“ロボット屋”がつくる無線センサーネットワーク:次世代ITを支える日本の「研究室」(3/3 ページ)
産総研は、100個以上のセンサー群を無線でつなぎ、環境情報を効率良く、低コストで収集するワイヤレスセンサーネットワークを開発した。これまで市場が冷え込んでいた同分野に光明を見出せるとして注目を集めている。無線ノードとロボット開発用ミドルウェアを融合するという、同研究所の画期的な取り組みを紹介する。
センサーネットは人が抜けた状況をバックアップする技術
これらの技術が進展したことと、需要がうまくマッチし始めていることが、センサーネットワーク技術の現状といえる。そのため、世間で耐震偽装問題がクローズアップされる中、センサーを建築物に中に取り入れる要望も急増しているという。例えば、人手の掛かる橋梁の保守・メンテナンスや、人が入り込めないプラント内部のモニタリング、オフィスの入退室管理などでの利用が期待されている。
さらに酪農関係では、乳牛の発情期をセンシングすることで搾乳に最適なタイミングを図り、牛乳の生産性を向上する用途や、BSE対策における食肉牛の体温管理などに導入が検討されている。
特に2007年以降、団塊の世代が大量退職することにより、プラントの安全が持続できなくなる問題も顕在化するといわれている。ベテランの管理担当者が、五感で判断していた問題のかすかな「兆し」を早期発見していたことで、これまでは大規模な事故を未然に防止していた面があった。また、現在稼働している現役のプラントの多くがバブル崩壊以前に建設されたもので、バブル崩壊後は新規に増設する予算や大規模にメンテナンスする予算もなく、だましだまし使ってきた現実がある。その技術者が抜けてしまうと、突然のシステムダウンや大規模なトラブルに発展する可能性が増える。
そこで、プラント全体に分散配置したセンサーをネットワーク化し、毎日モニタリングすれば、管理者は事態の予兆に気づくことができるようになる。あるプラントでは、年間の保守メンテナンス費用が1億円程度掛かるというが、ひとたび事故が発生すると、1日で数十億の費用が掛かってしまうケースもある。
大場氏は、「今後は企業もプラスの利益を増やすより、マイナスのダメージを減らすことが重要となる。それが企業の利益を守ることになり、また社会的な責任を取ることにもつながる。センサーネットワーク技術は、最先端のテクノロジーというよりも、人が抜けてしまった状況を陰ながらバックアップする技術だ。それゆえ、必要性はより増しているといえるだろう」と話す。そして同氏は、一度瀕死の状態にまで至ったセンサーネットワークの市場を地道な努力で盛り上げることが、産総研の使命だとも述べている。
ロボットの研究を進める大場氏たちの研究チームは、センサーネットワークにその概念を持ち込むことで、効率よくシステムの構築ができることを実証した。そして次回は、大場氏が考えるロボットのあるべき姿、そして「ユビキタス・ロボティクス」とは何かについて紹介する。
関連記事
- 次世代ITを支える日本の「研究室」
本特集では、独自の視点から国内有数の研究組織、企業の研究部門に突撃取材。「すごそうだけど、いまいちよく分からない」ホットでクールな研究テーマをキャッチアップし、未来の技術がもたらす情報技術への関連性を解き明かす。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.