法令改正、Vista登場、2007年問題、勝機は続々とやってくる:製品市場地図を読む「座礁しないERP」(2/2 ページ)
業務アプリケーションの買い替えポイントは、国の制度改革などで会計基準が変更になったときのカスタマイズが容易かどうか、そして企業規模が大きくなったときのシステム変更がスムーズに行えるかどうかだ。
自慢の操作性を武器にLAN対応版に参入
もう一つ、業務ソフトの市場で注目される製品を見てみよう。
これまでSOHO〜小規模企業をターゲットとしたスタンドアロン版に注力してきた弥生は、2005年12月に「弥生会計NE 06」、06年3月に「弥生販売NE 06」と、2種類のLAN対応版を新たに発売した。
「これまでの弥生シリーズが、おおむね30名以下の事業所をターゲットとしていたのに対し、弥生NEでは最大300名くらいの中規模事業所を対象としています」と、弥生 営業本部 営業部 部長の権田博亮氏が言うように、これまでの弥生製品とはターゲット層が異なり、案件あたりの金額も桁違いだ。当然、販売方法も変わってくる。
「8万4000円の弥生会計プロフェッショナルなら、導入コストを極力抑えるためにパッケージのまま使っていただくのが一番だと思っています。しかし、弥生NEを導入する際には、大きければ300万円くらいの案件になる可能性もあります。この規模になると、やはりカスタマイズを行うケースが増えてきますね」(権田氏)
弥生NEの導入には、サーバなどのハードウェア費用や、導入サービス費用がつきものだ。スタンドアロン版のパッケージソフトならそういった付帯費用は不要だったから、量販店の店頭に箱を並べて販売できた。しかし今度の弥生NEは手を動かしてくれる販社が欠かせない。
もちろん、そういった付帯費用が「パートナーのビジネスチャンス」(権田氏)になると考えているのは他社と同じだ。弥生は、まず以前から付き合いのあるビジネスパートナーへの支援策を展開している。
「スキルアップのための教育に力を入れつつあります。そして、カスタマイズを容易にするため、パートナー向けの開発ツールキットを用意しているところです」と権田氏は説明する。
ユーザー離れを防ぐ目的もある
後発という不利はある。市場には「スタンドアロン版の弥生」というイメージがあり、それを払拭すべくさまざまなプロモーション手法を試しているという。弥生はなぜ、この困難なLAN対応版に取り組んだのか。
「弥生シリーズは、多くのユーザーから使い勝手を高く評価していただいています。しかし、そのユーザーが事業を拡大していくと、いつか弥生から離れざるを得ない時が来てしまいます」と権田氏は言う。たしかに、市場の将来性で言えばスタンドアロン版よりLAN対応版だ。使い勝手で気に入ってくれている顧客がいるのだから勝ち目もある、という判断なのだろう。
「弥生シリーズの使い勝手は弥生NEもそのまま引き継いでいますから、現場の方が実際の製品に触って評価検討を行うなら、我々としても自信があります。今使っている他社製品に不満をお持ちのユーザーは少なくないようです。そういったユーザーは、タイミング良く提案すれば、乗り換えてくれる可能性が高いでしょう」(権田氏)
今後も続く買い替え需要
乗り換えが期待できるのは、どんなタイミングか。乗り換えないまでもバージョンアップが必要になるのは法令や制度の改正があったり、OSが変わるといった時期だ。
改めて弥生NEの発売時期を考えると、06年5月の“新会社法”施行にはギリギリだった。検討やシステム構築に要する期間を考えれば、むしろ間に合わなかった可能性もある。
しかしWindows Vistaの登場には余裕を持って間に合う。オフコンエンジニアの大量退職が始まるという2007年問題も迫っているから、これまでずっとオフコンを使い続けてきた企業も、さすがにそろそろオープン系の業務アプリケーションへの移行を考えるかもしれない。金融商品取引法の施行も迫る。中小規模企業は直接の影響を受けないが、同法の対象となる大企業と取引があれば無縁では済まされない。
このように列挙すれば分かってくるだろうか。業務アプリケーションベンダーにとって、乗り換え需要を狙えるチャンスというのは、今後もずっと続くのである。ベンダーの競争も、やはり変わらず続いていくことだろう。
関連記事
- 「ウチは特殊だから」という偏見を捨て見直してみる――パッケージ製品の底力
ERPを含む業務アプリケーションの市場では、長年にわたって複数のベンダーが入り乱れ、激しい競争を繰り広げてきた。各ベンダーの製品戦略を追いながら、中堅・中小企業が取り組む「全体最適」の実現のヒントを探る。 - 「今週は2時間だけください」――社内スタッフを巻き込むテクニック
ERP導入など、IT導入の際、現場各部門のスタッフの協力は欠かせないが、スケジュール管理など明確にしないと「総スカン」を食うことになる。そうならないためのテクニックとは? - 社長それは無茶です!――コンサルが指摘する「ほかではそんなことしてません」
中堅・中小企業で、トップがERPを導入しようとしたとき、それに真っ向から反対できる人はほとんどいない。こういうときこそ、外部のコンサルタントの力を借りるべきだが、なかなか良いコンサルタントがいないという。本当にそうですか?本気で探しましたか? - 「その機能を追加したら100万円かかります」――費用対効果にはコミットメントを
海外生活サポート事業で順調な成長を続けるラストリゾートは、新サービスの立ち上げは1カ月が勝負だという。同社は現在ERPシステムを構築中だ。猛スピードで走るベンチャーを支える情報基盤とは? - パッケージ導入の常識を覆す――ボトルネックから突破口を切り拓く!
海外生活サポート事業で順調な成長を続けるラストリゾート。同社は現在ERPシステムを構築中だ。業務の「入り口」から「出口」までを網羅する欲張りなシステムはいかにして発案されたのか。 - ERP導入に復活を賭けた老舗企業――在庫3分の1減、売上げ15%増への執念
中堅・中小企業にとって、ERP導入は容易なことではない。しかし、システム導入によって悪環境から立ち上がった企業がある。迷走状態の現場を救ったERPの威力とは? - 座礁しないERP導入:中堅・中小企業の泣きどころ
ERPシステムを「検討すれど導入せず」という企業も現実にあり、目先の導入効果ばかりを狙うぐらいなら、最初からERPはあきらめたほうが良いという専門家の意見もある。今回は中堅・中小企業ならではの事情について考える。 - 座礁しないERP導入:目先のコスト削減を最終目標にするな
経営の全体最適を目指し、中堅・中小企業でもERP導入は進んでいる。しかし、導入を断念したり、導入されてもフル活用とは程遠いというケースもあるようだ。こうした結果に至る原因を探ってみた。 - 時間単位、分単位での生産計画も可能に、富士通とグロービアが「glovia.com」新版
- 「Apex」はSalesforce.comの強力なドライバとなる
- 「SOAはもうビジョンという段階ではない」とSAPのスナーベGM
- SAPとデルが中堅/中小向けERPで協業、パートナー会も設立へ
- 適用範囲の分析で確度の高いERP導入プロジェクトを支援、日本IBMら
- OfficeならERPも簡単?――SAPとMSが試みる基幹システムの発想転換
- 経営戦略なきところにIT戦略なし1
- 【特集】座礁しないERP導入
Copyright© 2010 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.