解析する技術「Deep Insight Engine」(心理分析エンジン)で国際特許を取得している。
この技術を基盤とするFront Agentは、生成AIとは根本的に異なる。多くの生成AIは、大量のデータから確率的に「それらしい」文章や回答を生成する。そのため、時として事実に基づかない情報を出力するハルシネーションが発生する。一方、Front Agentは顧客テナントごとに会話を解析する。確率ではなく、テナントにある該当データを参照して分析するため、誰が使っても一貫した結果を得ることができ、ビジネスに不可欠な信頼性と再現性を確保している。
Front Agentは対面やWeb会議、電話などの会話を録音して解析する。発言の量や内容、発話のタイミング、声音など会話から得られるさまざまな情報をAIで分析することで、トップセールスとそれ以外の営業担当者との違いを可視化し、いわゆる「勝ちパターン」を導き出す。重要なノウハウを浮き彫りにさせるだけではなく、トークスクリプトも生成可能だ。
Front Agentは企業に次の価値をもたらす。
1.トップパフォーマーの成功要因をデータで特定し、組織特有の「勝ちパターン」として体系化
2.営業担当者の個性を可視化し、個人の強みを生かした育成を実現
3.顧客の発言を分析し、これまでアンケートでは獲得できなかったインサイトを抽出する
「営業業務には各企業特有の『型』があります。Front Agentはこの『型』をデータによって可視化し、個々の営業担当者が個性を生かしながら『型』を習得できるように支援します」と新納氏は語る。
新規ツールの導入に当たっては利用率をどう上げるかが課題になる。Front Agentはカレンダーアプリや連絡帳アプリと連携して、商談開始時に自動で待機状態になるので、営業担当者が意識することなく日々の営業活動がデータ化される。既存のSFAやCRMと連携することで多角的な分析も可能だ。
Front Agentの導入効果を最大化するのが、kintoneなどのSFAやCRMとの連携だ。これによって営業DXの停滞を解消した企業がある。
DX推進の支援事業を手掛けるライトアップは、インサイドセールスの典型的な悩みを抱えていた。営業担当者が商談内容をkintoneに記入して上司に報告していたが、商談件数が増えるほど記入すべき内容を忘れやすくなり、報告内容の粒度にバラつきがあった。
マネジャーは部下の商談内容を正確に把握できず、成約に結び付く効果的な指導ができないでいた。成功事例を共有するためのロールプレイングや勉強会は開催に労力がかかり、参加しないメンバーに情報を共有できないことも課題だった。
この状況を変えたのが、Front Agentとkintoneの連携だ。商談内容はFront Agentによって自動で記録され、解析・要約を経て重要なポイントと次回に取るべきアクションがkintoneに自動登録される。
これによって、営業担当者は報告書の作成業務から解放された。報告内容の粒度も統一でき、営業部門全体で情報の質が向上して情報共有のためのコストが軽減した。
マネジメント面での変化も大きい。商談の実態がデータとして可視化され、報告内容で気になる箇所があればワンクリックで録音データにアクセス可能だ。「部下がどのように商談を進めているのか分からない」という悩みが解消され、マネジャーは的確な改善指導ができるようになった。
最も大きな成果は営業育成の革新だ。Front Agentは成約案件の会話パターンを分析して、「どの発言が成約の決め手になったか」「どのような会話の流れが成約につながるか」を可視化する。新人とベテランの差分が明確になり、新人それぞれの個性を生かした具体的な成長プランの立案が根付いた。
新納氏は「Front Agentによって『あなたの強みはこれで、あの要素を加えれば成果が出るでしょう』という個別最適化された指導を実現できます。画一的な研修とは異なり、各自の個性を生かしながらデータに基づいた改善ポイントを示せます」と強調する。
kintoneにFront Agentを連携させたことで営業担当者は改善点を具体的に確認できるようになり、上司による的確なアドバイスも受けられるようになった。この結果、新人はこれまでよりも早い時期に1人で契約を締結できるようになった。
連携の利点は、シームレスな運用にもある。営業担当者は従来通りkintoneを使うだけでよく、その背後でFront Agentが高度な会話解析を実行する。開発中の新機能は、kintoneに蓄積した顧客の属性や取引履歴のデータをFront Agentが取り込み、「この業界の顧客にはこのアプローチが有効」といった戦略的インサイトを提供する予定だ。
Front Agentは、オンライン商談だけでなく対面営業でも成果を挙げている。マンションの企画・開発・販売を手掛ける三菱地所レジデンスは、モデルルームにおける顧客対応の品質向上のためにFront Agentを導入した。モデルルームの案内から個室での商談まで、会話を録音・解析する取り組みを進めている。Umeeが開発した技術によって、雑音が多い環境でもクリアに音声を取得できるという。
Front Agent導入の結果、入社1年目の新人が売り上げ上位に入るという成果が生まれた。これまで新人担当者は先輩の商談に同席したり、ロールプレイングを重ねたりして営業手法を身に付けていた。その当時は「どこまで手法を習得できているか」「その方向性が正しいかどうか」は主観的な判断に頼るしかなかった。
「Front Agentはデータ分析によって成功パターンを導き出し、適切なノウハウやスキルを伝授する“師匠”の役割を果たします。営業担当者は学びながら自分の強みも生かせ、データに基づいた軌道修正も可能です」
Front Agentが目指すのは、単なる業務効率化ではない。Umeeは「技術で人を進化する」というビジョンの下、人間の創造性を最大限に引き出してAIが定型的な業務を担う未来を描いている。
「自動化が進む中、『考える』ことを無意識に避ける人が増えています。だからこそ、データを基に自ら考えて成長できる人を育てる組織づくりを支援したいですね。会話データは企業の重要な資産です。それを正しく解析し活用することで、営業に限らず組織のあらゆる場面で人の成長を支援できると考えています」
Umeeはカスタマーサポートや人事面談など、会話が発生する業務領域への展開を計画している。蓄積したデータから業界横断的なベストプラクティスを抽出して、企業間での知見の共有も検討中だ。「話術AI」が解析するのは会話内容ではなく、人と人のコミュニケーションの本質だ。その知見は、営業という枠を超えて企業全体の進化につながる可能性を秘めている。
Umeeはサイボウズのパートナー評価制度「Cybozu Partner Network Report 2025」のアライアンス部門で最上位の三つ星を獲得した。Front Agentとkintoneのシームレスな連携が評価された。
「既にkintoneを導入済みのお客さまは、Front Agentとの連携によって商談の可視化から営業育成まで一貫した仕組みを構築できます。営業DXの停滞に悩む方は、『話術AI』という新たなアプローチをご検討ください」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
提供:Umee Technologies株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2025年11月6日