エンタープライズ:今年はブロードバンドインフラの「利用面」に目を
ブロードバンドが日常生活のみならず、企業ビジネスにおいても必須のツールになるというかつての予言は成就された。ではこのツールをわれわれは、どう使いこなしていくべきか。

e-Japan構想が立ち上がった当時は、いかに高速なネットワークインフラを構築するかが第一の課題として挙げられていた。この1年でその目標はかなりの程度達成され、家庭のみならず企業においてもさまざまな形で利用されている。次は、それをうまく使いこなす番だとNTT コミュニケーションズの野村取締役は語る。

ITmedia まず2003年を振り返ってみて思い起こされる事柄は?

野村 VoIP、企業向けとなるとIPセントレックスサービスですが、これが主要な企業で利用されるようになってきました。NTT Comとしてサービスを開始したのは2003年春ですが、既に200社、内線を中心に10万回線分が利用されており、標準的なサービスになってきたのではないかと感じています。

ITmedia ブロードバンドという言葉が当たり前になりましたね。

野村 ええ。昨年、ブロードバンドのユーザー数は1000万を超えました。その意味で、IPをベースとしたブロードバンドインフラが確立した一年だったのではないかと考えています。これからは、このインフラをうまく使い、利用していくためのサービスがさまざまな形で登場してくると思います。

ITmedia 他のネットワーク技術についてはいかがでしょう?

野村 例えば、ブロードバンド回線を集約する役割も担う広域イーサネットサービス。これは2003年も伸びましたが、今年はさらに成長すると期待しています。またWi-Fi、いわゆる無線LANですが、セキュリティ上の問題などからあまり企業内では利用されていません。ですがそれも、技術的な進展によって解決に向かっています。これも今年は本格的に導入されていくと思います。特にWi-Fiは、オフィスでの仕事のやり方を変えていく上で重要な技術です。

ITmedia とおっしゃると?

野村 従来は社員一人ひとりに個人机を与えていましたが、それを取り払って共有机だけにしてしまう。社員にはキャビネットと個人用の電話、あとは個人用のPCを与えて空いているところで仕事をしてもらい、必要に応じて必要な人が集まるという形です。こうした様式を考えていくと、やはり無線LANが便利ということになります。


IPセントレックスはますます普及が進み、企業にとって必須のツールになると予測する野村氏

 並行して、各部門ごとにばらばらにあったサーバを集約し、ストレージサービスも利用して、一元的に管理できるようにする。社内のあちこちに分散していたデジタルアセットはすべてそこに保存されるわけで、高度な情報共有が可能になるだけでなく、セキュリティ確保の上でもメリットがあります。またVPNアクセスを活用することで、出張先であろうと外出先や家であろうと、社内に安全にアクセスできるようになります。会社の内でも外でも同じように情報にアクセスし、どこでも仕事を進められるようになるのです。これは企業内のコスト削減に役立つだけでなく、さらなる情報の共有化が図れるという意味で有用だと思います。特にブロードバンドの普及もあって、今年は在宅勤務やサテライトオフィスといったワークスタイルの変化が現れてくると思っています。

ITmedia 受け入れる企業側の文化的な抵抗はないのでしょうか?

野村 「こうしなければならない」という使命感よりも、より便利で自由なコミュニケーションを求めた結果、自然な流れでこうした形に行き着くケースが多いようです。このやり方のほうが仕事をしやすいじゃないか、というわけですね。

ITmedia さまざまなセキュリティ上の問題も浮上しています。フリーオフィス制でかえって悪化しませんか?

野村 自由勝手にPCを持ち出されるような状態であれば、セキュリティなど実現できません。大事なことはルールをきちっと定めておくことです。デスクトップマネジメントを行い、接続してもいいものとだめなものを分け、必要ならば認証技術を組み合わせる、といった手立てを取ることが前提です。こうしたルールさえ確立しておけば、かえって確実にセキュリティを管理できると思います。

ITmedia 技術以外に業界再編という流れもありました。インターネットイニシアティブ(IIJ)がNTTグループの傘下に入りましたね。

野村 いずれにしても大事なのは、お客様の保護です。今後発展していく分野に向けて、今あるものを結集し、よりよいサービスを提供できるようにしていきたいと考えています。

ITmedia では、これからの1年で注目されるべき技術やサービスにはどんなものがあるでしょう?

野村 まず、IPセントレックスが挙げられると思います。今年はいよいよ本格的な導入が進むでしょう。それも、単なる電話の置き換えではなく、メールやWebをも統合したユニファイドメッセージングという新しいコミュニケーションを可能にすると思います。これにWi-Fiを加えれば、モバイルIPセントレックスという形の進化もありますね。また、映像系サービスを組み合わせたテレビ会議、ビデオフォンなどの取り入れも考えられます。

 このサービスは標準的なオフィスツールとして浸透していくと予想しています。そして、これを実現するには広域イーサネットやブロードバンドといったインフラが前提になります。

ITmedia バックボーン側もますます増強が迫られますね。

野村 帯域をさらに増強していくことはもちろんですが、ブロードバンドをいっそう利用しやすいものにしていくサービスが求められると考えています。トラフィック量だけではなく、どのように使ってもらうのかという利用面に踏み込んで、品質やカスタマサービス、価格、そして機能にも優れたサービスを提供していきたいと考えています。

 その意味では、いわゆる冗長性も重要です。重要な情報とそうでないものを区別し、IPネットワーク上のコントロールやトラフィックコントロールを信頼性ある形で実現し、災害などアクシデントが起きたときの対処を行えるような仕組みが、だんだんに出来上がりつつあります。

ITmedia 企業にとってIPインフラの役割はさらに重くなりますね。

野村 閉じた社内だけで見れば、IPはコスト削減によるデフレ効果しかもたらさないかもしれません。しかし、グローバルマーケット全体で見ると、市場自体がどんどん拡大しており、ボリュームも売上も増加している。大企業だけでなく、これまで参加しにくかった小さな企業もどんどん加わっています。グローバル化は1つのカギでしょう。そこに出て行くには、情報を共有し、協調して仕事を進めていける環境が必須のアイテムになります。それは既に、インターネットという形でそこにあります。

2004年、今年のお正月は?
年末年始は数日間、温泉につかってゆっくりしてくるという野村氏。さすがに宿はIP Reachableな環境ではないが、宿の検索には「Webを活用しましたよ。“海の見える宿”という具合に写真も見れますしね」(同氏)

2004年に求められる人材像とは?
変化に強い人こそ、これから求められる人材だと思います。ITの分野では、蓄積したスキルは非常に貴重なものですが、それゆえに、次のことに取り組むのに抵抗が生じがち。しかしそれをやっていては、変化から置いてけぼりをくらってしまいますよね。新しい環境に対し、自らを進んで変化させるような行動様式、考え方が求められていくと思います。

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NTTコミュニケーションズ

[聞き手:高橋睦美,ITmedia]