トップを当てにしないIT導入:企業にはびこる間違いだらけのIT経営(2/2 ページ)
IT導入の成功の条件の1つに「トップの適切な関与」がある。しかし現実にはその条件がいつも満たされるとは限らない。
トップの関与なしでもCIOの努力が鍵になる
しかし、トップが直接関与せずに成功した例もある。ある旅行会社は、海外個人旅行について長年営業現場でバラバラの端末を使って、競合他社の数倍の時間を掛けて営業処理をしていた。4年前にCIOは、基幹系システム再構築に多額の投資をしたという逆境の中、海外旅行販売システムの全面刷新を決心し、トップを説得して成し遂げた。CIOの見事なリーダーシップが功を奏したのだ。
トップが無関心でも、CIOや情報システム部門がリーダーシップをとってIT導入に成功した例は、他にもある。トップが積極的に適切な関与をするケースは、むしろ少ない。だからこそ実態に合わせて、トップの不適切な関与を前提に対策を考えざるを得ない。CIOと経営トップのコミュニケーションの深度がいつも問題になるのは、こうした事情があるからだ。詳細に自社のIT環境の実情をまったく知らないで、どこかで聞いてきたツールを強引に導入しようとする経営トップがいたとしても、CIOとのコミュニケーションが密であれば、方向転換は必ずしも不可能ではない。
トップがITに対して無関心である場合、導入の先頭に立つIT部門と現場ユーザーとの対立を収めることができないケースが出てくる。例えばあるIT導入に対して、社内ユーザーの立場が総論賛成、各論反対という場合、これをある方向に導くのはトップしかいないという考え方は、ある意味で常識的な判断だ。
しかし無関心あるいは、無関心を装っている経営トップが動かなくても、CIOやそれに準じる立場の人間が、トップの代行を果たすことは、決して不可能なことではない。トップが動かないからこの導入は失敗だ、と早々にあきらめるのではなく、代行する人物を見つけ出し、最大限の効果の出し方を考えることも大切だ。
「月刊アイティセレクト」2007年9月号「企業にはびこる『間違いだらけのIT経営」より)
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