表計算ソフトウェアでのデータ管理が主だった前田道路。同社はたった3年でいかにクラウド型のデータ活用基盤を整備したのか。完全週休2日制に挑戦する同社の取り組みと、伴走支援したジールの強みに迫る。
ビジネス環境の変化に適応するには迅速な経営判断が欠かせない。そのためには全社でのスムーズな情報共有やデータ活用が必要だが、紙の書類やサイロ化したデータがそれを阻んでいる。
前田道路は1930年(昭和5年)設立の老舗建設会社だ。「ともに、未来につづく道を」という経営理念の下、道路建設をはじめとする工事事業と、舗装用アスファルト合材を製造・販売する製品事業を全国で展開している。「“人”こそが会社の財産である」との考えに基づき、ITツールの活用やDX(デジタルトランスフォーメーション)を積極的に推進し、業界の特性上、実現が難しいとされる「完全週休2日制」導入に向けた働き方改革にも取り組んでいる。
滝沢強氏が、グループ会社である前田建設工業から前田道路に出向した2020年当時、同社のIT基盤は紙文化、データのサイロ化、基幹システムの老朽化といった課題を抱えていた。同氏は社長室副室長兼ICT推進責任者(当時)として、書類のペーパーレス化や経費精算システムの刷新、電子契約サービスの導入といったICT推進施策を進めた。さらに滝沢氏は2023年4月から情報システム部長として前田道路のIT、DX事業に携わり、2025年度からは中期経営計画の一環としてAIの活用や会計システムの刷新にも着手した。
前田道路は2022年度から「データに基づいた意思決定」を可能にするためのシステム整備に取り組んでいるが、同社の「データが活用できない」問題の本質は根深いところにあった。
「データのサイロ化は、単にシステムが分断されているだけではありません。工事、合材、会計の各部門で、担当者の考え方もデータの取り方も、保持の仕方も異なっていました」と、前田道路のデータ活用基盤導入をプロジェクトリーダーとして支援したジールの不破悟氏は語る。
ジールはデータ活用支援に30年以上の実績がある。2010年からウイングアーク1stの「Goldパートナー」に認定されており、「Dr.Sum」「MotionBoard」を活用したデータ分析基盤の構築において1000社以上、3500件以上というプロジェクトを成功させてきた実績を誇る。認定資格保有者は70人以上在籍しており、専門性の高い支援体制を構築している。
「当社はマルチベンダーとして、プロジェクトの目的や背景に応じて最適なプロダクトを提案できる柔軟性を備えています。ベンダーに縛られることなく、本質的な課題解決に向けた支援が受けられるとお客さまから評価していただいています」(不破氏)
ジールは前田道路のプロジェクトに対し、最大で15〜16人を投入するという大規模な体制を組んだ。「各部門の調査に始まり、担当者との認識合わせ、要件のすり合わせを時間をかけて丁寧に進めました」(不破氏)
従来は多くのデータが表計算ソフトウェアや手作業で処理されており、業務生産性が高まりにくい状況だった。社内データは部門ごとにサイロ化されており、従業員は所属部署以外のデータにアクセスできなかった。業務や帳票が標準化されていないことも、効率化やデータ活用の足かせとなっていた。
データ活用のシステム化に当たり、前田道路は次の3つの成果を目指し、達成した。
1. 経営判断の迅速化
データ統合をした上で分析基盤を構築することで、現場から集まるデータを基に、経営や事業における意思決定を迅速化できる環境を整えた。
2. レポート作成時間の削減
従来は表計算ソフトウェアによる手作業の加工・集計が必要だった。システム化することでレポート作成の業務負荷と時間を大幅に削減した。
3. データ統合の運用負荷抑制
一般的にはデータ統合基盤構築後は運用・保守に手間がかかるが、前田道路ではその運用負荷を最小限に抑える設計を実現した。
データに基づいた意思決定と業務効率化を実現するために、前田道路が採用したのはSnowflakeのクラウド型DWH(データウェアハウス)「Snowflake」と、ウイングアーク1stのBIツール「MotionBoard」の組み合わせだった。前田道路は前者をデータプラットフォームとして、後者を可視化と分析のために利用している。
この2つを採用した理由は何か。滝沢氏は「SnowflakeはSaaSなのでスモールスタートが可能で、必要に応じてスケールアップ、スケールアウトできる拡張性を備えているところが良いと思いました」と語る。オートスケール機能と従量課金制により、利用状況に応じた費用の最適化が図れるため、コスト削減が期待できるところも魅力的だ。運用面では、自動チューニング機能などの運用支援機能が充実しており、データベース管理者の負荷を大きく軽減できる。
次に、MotionBoardについて滝沢氏は「可視化や分析、業務アプリ開発を1つで実現できるところに魅力を感じました」と語る。10ユーザー単位で導入できる柔軟なクラウド版ライセンス体系により、全従業員に展開した場合もコストを大幅に抑えられる。
採用の決め手になったのは、国産BIならではの細かい機能や設定が可能な点や、迅速かつ丁寧なサポート体制だ。前田道路が利用している「Microsoft Excel」との親和性が高いこともMotionBoardを選んだ理由だという。
「導入後の効果は期待通りでした」と滝沢氏は評価する。Snowflakeはクラウドサービスであるため、運用の大部分をSnowflake社に任せられる。マイクロパーティションによるデータ最適化や、統計情報の自動収集によるクエリ最適化などの機能によりインデックスの詳細設計が不要となるため、データ統合環境における運用負荷を抑制できた。
MotionBoardは、既存のExcelやPDFの帳票をWebブラウザで閲覧できる仕組みにより、経営判断の場で迅速なデータ可視化を実現した。これによりレポート作成時間を短縮し、経営判断の迅速化につながった。
滝沢氏が重視する「現場を楽にする」「小さな変化を積み重ねる」を着実に実現するために、不破氏は実運用での利便性に配慮した設計と実装を徹底した。レスポンス速度もそのうちの一つだ。ダッシュボードの表示速度が遅ければ、従業員に不快感を与え、利用が伸び悩む可能性がある。そこでデータの配置やクエリを工夫して処理の軽量化を徹底した。
既存のExcel形式で帳票を出力する機能の実現も、小さな変化を積み重ねるという方針に沿ったものだ。「帳票出力オプションによって、ユーザーが慣れ親しんだExcel帳票に近いイメージで出力できるのもスムーズな定着に役立ちました」(滝沢氏)
閲覧制限の仕組みにも配慮した。「各従業員のアクセス権限に基づいて閲覧制御を自動化できる仕組みを整えるなど、管理者の運用負荷が軽減できるような設計を心掛けました」(不破氏)
「IT改革は、小さな変化を重ねることが大きな効果につながります。大きな変化で大きな効果を得ようとすると、実現までに時間がかかり、リスクも大きくなる。小さな変化であれば失敗してもダメージが少なく、教訓を得て次のステップにつなげられます」(滝沢氏)
こうして前田道路は、経営判断を迅速化するための経営指標ダッシュボードやレポート作成の業務負荷と時間軽減、データ基盤運用負荷の低減を実現した。
前田道路のデータ活用は、人事管理の分野でも進んでいる。「2025年4月から、当社は全ての現場で完全週休2日制導入という新たなチャレンジを始めています」(滝沢氏)
人手不足が深刻化する建設業界では、完全週休2日制を実現するハードルが高い。前田道路も例外ではなく、主要事業である道路工事事業では夜間や休日の現場作業が多く発生することから「常に誰かが働いている」状態だ。プロジェクトや部署によって勤務状況が異なることから勤怠管理も複雑になっていた。
そこで、部署ごとの休日取得状況の把握と従業員の意識改革を目的としたダッシュボードの運用を開始した。土日出勤の振替休日の申請や取得状況が可視化されることで、「社内では目標実現に向けて機運が着実に高まっています」と滝沢氏は期待をにじませる。
こうして前田道路では、データ基盤整備をはじめとするDX施策によって業務効率化や情報連携が進むことで、現場の働き方改革への挑戦も可能になった。
データ活用に踏み出した前田道路は今後、何に取り組むのか。不破氏は「マイルストーンでは、いま5割に届いたかどうかというところです」と語る。今後はAIを活用し、全従業員がデータ活用できる仕組みを整える予定だ。
「SnowflakeのAI機能を活用して、過去と当年度の実績データから将来を予測し、可視化することで経営判断に役立てます。過去の類似する実績を参照し、AIとテンプレートを活用することで、現場業務で必要な作業を効率化し、労働時間の短縮を図る計画もあります」(滝沢氏)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
提供:株式会社ジール
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2026年1月29日