身近な楽曲に情報を埋め込む音のQRコード――音響OFDM:次世代ITを支える日本の「研究室」(3/3 ページ)
NTTドコモが開発した音響OFDMは、例えば携帯電話をスピーカーにかざすだけで簡単にサイトへアクセスできるなど、身近な音楽を媒体に情報通信する技術だ。携帯電話では赤外線通信やQRコードなどが主流になる中で、音響OFDMを開発した狙いはどこにあるのか。
ユーザーへの周知を進め新たなニーズを発掘する
すでに述べたが、同技術の用途は幅広い。例えば、テレビCMではURLが掲載されることも多いが、URLを短時間に覚えるのは難しく、かといってWebブラウザでアクセスするには面倒な入力作業が必要となる。しかし同技術を用いれば、携帯電話をテレビのスピーカーにかざすだけで簡単にサイトへアクセスでき、ひいては見込み顧客をサイトで誘導することが可能になる。また、店舗などでは特売品などの情報をBGMとともに配信するといった使い方も考えらる。顧客に何らかの情報を届けたい企業にとって、さまざまな面での活用が見込めるわけだ。
音響OFDM技術の用途開拓に携わる、同社サービス&ソリューション開発部サービス開発推進担当課長の堀口賞一氏は「1対多で、広く情報を届けられる点が大きなメリット。街中には音楽があふれており、音楽に関心を持った人に対して情報を広く配信できる。加えて、入手したURLを使って携帯電話でインターネットにアクセスしてもらうことで、リアルとバーチャルの世界をシームレスにつなげることも可能になる」と強調する。
ただし、同技術が普及する上で課題もある。その1つとして堀口氏が挙げるのが、認知度にまつわるものだ。同技術は類似したものがないことから、企業/ユーザーの双方にとって、そのメリットを一から説明することが不可欠となる。
「まったく新しい技術であるため、これから周知活動に相当力を入れなければならないだろう。ただし、すでに企業からの問い合わせもいくつか寄せられている。“音のQRコード”として、今後も引き続き広報活動に注力していきたい」(堀口氏)
音響OFDM技術をライセンス提供、ビジネスモデルの確立へ
一方で、音響OFDM技術には今後に向けた明るい材料もある。
携帯電話では現在、音声を伝達するため、8kHzのサンプリング周波数を用いているが、同技術はこの程度のサンプリング周波数では伝送能力を十分に引き出すことができない。それについて松岡氏は、「現在、デモンストレーションなどではより高い周波数でサンプリングを行っている。技術的な特性を踏まえれば、16kHzの周波数帯を使うのが理想的。Windows Mobileなどのスマートフォンであれば、44.1kHzサンプリングの録音ができるので、問題なく利用可能」と話す。
これに対し、欧州で現在利用されている携帯端末では、音声伝達のために16kHzのサンプリング周波数を用いている。「ハードウェア面での対応はそれほど難しくはない」(松岡氏)とのことから、携帯電話の高機能化がさらに進展する中で、近い将来、16kHzに移行することも十分に考えられる。そうなれば、十分な伝送能力を確保し、使い勝手を高めることもできる。
「現状ではノイズの影響を考慮するとともに、音質を下げないために高音部分を情報の伝送に使っている。しかし、さらに低音部分まで使うことで、伝送能力は1kbps以上まで高められる。楽曲を有料で配信している企業であれば、プロモーションとしてあえて音質を下げて多くの情報を伝えたいというニーズもあるはず。さまざまなニーズに沿うように、あらゆるサービスの提供形態を考えたい」(堀口氏)
同社では今後、音響OFDM技術のライセンスの提供も視野に入れ、ビジネスモデルの確立を図る計画。無意識に携帯電話をかざして街中の音楽から情報を得る日も、さほど遠くなさそうだ。
関連記事
- “音のQRコード”音響OFDM技術をデモ
- “神業”の実現目指す量子コンピュータ研究の今
RSA暗号を無効化するほどの高速処理ができる「量子コンピュータ」は、なぜそれほど高速なのか? 理化学研究所が研究を進める量子コンピュータの速度の理由と、その難しさ、実現性をレポートする。 - 何千年分の処理を数時間で――夢の超高速量子コンピュータの世界
理化学研究所では、現在のコンピュータとは比較にならないほどの高速処理を実現する「量子コンピュータ」の研究を進めている。RSA暗号を無効化してしまうといわれる超高速コンピュータには、量子力学的原理が活用されている。 - ケータイだけでできる動画共有――映像インデクシング技術
YouTubeに代表されるCGV(Consumer Generated Videos)として、アマチュアが個人で撮影したパーソナル映像をネット上に気軽に公開できる時代になった。一方で、見る側に映像の内容を効率良く伝えることが目下の課題となっている。 - 通信状態が目で見える安心――「可視光通信」
屋内の照明機器、テレビ画面、そして街角の信号機、ネオンサイン――。身近にあるさまざまな光源が、そのまま通信デバイスとなる可視光通信。その実用化に向けたNECの取り組みを紹介する。 - 空間をロボット化するユビキタス・ロボティクス
産総研はロボット制御の研究を応用することで、大規模な無線センサーネットワークを低コストで構築した。その土台には、空間そのものがロボットになる「ユビキタス・ロボティクス」技術が使われている。 - “ロボット屋”がつくる無線センサーネットワーク
産総研は、100個以上のセンサー群を無線でつなぎ、環境情報を効率良く、低コストで収集するワイヤレスセンサーネットワークを開発した。これまで市場が冷え込んでいた同分野に光明を見出せるとして注目を集めている。無線ノードとロボット開発用ミドルウェアを融合するという、同研究所の画期的な取り組みを紹介する。 - 【特集】次世代ITを支える日本の「研究室」
本特集では、独自の視点から国内有数の研究組織、企業の研究部門に突撃取材。「すごそうだけど、いまいちよく分からない」ホットでクールな研究テーマをキャッチアップし、未来の技術がもたらす情報技術への関連性を解き明かす。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.