BaaSなど新サービスの展開でさらなる成長を目指すドコモSMTBネット銀行。将来の顧客拡大を見据え、勘定系システムにもこれまでにない柔軟性や拡張性が求められている。そこで同行は勘定系システムのアーキテクチャを抜本的に刷新。3000万口座超への対応を可能にする次世代基盤構築プロジェクトの全貌に迫る。
金融業界のビジネス環境が激変する中、先進的な金融機関の間ではBaaS(Banking as a Service)などのデジタル化戦略で成長を目指す動きが増えている。顧客接点の多様化やトランザクションの急増に対応するため、膨大な処理負荷に耐え得る拡張性と新サービスを迅速に展開できる柔軟性を備えたシステム基盤の整備が急務だ。
この課題に正面から取り組み、勘定系システムの新アーキテクチャへの刷新やクラウド化を進めているのがドコモSMTBネット銀行(旧住信SBIネット銀行、2026年8月3日より社名変更)だ。勘定系更改プロジェクトをリードする相川真一氏が「AWS Summit Japan 2026」(2026年6月開催)に登壇して取り組みの全貌を語った。
ドコモSMTBネット銀行は、ネット専業銀行としてデジタルバンク事業やモーゲージローン事業などを展開している。成長の柱が、預金、融資、決済といったフルバンクの銀行機能を基盤として事業会社に提供するBaaS事業だ。現在は27社と提携して915万口座を突破するなど、右肩上がりで成長している。
2025年10月にはNTTドコモグループに参画し、約1億の顧客基盤データへのアクセスが可能になった。2026年8月に「住信SBIネット銀行」から社名を変更して、グループ内外とさまざまなサービスを連携する計画だ。
「今後、大きな顧客基盤を持つ提携先に銀行サービスを提供する可能性が大いに考えられます。さらなるAPI連携、AIを使った処理に伴う膨大なトランザクションの増加、口座数の伸びが予想されます」と相川氏は語る。
提携先の拡大による口座数の急増が見込まれる中、「システム側の制約によってビジネスの成長を止めることはできない」。そこで同行は勘定系システムを抜本的に刷新することを決断した。運用コストを削減しつつ、2028年1月の本番稼働時には3000万口座以上のデータボリュームに対応可能な次世代基盤を構築する。将来的には4000万口座以上への拡張も視野に入れている。
この高いスケーラビリティを実現させるアーキテクチャが「店群分割」だ。仮想支店を複数のグループ(店群)に分けて、それぞれにアプリケーションとデータベースを分散配置して処理負荷を分散する。
現行システムは「全ての顧客、支店、期間のデータを1つのデータベースで処理しています。口座やトランザクションの増加によって勘定系データベースがボトルネックになり、性能に影響が生じるアーキテクチャでした」と相川氏は説明する。
次期システムは、オンライン処理を接続するハブシステム(EAI)に店群の振り分け機能を実装して、店群ごとにアプリケーションとデータベースを配置する。今後、顧客や取引先が増えた際は、店群を水平に拡張することで単一のデータベースに負荷を集中させず、性能を落とすことなく多くの口座を処理できる。
次期システムを支える基盤は、オンプレミスからアマゾン ウェブ サービス(AWS)に移行した。
AWSを選んだ理由は3つある。1つは前述の顧客基盤の急拡大に柔軟かつスピーディーに対応できることだ。同行が想定した4000万口座以上のデータボリュームにも対応できる設計を評価した。運用コストについても30%削減できる見込みが立っているという。
2つ目は顧客ニーズの根底にある「安定稼働」だ。AWSなら全てのリージョンで3つ以上のアベイラビリティーゾーンを利用でき、東西マルチリージョンで高い可用性とレジリエンスを確保できる。
検討段階では東西マルチリージョンが両方ダウンする全面障害リスクへの懸念もあったが、AWSの専門チームと何時間も議論を重ね、物理面、運用面、リリースタイミングが分離されていることなどを細部まで確認しリスク水準はオンプレミスと同等だと評価した。
3つ目は社会環境の変化だ。人口減少やITエンジニアの不足や単価上昇が進む中、システム開発と運用の効率化が求められている。サイバー攻撃も激化しており、システムの脆弱(ぜいじゃく)性への対応も急がれる。そこで同行は、インフラ管理をAWSの豊富なマネージドサービスに委譲することを決めた。PaaS化やサーバレス化を推進して自社でパッチを適用する範囲を大幅に減らすことで、エンジニアのリソースをビジネス価値の創出に集中させる方針だ。
今回の刷新では可用性の向上も図る。背景には、2020年に同行が経験したデータセンターの電源障害がある。当時は災害対策発動の判断に4時間、切り替えに3時間を要して、長時間のサービス停止を余儀なくされた。
このときの教訓を生かして災害発生時の処理を見直し、現行システムは既に60分での復旧を可能にした。次期システムは東京と大阪のマルチリージョンで冗長化して、自動化や処理の見直しなどで目標復旧時間を30分に短縮する計画だ。
データベースもモダナイズする。EAIのデータベースを「IBM Db2」から「Amazon DynamoDB」に変更。勘定系処理のOSは「IBM AIX」から「Red Hat Enterprise Linux」に、勘定系の中核データベースは「IBM Db2 pureScale」からマネージドサービス「Amazon RDS for Db2」に移行する。
Amazon RDS for Db2の選定に当たっては、プロトタイプを作成して詳細に検証した。その過程で浮上したAWSへの機能改善の要望を解決するために利用したのが、米シアトルのAWS本社で行われる「EBC」(Executive Briefing Center)プログラムだ。
同行はAWSのサービス開発チームやIBMのグローバルDb2開発チームと直接議論できる場を持ち、課題を一つ一つ解決した。現在はAWS本社から専門担当者がアサインされ、優先的なサポート体制の下でプロジェクトを進めている。
大規模なプロジェクトを効率的に進めるため、開発と運用の両面で最新のアプローチも取り入れている。設計工程では「IBM Consulting Advantage」を利用して文言チェックなどを効率化。開発の単体テスト工程では「Amazon Q Developer」を利用した。「開発メンバーから生産性と品質の観点で効果があるとの声が届いており、定量評価でもコーディングや単体テストで19.4%の工数削減効果がありました」
結合テスト以降の工程に向けて、IBMのエンタープライズ向けAIコーディングエージェント「IBM Bob」と、日本IBMの大規模開発ノウハウを組み込んだコンテキスト標準ソリューション「AI Lifecycle Shared Engineering Artifacts:ALSEA」も導入している。テストケースの自動作成や品質評価を標準化し、さらなる生産性と品質向上を見込む。
運用サポート体制もAWSの最上位プラン「ユニファイドオペレーションズ」に移行した。特に高く評価するのが「IDR」(Incident Detection and Response)だ。以前は障害発生時に自社で検知・切り分けをしてAWSに対応を依頼していた。IDRならば障害発生から5分以内にAWSから連絡が来て、対応を開始できる。夜間などのコミュニケーションロスが解消され、復旧が格段に早くなる。
このプロジェクトを進めるには強力な伴走者が不可欠だった。ドコモSMTBネット銀行がパートナーとして選定したのが日本IBMだ。同行の創業時から勘定系を支えてきた実績、AWSに関する豊富な知見、手厚いグローバルサポートが決め手になった。店群分割のアーキテクチャも、金融系システムを知り尽くしたIBMの提案で採用した。
日本IBMはこの実績を踏まえ、2026年6月24日に新ソリューションを発表した。長年稼働してきたオープン系勘定系システム「NEFSS」をクラウド前提のアーキテクチャに刷新し、デジタルバンク向け次世代クラウド勘定系ソリューション「Digital Core Banking Library」として提供を開始した。拡張性と可用性を兼ね備えたデジタルバンクのシステム構築を支援する。
プロジェクトを伴走支援した日本IBMの瀧口健太郎氏は次のように語った。「私たちIBMは『世界をより良く変えていくカタリスト(触媒)になる』というパーパスを掲げて活動しています。技術の提供だけでなく、お客さまやパートナーの皆さまと共に変革を起こして、新たな価値を生み出すことを大切にしています。Digital Core Banking Libraryは、金融機関のお客さまとデジタルで新たな変革を起こすためのソリューションです。ドコモSMTBネット銀行さまのお取り組みに関心を持たれたら、ぜひお気軽に私たちまでお声がけください」
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2026年9月16日