ダイヤモンドがLEDに? シリコンを超える未知のチカラ:次世代ITを支える日本の「研究室」(3/3 ページ)
高品質な人工ダイヤモンドでLEDを作り、高効率の紫外線発光を成功させた産総研の研究は、シリコンなどでは無理とされたこれまでの常識を打ち破るものとして、各方面から熱い視線が向けられている。
間接遷移半導体で直接遷移半導体に迫る発光効率が
半導体には大きく2つの種類がある。「直接遷移半導体」(ガリウム砒素、窒化ガリウム、窒化アルミニウムなど)と、「間接遷移半導体」(シリコン、ゲルマニウム、ダイヤモンドなど)のグループだ。これまでの常識では、LEDなどの高効率の発光素子には直接遷移半導体しか使えないと考えられていた。シリコン製の発光ダイオードが存在しないのはそのためである。
半導体を発光させるには、電子(マイナス荷電)と正孔(プラス荷電)を合体させることが必要だが、間接遷移半導体内では格子振動の助けが必要で、合体させることが難しい。しかし、ダイヤモンドの内部では、電子と正孔が弱い力(クーロン力)によって常に寄り添った状態(高密度の励起子状態)で存在する。今回、間接遷移半導体であるダイヤモンドを使って、室温中で働く発光素子を開発できたのは、この特異な励起子の性質を利用したためだ。直接遷移半導体に迫るほどの発光効率が得られたことは、これまでの常識を覆すほどのインパクトがあった。
ダイヤモンド半導体の深紫外線は、その波長の短さから、ブルーレイディスクの数倍もの高密度な記録用光デバイスの光源として、可能性が期待されている。また、ダイヤモンドの励起子(*4)発光は、さまざまな物理現象が内在する可能性も示唆されている。深紫外線の特性により固有の分子認識が可能で、最近ではテロ対策の一環として、炭素菌など特定の物質を検出する蛍光分析などのセンシングが実用化され始めていることもその一例だ。
「今後は発光機構のさらなる解明や、量産に向けた生産効率性の向上などが課題だ」(山崎氏)
ダイヤモンドの未知のポテンシャルを引き出すことが目的
ダイヤモンド半導体の本当の価値は、光を発することだけではない。素材に未知のポテンシャルが隠されている点にある。例えば、絶縁破壊電圧(電圧をかけて破壊する電圧値)では、シリコンが0.3MV/cmに対し、ダイヤモンドは4MV/cmと圧勝。熱伝導率に関しても、シリコンの1.51W/cm℃に対し、ダイヤモンドは20.9W/cm℃とけた違いに良い。これらを総合した性能指数でみると、ダイヤモンドはシリコンの実に1万5000倍もの実力を秘めていることになる。
今後、半導体デバイスの小型化が進むとともに処理量が増えると、素材自身の発熱でデバイスが破壊する率が高くなることが問題視されている。デバイスにハイパワーや高周波が求められる時代にこそ、ダイヤモンド半導体の存在意義がクローズアップされるだろう。
また、サファイアやルビーなどの宝石はほとんどが酸化物でできているが、ダイヤモンドは酸素を含まない特殊な単元素である。今回の実験で、高温(200℃以上)環境での安定した動作特性も示した。このように構造欠陥がなく、光学的、機械的、化学的に高い特性を備えた物性をうまくコントロールすれば、ダイヤモンドという素材自体からも画期的な性質を引き出せる可能性がある。
例えば、生命体と馴染みやすい炭素の性質を生かして、医療・バイオ分野などでの用途が考えられるだろう。また、電子が空中に放出しやすい負の電子親和力(Negative Electron Affinity)や、原子レベルで極平面構造が作れることからも、まったく新しいメカニズムのデバイスが作れるのではないかと期待も大きい。
「今後の研究の方向性は、既存の素材の代替を考えるのではなく、ダイヤモンドしか持っていない優れた特質を引き出していくことが中心になる」という山崎氏は、さまざまなアプリケーションに生かせるよう、多くの企業と協力して近い将来の実用化につなげることが産総研の使命だと述べている。
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