無線LANを基幹ネットワークへと進化させる3つの要素:「行く年来る年2006」ITmediaエンタープライズ版(3/3 ページ)
企業インフラに定着した感のある無線LAN(WLAN)も、有線LAN上と同等のアプリケーションを動かすにはまだ信頼性が足りない。市場の動きを振り返ると、IP電話に代表される音声通信や「IEEE 802.11n」「WiMAX」などのブロードバンド技術が、WLANを「基幹網」へと進化させていく構図が浮かぶ。
IEEE 802.11nは07年後半から加速化する?
そして、今後の無線LAN市場のメインストリームになると目されるのは、現在標準化作業中の高速無線LAN規格「IEEE 802.11n」だ。現行のIEEE 802.11a/gと同じ変調方式OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)を用いながら、複数のアンテナでデータを多重送信するMIMOや転送効率の向上によって、1けた上の最大600Mbpsの通信速度を実現するとされる。2007年は、この11nの商用化が一気に加速する可能性がある。
11nは、その仕様が物理層、データリンク(MAC)層において従来のWLANとは異なることもあって、2つの陣営(WWiSEとTGnSync)間の対立があったり技術仕様を巡って意見が食い違ったりと、標準化の道のりは予想以上に険しかった。
規格策定を行うIEEE 802.11n委員会は、2006年1月にドラフト(草案)1.0をまとめるまでにこぎつけたが、製品化に積極的なチップベンダーは早くもドラフト1.0に準拠したチップを製造。そのチップを搭載した“プレ11n”対応製品がフライング気味に発表されている。例えば、NEC「AtermWR8200N」、バッファロー「WZR-G144NH」、コレガ「CG-WLBARGE」といった11n対応をうたう無線LANルータ製品がコンシューマ向けに相次いで発売され、ドラフト段階で対応製品が出回った11gと同様の状況になっている。しかし、ファームウェアの更新で11nの標準化時に対応するというものもあるが、最終仕様にのっとった製品と相互接続できるという保証はない。
現在、ドラフト2.0作成に向けた文書投票が行われるところだが、「11nはもうすでに使える」という米アセロス・コミュニケーションズ、一方で「電波干渉や既存環境との共存などの技術課題から標準化の仕様が固まった上で市場展開すべき」とするエアゴーネットワークスなど、11n仕様に関するベンダーの解釈で温度差が生まれている。
こうした状況では、自己責任での個人利用とは違い、企業での導入を検討する担当者にとって決断が難しくなるが、2007年には導入のきっかけとなる時期が訪れる。
まずは春。現在日本で利用が認められている帯域幅は20MHzだが、総務省において5GHz帯でチャンネル幅を40MHzに拡張する方向で法改正が行われるようだ。総務省と電波監理審議会で改正の諮問、答申が行われ、5月には省令が施行される見込みである。5GHz帯が開放されると、20MHz幅での運用と並行して、40MHz幅の広帯域システムへの移行準備も進められる。
もう1つは、2007年後半にさしかかる時期だ。現行のスケジュール通りドラフト2.0が3月までに承認されれば、6月には業界団体Wi-Fiアライアンス(WFA)による相互接続性の認証がスタートする。WFA認証、つまり業界の「お墨付き」の製品であれば安心が得られ、時期的に一部分の機能ならファームウェアの更新で最終仕様に対応できる可能性も高い。
11nの最終仕様が決まるのは2008年春になる見込みだが、以上の契機から2007年後半には11n対応の製品が多数市場に投入されると考えられる。その高速性もさることながら、5GHz帯が開放されて利用できるチャンネル数が一気に増えれば、既存のレガシーWLAN環境や設計に大きな影響を与えることは間違いないだろう。公衆無線LANサービス事業者にとっても、端末収容数や品質の面で十分魅力的なWLAN規格である。
企業ユーザー、インテグレーターだけでなく、サービスプロバイダーも巻き込んだ11nの動向からは、2007年も目が離せない。
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