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ダイヤモンドがLEDに? シリコンを超える未知のチカラ次世代ITを支える日本の「研究室」(2/3 ページ)

高品質な人工ダイヤモンドでLEDを作り、高効率の紫外線発光を成功させた産総研の研究は、シリコンなどでは無理とされたこれまでの常識を打ち破るものとして、各方面から熱い視線が向けられている。

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マイクロ波でメタンからダイヤモンド薄膜を生成

 しかし、ダイヤモンド材を半導体素子化するプロセス技術は非常に難しい。ダイヤモンド結晶は極めて不安定なため、普通の基材に素子を組成させようとすると、すぐ安定したカーボン(炭)に変化してしまう。まず、土台となる基板にも人工ダイヤモンドを使用する必要があるのだ。

 産総研では、2.5GHzのマイクロ波でメタンを気体化して水素と混ぜ、高温高圧合成法で作ったダイヤモンド基板上にCVDで高純度のダイヤモンド薄膜を堆積(たいせき)させる方法(「ホモエピタキシャル成長法」)を研究してきた。2005年5月には、(001)面(*3)を持つ「n型ダイヤモンド半導体」(マイナス荷電電子を作り出すリン原子を少量混入して生成)の組成に世界で初めて成功し、さらに「p型ダイヤモンド半導体」(プラスの荷電正孔を作り出すホウ素原子などを混ぜて生成)とのp-n接合ダイオードで紫外線発光を成功させている。

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産総研 ナノテクノロジー研究部門主幹研究員高温量子エレクトロニクスグループ長(筑波大学 数理物質化学研究科 連携大学院教授 博士)の山崎聡氏

 その技術を基に、2006年9月には窒素を高濃度に添加し高温高圧合成法で作ったダイヤモンド基板の上に、マイクロ波プラズマCVD法によってホウ素を高濃度に添加したp+型ダイヤモンド半導体層を生成。さらに、不純物を混入しないi型ダイヤモンド半導体を挟むようにn型ダイヤモンド半導体を積み重ね、ダイオード動作部分のすべてがCVD法によるp-i-n接合型構造とした。これが、産総研のダイヤモンドダイオード開発における最大のポイントである。

図3-1
p-n接合とp-i-n接合ダイオードの構造
図3-2
p-i-n接合ダイオードの電極構造パターン

 「この方法により、深紫外線発光の効率が大幅に向上し、ダイオード自体の温度は200℃以上になったにもかかわらず、紫外線以外の欠陥発光を10分の1にまで減少させることが実現できた」と語るのは、産総研ナノテクノロジー研究部門の主幹研究員で、筑波大学数理物質化学研究科連携大学院の教授も務める山崎聡氏である。「この構成での成功は、ダイヤモンド半導体の製造プロセス技術の高度化を図ることにもつながった」(同氏)。

ダイヤモンド半導体ひとくちメモ

 2つの原子が存在すると、それぞれの電子の軌道がお互いに影響し合って、安定な「結合性軌道」と不安定な「反結合性軌道」を作る。また、半導体や金属(導体)などの結晶の電子は、帯状に連なったエネルギー分布(エネルギーバンド)を形成する。その主な構成要素は、結合性軌道の集まりからなるエネルギーの低い「価電子帯(Valence Band)」、反結合性軌道の集まりからなるエネルギーの高い「伝導帯(Conduction Band)」、そして電子の存在することのできない「バンドギャップ(禁制帯、band gap)」の3つ。

 つまり、バンドキャップとはこの価電子帯と伝導帯のエネルギー差のことで、バンドギャップが大きい物質を絶縁体と呼び、バンドギャップが小さい物質を半導体と呼ぶ。ダイヤモンドのバンドギャップは5.47eVで、シリコン(1.12eV)の5倍近い値。ほぼ絶縁体といえるダイヤモンドに、各種の不純物を微量投入し(ドーピングという)半導体化することで、さまざまな興味深い性質が現れる。その物性により、現在よりもはるかに高周波・高出力で動作する半導体素子が実現できるのではないかと期待されている。



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