空間をロボット化するユビキタス・ロボティクス:次世代ITを支える日本の「研究室」(3/3 ページ)
産総研はロボット制御の研究を応用することで、大規模な無線センサーネットワークを低コストで構築した。その土台には、空間そのものがロボットになる「ユビキタス・ロボティクス」技術が使われている。
RTミドルウェアが国際標準仕様案に採択
そして、ロボットビジネスには標準化が不可欠だ。産総研が開発したRTミドルウェアには、業界からも大きな期待がかけられている。
RTミドルウェアは、ロボットシステムの機能要素(センサー、サーボ、モーターなど)の通信インタフェースを標準化して、ユーザーのニーズに合わせたロボットシステムを容易に構築するための基盤技術である。2006年9月に、米国アナハイムで開催されたソフトウェア関連技術の標準化を推進する非営利国際標準化コンソーシアム、OMG(Object Management Group)の技術会議において、RTミドルウェアをベースとしたロボット用ソフトウェアのモジュール化に関する国際標準仕様(原案)がOMG標準仕様案として採択された。大場氏によると、「ロボット関係のミドルウェアとしては第1号となる」ものだという。
今回採択された標準仕様に準拠したソフトウェアを開発することで、音声認識、画像認識、位置認識などのさまざまな機能モジュールの標準インタフェース仕様の枠組みが統一され、ロボット用モジュールとしての相互運用性が高まる。将来的には、異なる企業が開発したモジュールを組み合わせて、ロボットシステムが容易に構築できるようになるという。いわば、ロボット版USB仕様のようなもので、ユビキタス・ロボティクス実現への大きな1歩を踏み出した形だ。
ナノテクやバイオ技術者もロボットを開発すべき
ただ、ロボット市場はパソコンほど成熟しておらず、ファナックや安川電機などの産業用ロボットが市場の大部分を占める。しかも、彼らは独自のミドルウェアを持ち、デバイスメーカーもそれに準じることで、閉じた世界でビジネスが形成されている。「今後パソコン業界のようにロボットの標準規格が進めば、ベンチャーや中小企業にもロボット市場への参入機会が増え、さまざまな関連技術を開発できるようになる」と話す大場氏。
またその流れは、ほかの広い産業にも拡大していく。ロボット開発は、異分野から影響を受けたり発想のヒントをもらう場合が多いからだという。むろん最終的にはロボットを実現することになるが、その過程ではあまりロボットを意識しない。例えば、映画「ターミネーター2」に登場したT-1000(ロバート・パトリックが演じた液体ロボット)のような発想で、ナノテクノロジーやバイオテクノロジーなどの分野の研究者がロボットの開発に興味を持ち、持てる知識をロボットの開発に応用できる方が、新しいフィールドを開拓できるのかもしれないと大場氏は可能性を語る。
今後、ロボット技術の進化とともに、標準化や安全面をクリアしながら、私たちが生活環境の中で無意識にユビキタス・ロボットを利用する未来もそう遠くないだろう。
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