フロンティアAIやAIエージェントを活用した攻撃により、古い入り口や未対応の脆弱性を狙う攻撃が高速化している。境界型防御だけに依存できず、パッチ適用も追いつきにくい中、いかに防御を再設計すべきか。
フロンティアAIやAIエージェントの進化は、攻撃者の手元にも及んでいる。脆弱(ぜいじゃく)性情報を解析して悪用コードを用意するまでの時間は短くなり、VPNや外部公開サーバ、移行の過程で残った例外的な接続など「使っていないが残っている入り口」も、人手とは比較にならない速さで探し当てられるようになった。
こうした中、ゼットスケーラーが催した「Zenith Live '26 Tokyo」(2026年9月15日開催)では、同社の三輪賢一氏(セールスエンジニアリング本部 プリンシパル セールスエンジニア)が、フロンティアAI時代に求められるサイバー防御の再設計について解説した。
三輪氏はまず、自身が経験した被害を紹介した。ホテルの会員ポータルを確認すると、3カ月前にポイントが海外航空会社のマイルへ複数回移行されていた。
侵入の起点は、会員サイトのパスワード再設定や変更通知が届くメールのアカウントだった。三輪氏はメールに多要素認証を設定していたが、その対象外の古いPOP(メール受信方式の一つ)の経路が残っていた。攻撃者はこの経路からメールボックスに入ってパスワード変更の通知を削除していたため、被害に気付けなかった。
「使われていない古い経路が攻撃表面になります。『通知で気付ける』という前提も、通知そのものを消されれば崩れます」
企業環境でも旧VPN、例外的に残された公開サーバ、認証強化の対象外となった古いプロトコルは、攻撃者にとって有効な侵入口になり得る。
三輪氏は、AIによって攻撃が「速く・広く・見えにくく」なると整理した。防御側の課題は、攻撃者の探索能力の向上、公開情報から悪用までの時間短縮、横展開や回避・隠蔽(いんぺい)の自動化、人手運用の限界だ。
その影響が分かりやすく現れるのが、修正パッチや脆弱性情報の公開後、企業が適用を終えるまでの間を狙うN-day攻撃だ。攻撃者はAIで差分解析や悪用準備を加速できるが、企業は影響評価、検証、本番展開といった工程を省略できない。
「AI時代には、パッチはあるものの企業がまだ適用できていない期間が狙われます。だからこそ、どの脆弱性から対応するかという優先順位付けと、適用完了までどう守るかが重要です」
同じ構図は境界型防御にも当てはまる。VPNや古い仕組みが重なるほど接続経路は複雑化して、運用コストをかけてもリスクは残る。
「AIは、境界型防御だけに依存するモデルの限界を一気に顕在化させます。これからは入り口を強くするだけでなく、入り口の数そのものを見直す必要があります」
では、防御をいかに再設計すべきか。三輪氏は、攻撃リスクを「到達可能性」「悪用可能性」「侵害後の影響」の掛け算として捉え、3つを並行して下げることが重要だとした。それぞれに対応する防御の方向性は、「届かせない」「使わせない」「広げない/検知する」に整理できる。
先進企業はマイクロセグメンテーションやリスクベースの脆弱性管理、おとりを使って攻撃者をあぶり出すデセプションなどに取り組んできたが、多くの企業は個別対策による部分最適にとどまっている。
「フロンティアAIによって、攻撃の各段階が自動化・高速化し、人の運用速度を超えます。3つの防御をバラバラではなく一体で回し、AIエージェントも含めて誰が何にアクセスでき、何を実行できるのかを制御する。これが標準防御になります」
この考え方は、同社独自の整理ではない。CSA(Cloud Security Alliance)やSANS Institute、OWASP Gen AI Security ProjectなどによるCISO向け緊急提言「Mythos-ready」は、AIを使った脆弱性の発見やエクスプロイト開発の加速に警鐘を鳴らし、企業が優先すべき11のアクションを示している。
国内でも、金融庁と日本銀行がフロンティアAIを踏まえた金融機関向けの対応を要請している。三輪氏は、この11のアクションを3つの防御領域に対応付けて解説した。
「到達・悪用・影響」の3つを同時に下げる防御策。11のアクション(PA1〜PA11)の分類はあくまで主領域へのマッピングで、実際は1つのアクションが複数の領域にまたがっている(提供:ゼットスケーラー)《クリックで拡大》1つ目の「届かせない」で重要なのは、ネットワークに入れるのではなく、必要なアプリやサービスだけに接続させることだ。VPNや外部公開サーバ、セキュリティ境界を経由せずにインターネットに接続する環境は、攻撃対象が増えやすい。
三輪氏はこれを電話にたとえた。番号が分かれば誰でもかけられる電話には迷惑電話や詐欺のリスクがあるが、登録外の番号を全て拒否すれば必要な連絡も受けられない。
「必要な連絡は受けられるようにしつつ、誰でも到達できる情報や経路を減らす。それが現実的な到達可能性の低減です。企業の防御も同じで、全ての通信を受けてから見分けるのではなく、不要な経路や見えていない経路を減らす必要があります」
Zscalerでは「Zscaler Zero Trust Exchange」が通信の間に入り、攻撃者から見える公開面を減らす。インターネット、SaaS、社内アプリのいずれも、認可されたアプリだけに接続させることで、攻撃者が探索できる対象と到達できる経路を小さくする。
2つ目の「使わせない」は、悪用可能性の低減だ。講演では2025年のCVE(共通脆弱性識別子)は約4.8万件に上り、2026年には7万件規模になるとの見方も示された。悪用が確認された脆弱性の約3割は、CVEの公開時点ですでに攻撃に使われていたという。人が1件ずつ確認して順に直す運用は、もはや間に合わない。
そこで同社が提示するのが「Agentic SecOps」だ。Zscalerのテレメトリーに加えて、IdPやEDR、脆弱性スキャナーなど顧客環境のシグナルをデータレイクに取り込む。その上で資産、ユーザー、脆弱性、設定不備、業務上の重要度などの関係を「コンテキストグラフ」として整理して、AIエージェントがリスクの文脈化と運用判断を支援する。
企業全体のリスクを可視化するのが「Risk360」だ。170以上のリスク要因を毎日評価し、外部攻撃面、侵害、横展開、データ損失の4領域ごとに0〜100のスコア(100に近いほど対策が進んでいる)で示す。外部公開面の削減や最小権限化など打つべき対策も推奨するため、影響度の高い項目から優先的に是正できる。
個々の脆弱性の優先順位付けを担うのが「Zscaler Exposure Management」だ。CVSS(共通脆弱性評価システム)が同じ7.0の脆弱性でも、置かれた状況によって緊急度は変わる。これは、脆弱性対応を担うVulnOpsと、アラート対応を担うSecOpsを同じリスク文脈でつなぐ考え方でもある。
「EDRが稼働して開発環境内に限定された端末であれば、リスクを低く評価できる場合があります。一方で外部から到達できる、既知の悪用手法がある、機密データや個人情報に関係している、これらが重なれば優先度を引き上げて対応すべきだと判定できます」
3つ目の「広げない/検知する」について、三輪氏は「Zscaler Private Access」(ZPA)によるセグメンテーションを取り上げた。VPNからZPAへ移行しても、アプリケーションセグメントがまとめられていれば、財務や人事など特定部門向けのアプリに全社員がアクセスできる状態が残る。この状態で1人の認証情報が侵害されると、被害が及ぶ範囲(Blast Radius)が広がる。
1万人の環境で、あるアプリ群に全従業員がアクセスできる状態から必要な2000人だけに限定できれば、侵害時の影響範囲を80%削減できる。ZPAは通信ログと既存の設定を基に、機械学習がアプリケーションセグメントを推奨する。講演では、推奨されたセグメント作成案により、攻撃対象領域を97〜98%削減できる見込みの例も紹介された。
ただし、区画化だけでは侵害に気付けない。三輪氏は、有毒ガスを察知するために炭鉱で飼われたカナリアを引き合いに、その役割を担うのが「Zscaler Deception」だと説明した。端末やActive Directory(AD)のユーザー情報、アプリ、認証情報などに、正規の資産を装ったデコイ(おとり)を配置する。
「正規ユーザーが触れる理由のないデコイに接触した時点で、ノイズの少ない高確度のアラートとして検知できます。AIで攻撃が高速化するほど、攻撃者の探索行動を逆手に取り、早期の検知につなげられます」
検知後はEDR連携による端末隔離、「Zscaler Internet Access」やCloud Firewallによる通信遮断、ZPAによるユーザーアクセスの遮断やセッション失効といった封じ込めにつなげられる。さらに「Agentic SOC」は、Zscalerの通信データやEDR、IdPのログなどを組み合わせてアラートを文脈化し、自動でグルーピングする。デモ環境では、1万件規模のアラートを10件程度のインシデントに集約して、98%以上のアラート削減を実現する例が示された。
件数を減らすだけではない。AIがアラートの意味付けやグルーピングの根拠、優先判断を支援し、AIエージェントによる調査結果や対処方法もプレイブックとして表示する。
最後に三輪氏は、優先すべき3つのステップを示した。1つ目は、外部から見える資産と、そこに到達できる経路の棚卸しである。2つ目は、侵入後の横展開を前提としたアクセスの見直しで、ZPAによるマイクロセグメンテーションやDeceptionが有効だという。3つ目は、脆弱性対応(VulnOps)とセキュリティ運用(SecOps)における優先順位付けの再設計だ。
Zscalerの利用企業なら、Exposure Managementでこの運用を始められる。
「全てを一度に進める必要はありません。本日、どこから始めるかを決めてください」
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提供:ゼットスケーラー株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2027年1月4日