塩野義製薬が構築した次世代データ活用基盤の全貌 kintoneが果たす重要な役割表計算ソフトから脱却、データドリブン経営への挑戦

塩野義製薬が挑む、全社的なデータ基盤の構築。かつて表計算ソフトでサイロ化していた情報を集約して、データドリブン経営を実現するために「kintone」を選んだ理由とは。HaaS(Healthcare as a Service)企業への進化を支える挑戦の舞台裏に迫る。

PR/ITmedia
» 2025年10月17日 10時00分 公開
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 製薬業界において、データ活用は製薬プロセスの効率化や新たなヘルスケアサービスの創出に欠かせない要素だ。塩野義製薬は2021年、データを一元管理してイノベーションを促進させる「セントラルデータマネジメント構想」(以下、CDM構想)を立ち上げた。その実現のために重要な役割を果たしているのが、サイボウズの業務アプリケーション構築プラットフォーム「kintone」(キントーン)だ。

 同社のDX推進本部でマスターデータマネジメント(MDM)プロジェクトをリードする新井勇輝氏、同部でデータ基盤の構築とガバナンス整備を担当する内藤詩菜氏、営業部門のデータマネジメントに従事しながらデータサイエンス部の業務も兼務する小山高史氏に、kintoneを活用したデータ収集とデータ管理基盤構築の取り組みについて聞いた。

HaaS企業への進化を支えるCDM構想

 塩野義製薬は「新たなプラットフォームでヘルスケアの未来を創り出す」というグループビジョンの下、HaaS(Healthcare as a Service)企業に進化している。創薬に特化したビジネスからデジタルセラピーなどのヘルスケア全般のサービスに事業領域を拡大するこの変革において、多様なデータの活用が成功の鍵を握る。

 かつて同社は事業部門ごとにデータが散らばり、意思決定に必要な情報を効率的に収集できない状態だった。コーポレート部門を対象にした調査では、7割以上の業務で表計算ソフトでの情報管理が行われていることが分かった。各工場の環境データやIT資産情報などの重要な情報が表計算ソフトに記録され、ファイルサーバや従業員のPCに保存されていた。

photo 塩野義製薬の新井勇輝氏(DX推進本部 データサイエンス部 データエンジニアリング1グループ サブグループ長)

 「経営層がデータに基づいた意思決定をする際、各部門に散在したデータを都度収集していて非効率的でした」と新井氏は当時の課題を振り返る。

 こうした状況を打破するために、塩野義製薬は2021年にデータサイエンス部を立ち上げ、CDM構想をスタート。データを一元管理して、データドリブンな意思決定を可能にするデータ活用基盤の構築に着手した。クラウドサービスのデータベースに保存されていた業務システムのデータや各部門と個人が管理していた表計算ソフトのファイル、またオープンデータや商用データベースなど社内外のデータを使える状態にして、データウェアハウス「Snowflake」に集約する仕組みを構築した。

 CDM構想の特徴は「分散型データコミュニティー」である点だ。データウェアハウスでデータを一元管理する一方で、各部門のデータオーナーが自律的にデータを管理する。

 「システム全体の管理やガバナンスの確保はデータエンジニアリンググループが担当しますが、データの提供は各部門の参加者がデータオーナーとなりデータウェアハウスに格納します。透明性の高いデータコミュニティーのおかげで、部門の枠を超えたデータ共有が可能です。個人単位でも組織単位でも柔軟にデータを格納して活用できる環境を整えています」と内藤氏は説明する。

photo 分散型データコミュニティーによって、透明性の高いデータ共有が可能になった(提供:塩野義製薬)《クリックで拡大》

kintone選定の決め手は直感的な操作性

 表計算ソフトからデータウェアハウスにデータを移行するには、散在するデータを収集してデータウェアハウスに連携するツールが必要だ。同社は複数のツールを比較検討して、kintoneの導入を決めた。選定の決め手は、IT部門だけでなく事業部門でも使いこなせる直感的な操作性だ。

photo 塩野義製薬の小山高史氏(医薬事業本部 営業推進部 営業推進グループ / DX推進本部 データサイエンス部 データエンジニアリング1グループ)

 「事業部門が使うことを前提に、私は営業現場の視点で使いやすさを、新井がIT部門視点でシステムの連携性を評価しました。両方の要件を満たしたのがkintoneでした」と小山氏は説明する。

 「他のツールはアプリケーションの作成方法が複雑で、設定項目も多岐にわたり、習得に時間がかかると判断しました。kintoneはマニュアルを見なくても直感的にアプリケーションを作成でき、データの入力やエクスポート、インポートも簡単でした。必要な機能がどこにあるかが一目瞭然で、多くの機能が画面内にシンプルに収まっている点も魅力的でした」(新井氏)

 kintone導入後のデータ収集フローは次の通りだ。kintoneで作成したデータ入力フォームを利用してデータを収集。一時的に格納されたデータをETLツールで加工して、データウェアハウスに格納する。この一連の仕組みによって、表計算ソフトで分散管理されていたデータが統合データ基盤へとスムーズに流れるようになった。

photo データウェアハウスに集約することで、データをスムーズに活用できるようになった(提供:塩野義製薬)《クリックで拡大》

 塩野義製薬のデータサイエンス部は、データを収集する仕組みを整えるだけでなく分析や可視化用のデータ品質の確保にも取り組んでいる。「単一選択をさせたい項目はラジオボタンを使い、チェックボックスは使わない」「数値項目では全角/半角の混在を防ぐための入力規則を設定する」といった入力フォームに関する細かな指導も含む、適切なテーブル設計を事業部門にレクチャーする体制も整えている。

photo 塩野義製薬の内藤詩菜氏(DX推進本部 データサイエンス部 データエンジニアリング2グループ)

 「事業部門から相談を受けた際は、可視化や分析に適したデータベース設計やテーブル設計ができるようにアドバイスします。kintoneのデータ収集フローとETLツールでの加工プロセスを適切に設計すれば、さまざまな用途に対応できます」(内藤氏)

 表計算ソフト用の既存のファイルをkintoneに取り込んでアプリケーションを作成する機能を利用すると、表計算ソフトのファイルに不備がある場合はエラーが発生する。これによって従業員がデータ品質の重要性に気付くという副次的な効果も生まれているという。「データリテラシーを向上させる良い教材にもなっています」と小山氏は付け加える。

データウェアハウス統合による多面的な活用

 kintoneを経由してデータウェアハウスに集積されたデータは、BIツールでの可視化や他システムのデータと組み合わせた分析など多面的に活用されている。新井氏は一例として、各工場での利用法を挙げた。従来は表計算ソフトで管理していた水の使用量などの環境データをリアルタイムで可視化できるようになり、日々の業務における意思決定がスピーディーになったという。

 データサイエンス部もkintoneで収集したデータを業務に活用している。プロジェクトを始める際に発番するプロジェクトコードをkintoneで管理し、データウェアハウスに格納している会計情報と連携させることで予算や実績を一元的に把握できるシステムを構築した。

 従来はチャットツールで上長に申請していた社内の審議会などへのエントリーも、kintoneでシステム化した。申請内容が自動的にkintoneに蓄積され、関係者への連絡も自動化された。現在はDX推進本部のみで運用しているが、全社展開を予定している。

 「kintoneのデータを他のデータと組み合わせることで、より価値の高い分析が可能になります。データ収集や分析だけでなく、業務プロセスの効率化にも貢献しています」と新井氏は強調する。

 2025年9月現在、塩野義製薬ではkintoneで作成した58のアプリケーションが稼働しており、要件定義からデータ収集、運用、データ活用まで各段階で着実に成果を挙げている。kintoneを利用するシーンの拡大に伴って、利用用途が発散したりメンテナンスが行き届かなかったりといったリスクが存在するため、方針を踏まえた上で、ガバナンスの面から十分に検討する必要があるという。

AI時代を見据えたデータ基盤の価値

 塩野義製薬は2024年10月、データサイエンス部内にGenerative AIグループを新設してAI活用を進めている。CDM構想で整備したデータ基盤は、AI活用においても重要な役割を果たしている。

 例えば、データウェアハウスのテーブル設計時のテーブルやカラムの名称を、AIが提案するアプリケーションがある。日本語名を英語に変換し、過去のテーブル情報を参照して適切な名称を提案する。「kintoneからSnowflakeにデータを移行する際のテーブル設計作業が大幅に効率化されました」と新井氏は説明する。

 最後に、データ活用に課題を感じている企業に向けて、同社の経験から得られた知見を聞いた。

 「SaaSの普及によって、データがさまざまな場所に散在している企業は多いでしょう。kintoneのようなツールで各部門が簡単にデータを蓄積して一元管理することで、段階的にデータ活用を進められます。ただし最も重要なのは、事業部門とのコミュニケーションです。データ活用の価値を見せることで、『試してみよう』という気持ちになってもらえると思います」と新井氏は語る。

 内藤氏は変革を推進する観点から付け加える。「表計算ソフトから別システムへの移行時には、現場からの抵抗はあります。システムを提供するだけでなく、使いたいと思ってもらえる推進活動が必要です。AI活用においても、データ整備とチェンジマネジメントの両輪で進めることが成功の鍵となると考えています」

 塩野義製薬のCDM構想におけるkintone活用は、単なる業務効率化を超えて同社のデータドリブン経営を支える基盤として機能している。AI時代を見据えたデータ基盤構築の取り組みは、多くの企業にとって参考になるだろう。

photo 新井氏、内藤氏、小山氏を含む、データエンジニアリンググループのメンバー

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