コラム
執着がないからできる?――「お金もうけなんて簡単」:夏目房之介のその後の「起業人」(2/2 ページ)
ソフトブレーン創業者の宋文洲さんには利害得失への執着心があまり感じられず、発言がそのままの意味で届きやすいのかもしれない。
「お金もうけるなんて、簡単なのよ」
まったく自慢げでもなく、必要以上に卑下してもいない。ただ、当たり前のことだけど、それほど面白いことでもない、というような感じだった。
「この人の才能にとっては、ホントに格別なことじゃないんだろうな」
そういう才能に徹底的に見放されている僕は、少し唖然として聞いた。でも、まったくイヤな感じがしないのは、たぶん彼がお金そのものに、必要以上の興味をもっていなからだと思えた。逆に、執着がないから緊張もせず「簡単なこと」にできるのかもしれない。利害の執着を棚に上げることができると、人は物事の本当がよく見えるものなのだ。
宋さんは僕に対してこんなことも言った。
「夏目さんはいいよね。自分の好きなことだけやって、やりたくないことやらないし。憧れるよ。かっこいいよね」
驚いてしまった。彼からすると、そう見えるのだろうか。それとも、中国伝統の文人への憧憬なんだろうか。
一度、彼に呼ばれて、有名な政治家と会食したことがある。そのときの宋さんの政治家との話し方は、僕に対するのと何も変わらなかった。僕に言わせれば、僕などより彼のほうが自立した文人としてデキてる気がするけどな。
なつめ ふさのすけ
1950年、東京生まれ。青山学院大学史学科卒。72年マンガ家デビュー。現在マンガ・コラムニストとしてマンガ、イラスト、エッセイ、講演、TV番組などで活躍中。夏目漱石の孫。
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