「イノベーションはホームラン」――MS樋口COOが語る企業再生手法とは
開催から7年目を迎えたJUAS主催のイベント「ITガバナンス2007」。パネルディスカッションに登場したマイクロソフトの樋口泰行氏は、企業再生の手法や考え方を披露した。
日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)主催による「ITガバナンス2007」が、9月12日と13日に都内で開催される。誕生から7年目を迎えた同イベントの今年のテーマは「ビジネス・イノベーションへの挑戦」。12日午前の部では、マイクロソフト代表執行役兼COO 兼ゼネラルビジネス担当の樋口泰行氏らによる「経営者から見るIT」と題したパネルディスカッションが行われた。さまざまな企業を再生してきた樋口氏、「愚直」と評される熱意と取り組みが、どのように企業を再生するのか。製造業における企業再生のエピソードを語った。
企業再生のコツ
現在、製造業の市場は成熟を迎えている。企業同士による縮小するパイの奪い合いや少子高齢化が牽引する製品の供給過多など、製造業はさまざまな課題に直面している。樋口氏は、現状を打開する方法として「成熟化した市場における企業再生は難しい」と前置きをした上で、ダイエー時代の経験を基に、「基本に徹する」ことを繰り返し強調した。
基本に徹するとは、本業をないがしろにせず、徹底的にやり遂げることを指す。樋口氏は、「ダイエーの店舗を見て、顧客は元気のない店を五感で感じ取ることが分かった。そのような店舗から、顧客の足は遠のく。売り場は顧客を徹底的に意識したサービスを行わなければならない」と説明した。マイクロソフトに就任して6カ月、樋口氏は180社のパートナーを訪問したという。現場の声を第一に考える樋口氏にとって、顧客1人1人と直接会うことが本業に当たる。「あと50社回りたい」(同氏)という言葉から、基本を徹底する姿勢をかいま見ることができる。
ダイエー時代に見る企業再生の舵取り
樋口氏はダイエーの代表取締役就任時について、「社内には過去の成功によるおごりたかぶりが一部にあったようだ」と振り返る。当時ダイエーでは、顧客から野菜の品ぞろえと鮮度に難があると言われることがあったが、改善策はなかなか出てこなかった。その背景には、社内で商品部と現場との間に壁があり、積極的なコミュニケーションが行われていなかったことが挙げられる。「問題を先のばしにしてしまう傾向があった」と樋口氏はふりかえる。
「こうした悪循環を取り除くため、現場を改善しようと意気込みを見せる若い人材や、ノウハウを持ち経験に優れた人材を積極的に登用していった」(同氏)。 入社後すぐにプロジェクトを起こし、現場の声を聞き、部門をまたいだ啓蒙を行った。プロジェクトの本番開始から2カ月、野菜売り場は顧客を取り戻した。良い製品を顧客に届ける、という基本に徹した現場改善が奏功したわけだ。
「成功体験やセクショナリズム、抵抗勢力など、企業の再編をさえぎる要素は多い」と樋口氏。「イノベーションはホームランのようなもの。打とうと思っても打てない。ホームランを打つためには基本を継続させていくこと」という言葉から、現場レベルでの改善の積み重ねが、企業再生の第一歩となることがうかがえる。
人への思い
「ダイエー時代に閉店予定の55店舗を1人でまわった。歓迎されることばかりではなかったが、従業員からの『来てくれてありがとう』という言葉で、何がなんでも企業を再生しなければならないとふんぎりがついた」(同氏)。
そんな樋口氏が企業再生においてもっとも大事にしているのは社員の気持ちという。「たとえ仕事のマニュアルを作っても、従業員の心に届かなければ、現場は改善に向かわない。経営者の思想や哲学が込められることで人に届くものとなる。心技体の心を満たすことで、人は動く」とし、人に対する思いを見せた。
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