レゴもコカ・コーラも学んだ「経験」の価値:Web2.0時代でCRMは次世代型に
顧客側が望む企業との接点を管理する新しい手法、CEM(顧客経験管理)が脚光を浴び始めた背景には、Web2.0の浸透があった――。
従来型CRMとは異なる
今、経験価値(8月2日の記事参照)が注目されるのに、Web2.0という事象が大きく影響しているのは確かなようだ。CGMやUGCなどの登場で消費者の間ではネットワーク化が進み、積極的に企業に関与して、自分たちにとって最適な価値を求める傾向が強まっている。
「それは、コミュ二ティーの中の相互作用ともいうべき影響で、もはやCRMの中心にあったワン・トゥ・ワンの姿ではない」と語るのは、デジタルハリウッド大学デジタルコミュニケーション学部教授で、人材ラボの上席研究員を務める匠英一氏だ。「顧客経験価値は、必ずしも顧客中心、顧客満足を突き詰めるものではなく、顧客参画型の場をつくり、経験内容をより豊かにするためのコミュ二ティーづくりをサポートするもの」と同氏はいう。
匠氏の近著「顧客見える化」(同友館)では、顧客の表面的な購買行動・購買履歴からではなく、顧客の無意識にある本質的な行動を見える化することが重要だとされている。
成功例と失敗例に見る
顧客の経験価値における成功例・失敗例は多い。ブロック玩具メーカーのレゴが発売した「マインドストーム」は良質な知育モデルとして注目されたが、ハッカーにハッキングされソースがネットに流出。そのため、レゴはマインドストームをオープンソース化し、だれでも改良できる環境に置いた。結果的に、オプションなどの関連事業で大きな収益を得た。
一方、業績低迷で「ペプシに勝てる味」を模索していたコカ・コーラは、市場テストを繰り返し、1985年に『ニューコーク』を大々的に発表した。しかし、理由もなく飲み慣れた味を突然奪い去られたファンは激怒。全国から1日8000件もの抗議が殺到し、不買運動まで起きたため、やむなく同社は以前のコークを復活させた。商品やブランドを隠し、味だけを比較した製品づくりの失敗は、コカ・コーラにとって経験価値を知る上で貴重なケーススタディとなった。
定着させるポイント
今後、CEM(Customer Experience Management:顧客経験管理)を定着させるためには社内の営業とマーケティングをどのように最適するかが課題という匠氏は、その対策として「自社にとっての成功要因となる新たな指標(スコア)を持つことが必要」と指摘する。顧客の満足度をどのように正しくチェックするのか。返品率で計る場合もあれば、顧客が主人公になる顧客参画率を指標にするケースもあるだろう。
しかし、最適な指標はそう簡単に見えるものではない。顧客の経験価値を高めるためには、既存の指標を当てはめるつじつま合わせではなく、満足度やロイヤリティーとどのように関連しているのかをつかむ努力を積み重ねていくことが重要なのかもしれない(「月刊アイティセレクト」9月号のトレンドフォーカス「CRMは次世代へ Web2.0時代において他社との差別化を図る経験価値とは一体何?」より。ウェブ用に再編集した)。
※1 Consumer Generated Mediaの略。消費者がつくる情報媒体。
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※2 User Generated Contentsの略。ユーザーが作成するコンテンツ。
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※3 デンマークのレゴと米マサチューセッツ工科大学教授のシーモア・パパート氏が共同開発した教育用「レゴ」のロボティクス開発ソフトウェア。
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