パート社員も「全体最適」を意識する
意識改革をするために、一般的には教育・研修・経営方針の共有・異端児の活用などが説かれるが、一過性の手では効果がない。企業文化を変えるくらいの決意が必要だ。
意識改革に成功した好例を示そう。物流会社ハマキョウレックスが、全員が「全体最適」を意識して仕事ができるように変身した例である。同社は「日替わり班長制」を導入した。パートタイマーも含めて全員がその日の班長を務める制度である。班長の仕事は、作業の終了時間や作業が遅れている部分への人の割り振りなどの判断を下す。この重責を担う班長が毎日交代する。そのためには作業全体の流れを把握し、生産性を考慮する必要があり、自ずと全員が「全体最適」を意識するようになったという。
別の中堅家電品販社、A社では、SFAを導入する際、CIOが「SFAを定着させる会」を設置し、反対派の営業部門の実力者を長にすえた。そして彼には、週1回の役員会での進捗状況報告を義務付けた。反対派の実力者は見違えるほど真剣に、勉強と定着させる努力に専心し始めた。同時に、SFAに対する全社の不満分子の動きも変わってきた。ただし、これ一事でA社の意識改革ができたとは思えない。これは、1つのきっかけにしか過ぎない。SFAを是が非でも定着させることによって、成功体験にしがみつくことがいかに進歩を妨げるか、進歩のために新しい価値観をいかに受け入れなければならないかという意識が、企業文化として定着するまで、考え得る手を打ち続けて行くべきである。
あえて退路を断ち強引に導入
企業文化に等しい社内意識を形式的意識改革運動で、一朝一夕で変えることができると考えるべきでないし、一方で意識改革を簡単に諦めることは企業の進歩を放棄することになる。かといって、社内意識が改革されるまでIT導入を待つわけにもいかない。
「ERP導入は、意識改革のプロジェクトだ」、あるいは「とりあえず導入して、使わせて意識づけをしろ」とも言われることがあるが、けだし名言である。最初からそれなりに手を打って努力はするが、IT稼働後に意識改革は達成するもの、しかも途方もない時間をかけて成就するものと覚悟するべきだ。
ITをまず強引に導入し、従業員を引きずり込んで意識改革をする。あるいは強引に業務改革をして結果的に意識改革をするのだ。その方が、切迫感があり、退路を絶たれる。ただし、ただ単に「意識改革をしろ」という号令や意気込みだけではダメだ。掛け声だけでは反対派が跋扈するようになってしまう。関係者全員が自発的に取り組むハマキョウレックスのような仕組みを作らなければならない。
社員が自発的に取り組む仕組みを、企業文化として定着化させることを、根気よく志さなければならない。意識改革は、永遠のテーマである。
「月刊アイティセレクト」2007年10月号の企業にはびこる『間違いだらけのIT経営』より)
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