いつが買い時? 標準化に向け加速する「11n」の実力:無線LAN“再構築”プラン(3/3 ページ)
最大600Mbpsの通信速度を実現するIEEE 802.11nは、次世代無線LAN規格の最右翼にある。既存の無線LAN環境を激変させるポテンシャルをも持つ11nの抱える課題、そしてその可能性を探る。
仕様が固まるまで待つ、が基本だが……
このように標準化に向けた作業が急ピッチで進んでいる11nだが、実際にエンタープライズで11n製品を導入する時期は一体いつなのだろうか? 「最終仕様が固まるまで待つのがベスト。しかし、企業によっては事情も異なるため、それまで待てないこともあるだろう」と話すのは、無線LANのチップセット設計を手掛けるアセロス・コミュニケーションズ執行役員 戦略マーケティング担当の大澤智喜氏。
その場合に11nを導入する「きっかけ」となる時期が何度か訪れるという。前述のように現行の電波法では、国内で利用できる帯域幅は20MHzに規制されている。ただし、「5GHz帯において40MHzの帯域幅を開放する方向で総務省が動いている」(大澤氏)。このため、2007年の春ごろには少なくとも5GHz帯において40MHzの帯域幅も利用できるようになる見込みだ。したがって、従来の20MHz幅を運用しながら、新しい40MHz幅のシステムへの準備ができる。MIMOの多重化に加えて、1チャンネルの広帯域からの高速化が可能になる時期だ。
もう1つは、2007年半ば以降。Wi-Fiアライアンスで認証が始まり、各社での相互認証が保証される製品が出回る時期だ。「Wi-Fiアライアンスで認証が始まればマーケット共通の利益にもつながる。はっきりとは言えないが、このレベルまでくればファームウェアでのアップグレードもほぼ可能になるだろう」(大澤氏)。
この時期に発売される製品であれば、ファームウェアのアップグレードによる対応ができる見込みができ、あとのトラブルもなくなるはずだ。そして最後が再来年の春ごろ、最終仕様が固まったあとの時期となる。この点について、エアゴーの高木氏も次のように述べている。
「11nの標準性能という意味では、できればWi-Fi認証開始後の来年6月以降がいい。事前に購入し、一部の機能についてはあとでファームウェアをアップデートするという手もある。ただし、40Hzモードなどの機能は現行の電波法に抵触するので、総務省が開放したあとに、認証の取り直しが必要となるので注意が必要。また、送信ビームフォーミングやカバレッジを広げるSTBCなどの技術は、2008年春ごろのIEEEの最終仕様を待たなければならない。この段階で、Wi-Fiアライアンスは最終の11n認証をスタートさせる。11nに関するWi-Fiアライアンスの2段階の認証方式を、11iの時のWPA/WPA2と同じアナロジーでとらえる人もいる」
また5GHz帯において新たに帯域が開放され、無線LANで合計19チャンネルが利用できるようになる予定もある。現行の8チャンネル分の帯域が、一気に11チャンネル分も増えることになるのだ。
「これは無線LANの品質面で大きく効いてくる。QoS(サービス品質)機能でいくら優先制御をしても、肝心の部分で干渉を起こしていたりすると意味がなくなる。チャンネルが増えることでさらに通信が安定するため、それがQoSにも効いてくる。チャンネル数の増加は、今後の無線LAN設計にも大きく影響してくる」(大澤氏)という。
2007年半ば以降、Wi-Fi認証を受けた11n製品が出そろい始めれば、無線LAN環境が大きく変わるだろう。もし最大300Mbpsに対応した製品が出てくれば、40MHzの帯域幅では最大600Mbpsでの通信も可能になるかもしれない。このレベルの製品がいきなり出てくることはないだろうが、いずれにしても11nのスピードは従来のレガシー無線LANのそれをはるかに凌駕するものだ。公衆無線LANサービスを提供する事業者が急速に11nへの移行を展開していく可能性もある。11n製品の登場は、2007年のワイヤレスブロードバンド市場において台風の目になりそうだ。
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