データセンターで高まるエネルギーコスト:グリーンITが注目される本当の理由
CO2排出量増大の原因となっている電力消費を削減しようという取り組みが盛んだ。IT業界も例外ではない。米Fortune誌の「環境に優しい企業トップ10」に選定されている米HPのStorage Works担当マーケティング・ディレクター、アイテンビックラー氏に聞いた。
地球温暖化に対する懸念からCO2排出量増大の原因となっている電力消費を削減しようという取り組みが盛んだ。IT業界も例外ではないが、他の産業に比べてIT産業はコンピューティングパワーへの需要が衰えないこともあって、消費量は増加するばかり。この現実を直視した上で、より効率的な電力利用を実現しようという動きが始まっている。
「グリーンIT」と呼ばれるものだ。
現在では業界各社が真剣に取り組む共通のテーマとなったが、米Hewlett-Packard(HP)はその中でも業界をリードする存在だという。同社は、米Fortune誌が選んだ「環境に優しい企業トップ10(10 Green Giants)」にIT業界として唯一選定されている。
来日した米HPのStorage Works担当マーケティング・ディレクター、パトリック・アイテンビックラー氏にストレージの観点からグリーンITの取り組みを語ってもらった。
グリーンITを駆動するもの
「環境問題への意識に加えて、経済性の面からもグリーン化を推進する圧力が高まっている」――アイテンビックラー氏は、グリーンITへの取り組みが業界の重要テーマとなっている理由をこう説明する。
「各国で省エネルギー化、低排出化の方向を強化するような法規制が行なわれるようになってきていることもあるが、ITインフラに注目すると、新規のIT機器の購入コストに対し、運用時に掛かるエネルギーコストの比率が年々高まっている」
同氏の示したIT調査会社IDCのデータによると、ハードウェア・コストに対するエネルギーコストの比率は1996年の時点では15%程度。これが2010年には70%にも達するという。
ハードウェアの価格性能比が年々向上した結果、ハードウェア価格は相対的に値下がりしたものの、反対に1台当たりの電力消費量が増加。エネルギーコストの増大として跳ね返ってきているのだ。もちろんこのコストはユーザー企業が負担している。企業がグリーンITを軽視できない理由はここにある。
データセンターの電力消費
さらにITの中核設備であるデータセンターの電力消費比率の調査結果も出されている。それによると、冷却が占める割合は70%近くに達し、サーバの使用分が15%、ストレージの使用分が13%となっている。
「この数値からは、グリーンITに取り組む際に最も大きな効果が期待できるのは、冷却の効率化だということが分かる」と、アイテンビックラー氏。
HPは同社自身のコスト削減と高効率化を目指して自社データセンターの集約を進めていることはよく知られているが、この計画でもグリーン化の側面が考慮されている。HPのデータセンター設計ノウハウを元に生まれた「HP Dynamic Smart Cooling」と呼ばれるデータセンターの冷却最適化技術の提供も開始されており、大きな成果が期待されるところだ。
公表されているプランでは、HPは全世界に85カ所ほど存在していたデータセンターを米国内3地域6カ所に集約する。「データセンターの集約によって処理能力を80%向上させると同時に、サーバの台数を30%削減し、ストレージの利用効率も2倍に向上させる」と、アイテンビックラー氏は言う。システム利用効率を格段に高めることで、無駄な電力も押さえ込もうというわけだ。
データセンターの冷却能力の最適化、ブレードサーバを始めとするサーバの冷却効率の向上やエネルギー効率の最適化、ストレージでのエネルギー効率最適化――など、このようなITインフラ全般にわたってグリーン化を推進できるIT企業は全世界でもごく限られる。
「HPは自社での実践の成果を踏まえながら、さまざまな技術でグリーン化を支えることができる」(アイテンビックラー氏)
ストレージのグリーン化
もちろん、同社のストレージ部門もグリーン化に注力している。前述の通り、データセンター全体に占めるストレージの電力使用分は13%程度、全体に占めるインパクトから言えばストレージの効率化はグリーン化にさほど大きく寄与しない。しかし、ITインフラ全体を対象として効率化を進めることができるのがHPの強みである。たとえ寄与が小さくても例外なく対応する点が同社のグリーンITへの取り組みの真剣度を反映しているといえるだろう。
アイテンビックラー氏は「ストレージはIT全般にわたる需要増傾向と同様、年々容量を増加させている。そのペースは毎年60%増という調査もある。HPの例で言えば、現在アプリケーションのデータ量は6Pバイトだから、2008年度にはさらに新たに3Pバイト以上が追加される計算になる」と話す。
「データの増大に拍車を掛けている1つの要因はさまざまだが、法規制への対応もそうだ。法規制が求めるデータの保存期間は長期化する傾向にあり、かつてはせいぜい3年程度保存してあれば充分だったデータが、現在では20年もの保存を義務づけられているケースもある」
このデータがすべてHDD上に記録されているとしたら、そのHDDを20年間回転させ続けるには相当の電力量が必要となることは想像がつくだろう。ストレージの省電力化が全体に対する寄与割合はともかく、何らかのグリーン化策の導入が必要なのは明らかだ。
ストレージのグリーン化に対するHPの提案
アイテンビックラー氏は、HPではストレージのグリーン化について3つの手法を提案しているという。「効率的な容量追加」「階層化」「データ量の削減」の3つだ。
まずは必要なだけのストレージ容量を必要なタイミングで確保することだという。典型的な機能としては、HPのハイエンドストレージ「HP StorageWorks XP」が搭載しているシンプロビジョニングがそれを可能にする。
シンプロビジョニングでは、将来想定される容量に対し、現在必要な分のHDDだけを接続し、実データ量が増加したら改めて容量を追加していくことを可能にする。従来の手法では、ディスク容量を増加させると、ファイルシステムの作り直しなどの作業負荷が発生していたが、この技術を活用することで、あらかじめファイルシステムを最大容量分確保した上で実容量を動的に変化させられる。効率的な容量調整が可能になる。グリーン化の観点からすれば、余分なドライブを用意する必要がなくなり、直接の電力削減にもつながる。
次に、低コスト大容量のドライブを利用した階層化技術も効果的だという。HDDの消費電力量はドライブ数にほぼ比例する。高速なI/Oレスポンスが求められる用途では相対的に低容量で高速なドライブを並列化して利用するのが一般的だが、古くなってアクセス頻度が低下したデータは低速だが大容量のHDDに移動させれば、ドライブ数が減り、消費電力量を削減するわけだ。階層化の手法は、ストレージシステムの購入/運用コストの削減につながることが知られているが、グリーン化の観点からも意味があるという。
最後に、オンラインのデータ量そのものを削減していく手法も提案する。例えば、データの重複排除(ディデュープ)など、最新のデータ管理手法を利用することで余分なデータを削減すれば、ストレージの利用効率が高まりストレージの総量を削減できる。日々のバックアップでは、同じデータを何度も繰り返しバックアップすることになり、総データ量を何倍にも増加させてしまうことがあるが、こうした無駄を抑制することが重要となる。
もちろんグリーン化の観点では、すべてのデータをHDDに置くのではなく、テープを効果的に利用することも重要だ。HDDとは異なり、テープでのデータ保管には電力を必要としない。現在のテープは30年ほどの長期保存にも耐えられるので、コンプライアンス対応としても有効だ。
最新技術への対応
またHPでは、新技術への対応も積極的に行なっている。例えば、HDDの記録密度の向上は省電力化にも効果がある。ドライブ単体での消費電力は、プラッタサイズが小さくなれば減少するため、記録密度を向上させてサイズを小さくすれば、従来と同じ容量のドライブをより低消費電力で利用できるようになる。
また、SSD(Solid State Disk:半導体ディスク)と呼ばれるフラッシュメモリを利用したドライブも製品化され始めている。アイテンビックラー氏は「SSDには物理的な可動部分がないため、省電力化には有望な技術だ」と注目しつつも、現時点では、SSDで利用されるフラッシュメモリは、HDDに比べて容量当たりの単価が極めて高く、コスト面で不利になる。また書き換え回数の制限があることからエンタープライズ用途で利用するにはまだ不安が残る。今後の改良でこうした問題点が解消された段階で製品化を検討することになるだろう。
この対応からも、必ずしも現時点での消費電力の最小化だけを狙わず、現実的な視点で全体的な最適化を考えられる点もHPの強みとなっていることが分かるだろう。「社会に対する責任を意識する」という点は同社の創業以来の伝統でもある。HPのグリーンへの取り組みは単に流行を追った取り組みや、経済的なコスト意識に駆り立てられた結果ではないようだ。
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提供:日本ヒューレット・パッカード株式会社
企画:アイティメディア営業本部/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2008年3月19日
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