AI活用を見据えたデータ基盤はどうあるべきか。日本電子は“攻め”のデータ活用を実現するため、ERPとデータ基盤を並行して刷新した。大型プロジェクトにもかかわらず、AI活用計画の前倒しを実現したジールのアジャイルな伴走支援の全貌に迫る。
事業成長のためにデータやAIをどのように生かすかが問われており、サイロ化している膨大なデータを統合して活用できるようにすることは急務だ。
電子顕微鏡のリーディングカンパニーである日本電子は、データのサイロ化や分析速度の低下といった課題を解消して、全社を横断するデータ分析基盤を整備した。さらに計画を前倒しして生成AIを導入した。
従業員のデータ人材化を目指すデータ基盤刷新プロジェクトについて、同社の山口明彦氏と、プロジェクトの製品選定からPoC(概念実証)、構築、教育まで伴走支援しているジールの山崎達也氏に聞いた。
日本電子は電子顕微鏡の開発会社として1949年に創業し、透過電子顕微鏡の商用化で先駆的な役割を果たした。理化学・計測機器、半導体・産業機器、医用機器を主軸に事業を展開している。2017年のノーベル化学賞の対象となったクライオ電子顕微鏡法の発展にも、装置開発を通じて貢献した。
同社は2013年から、「YOKOGUSHI戦略」として技術や製品を事業横断的に活用する取り組みを推進している。その実現にはデータの統合が不可欠だった。精密機器は数万点の部品で構成されるため、部品管理が複雑でデータの更新頻度が高い。保守データや研究開発データ、営業データなども膨大で日々更新されている。
「以前は、販売や原価といったERPのデータのみをデータウェアハウス(DWH)にコピーしていました」と、山口氏は振り返る。顧客管理ツールなどのSaaSは連携対象外だったため、多面的な分析には表計算ソフトやデータベース管理ソフトを使って手作業で加工・集計する必要があり、負担が大きかった。
だがデータの増加に伴ってDWHはデータ量に耐え切れなくなり、運用負荷の増加や分析速度の低下が懸念された。AIなどの技術や海外拠点とのデータ連携に対応できない点も課題だった。
これらの課題を解決するために、日本電子はデータ基盤の刷新を決断。「データ民主化によるデータドリブンな意思決定・企業経営を実現する」をゴールとして掲げ、次の方針を定めた。
日本電子が利用していたERPが更新時期を迎えた。従来の環境を長く維持していたため互換性や拡張性の制約が大きく、再構築せざるを得ない状況だった。同社はERP再構築と整合性を取るために、DWHの刷新を同時に行うことにした。
ERPの再構築プロジェクトと連携しつつ、DWH刷新を滞りなく進められるパートナーをどのように選ぶか。日本電子は複数のベンダーを検討してジールに決めた。山口氏は「われわれにはDWH製品の知識が足りなかったので、PoCを通じて製品やサービスの知識を深めたいと考えていました。ジールさんはベンダーのDWHやETLサービスの導入支援に豊富な実績があり、要望に真摯(しんし)に耳を傾けてくれるところを評価しました」と語る。
プロジェクトの責任者を務める山崎氏は、ロードマップを4つのフェーズで構成した。フェーズ1は基盤選定のPoC、フェーズ2は既存資産の移行を含むDWHの構築、フェーズ3はデータ連携の拡張、最終的なフェーズ4はAI活用とガバナンスだ。
山崎氏は「DWHのPoC計画は、当社がこれまでの導入プロジェクトで培ってきたナレッジに日本電子さんの要件を加味して素案を作成しました。特に課題として挙げられていた性能の検証に重点を置き、日本電子さんと内容を詳細に擦り合わせながらPoCに臨みました」と経緯を説明する。
いくつかの製品を比較検討し、DWHはSnowflakeの「Snowflake」、ETLはprimeNumberのクラウド型ETLサービス「TROCCO」を採用した。
「Snowflakeは大量のデータの処理でもレスポンスが安定していた点を評価しました。操作性が良いため学習コストを抑制できるところも魅力的でした」(山口氏)
ETLにTROCCOを採用した決め手は、既存業務との適合性の高さだ。「1回当たり100万〜200万件のデータのやりとりだけでなく、数千万件の大容量データ処理に耐えられることを確認できたのでTROCCOに決めました」(山口氏)
PoCではジールの課題解決力が発揮された。AWSのクラウドストレージ「Amazon Simple Storage Service」(Amazon S3)から大量のデータを転送した際、TROCCOの既存の機能では処理性能に課題が残ることが判明した。
しかし、ジールがprimeNumberに交渉したことで大量のデータ処理が可能な機能が短期間で追加され、日本電子の性能要件を満たすことができた。山口氏は「ジールさんから、必要があればベンダーと交渉や調整すると聞いていましたが、こんなに早く要望をかなえてもらえるのかと驚きました」と話す。この機能アップデートは日本電子専用ではなく、他のユーザーにも適用されている。
DWHとETLの選定を終えた日本電子は、構築フェーズに入った。今回のプロジェクトは、アジャイル的なアプローチを採用した点が特徴だ。ERP再構築とDWH導入を同時進行するために難易度が高く、扱うデータも膨大なプロジェクトでこの手法を採用した理由は何か。
山崎氏は「移行対象のアセットは約1300、周辺システムとのインタフェースは約1100に及びました。他ベンダーとの調整も必要だったため、従来のウオーターフォール型では計画が破綻(はたん)することが目に見えていました」と説明する。流動的な要素が多かったので大きな方向性を定めて微調整を重ねるアジャイル型が有効と判断した。
両社は週2回の定例ミーティングを設定し、課題や要望を速やかに共有する体制を整えた。「短いサイクルで振り返りと改善を繰り返すことで、課題やリスクを早期に洗い出せました。事前に対応方針を決めていたので迅速に対処できました」(山崎氏)
移行は、優先度が高いアセットから段階的に進めた。膨大なデータ資産の中からテーブル1000、ビュー300を新システムへの移行対象とした。
これまでDWHと連携しているのはERPだけだったが、新システムはTROCCOを使ってSalesforceやNotesも連携対象に含めて分析対象を拡張した。DWHで分析・加工してSalesforceに書き戻すリバースETL処理もTROCCOで実現した。山崎氏が開発テンプレートを用意して開発者による品質のバラツキを防いだことで、インタフェースの開発とテスト効率を向上させた。
注目点は、当初フェーズ4に位置付けていたAI活用を前倒しにした点だ。「AIブームが盛り上がり、現場から『AIを早く利用したい』という要望が多数寄せられたため、ジールさんに相談しました」(山口氏)。アジャイル的にプロジェクトを推進していたので計画の前倒しが実現した。
生成AIは、FAQのチャットbotや類似文書の検索といったナレッジの集約から着手した。システムは開発プラットフォームとしてLangGeniusの「Dify」、AIマネージドサービスにAWSの「AWS Bedrock」とAnthropicの「Claude Sonnet 4」、画像処理にGoogleの「Gemini 2.5 Flash」など複数のサービスを組み合わせた。疎結合アーキテクチャで構成することで、技術の進化が速いAIモデルの入れ替えに対応できるようにした。
山崎氏は「まずは短期で成果が見える取り組みから着手することを意識しました」と語る。優先度の高い資産から段階的に移行して成果を確認しながら次に進むことで、事業部門の理解と協力を得ることに成功した。
2026年5月に、本番環境への適用を控える日本電子。DWHの刷新によって、同社のデータ分析のパフォーマンスは向上する見込みだ。新たにSalesforceやNotesなどとも連携したことで全社を横断する分析基盤が整い、YOKOGUSHI戦略の実現に大きく近づいた。
日本電子は今後、IT部門向けのハンズオン講習を皮切りに事業部門も含めた人材育成に取り組み、データの民主化を拡大する計画だ。だが事業部門向けの分析用データを提供する仕組みの整備、セキュリティ対策やアクセス制御の強化、AIアーキテクチャのガバナンスといった課題も残る。生成AIをより活用するために、日本電子はジールと共にさらなる基盤整備に取り組む。
山崎氏は今後について、「いよいよ日本電子さんのデータ分析基盤は活用フェーズに入ります。AIやデータの活用をさらに前進させるには、メタデータの整理が不可欠です。今後はそこを重点的に支援したいと考えています」と話す。
山口氏はジールとのパートナーシップについて、「事業部門から次々に出てくる要望をジールさんが受け止め、実装に落とし込んでくれます。こうした要望を自由に言える関係が大切だと考えています」と語り、さらなる協働への意欲を示した。
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