「AI活用をDXの二の舞にしない」 ガートナーが語る、企業が真のイノベーションを起こす方法
基調講演「DXの迷走と形骸化を乗り越え、データとAIで日本企業は真の変革を遂げられるか」では、日本企業のDXが成果につながりにくい理由と、AI活用で同じ失敗を繰り返さないための条件が示された。
ガートナージャパンは2026年5月19〜21日、年次カンファレンス「ガートナー データ&アナリティクス サミット」を開催した。基調講演「DXの迷走と形骸化を乗り越え、データとAIで日本企業は真の変革を遂げられるか」に、同社の一志達也氏(バイス プレジデント チーム マネージャー)が登壇した。
一志氏は、日本企業が長年取り組んできたDXの現状や、AI活用における課題を指摘し、真のビジネス変革を起こすための実践的な指針を、具体例を交えながら解説した。
DXの「迷走」と「形骸化」、そしてAIで同じ轍を踏む危機感
講演の冒頭、一志氏は日本企業におけるDXの取り組みが「迷走」と「形骸化」に陥っていると指摘した。同氏が提示したGartnerの調査データによると、組織全体でデータ活用の成果が十分に出ていると答えた企業はわずか2.4%にとどまり、特定の部門に限定しても11.4%に過ぎないという。
一志氏は「テレビCMでも『DX』という言葉があふれている。あるファミリーレストランが『DX戦略部』を『情報システム部』に改称したニュースがあった」と触れ、DXという言葉自体が実質的な意味を失い、単なるIT化と同義になっている状況を指摘した。その根本的な原因は、「自分たちがどうなりたいのか」という組織の意志やビジョンの欠如にあると同氏は語る。
さらに、昨今ブームとなっているAI活用についても、「DXの旗印がAIにすり替わっただけで、中身が変わっていないのではないか」と危機感を示した。AIツールの導入自体や利用率、教育の受講率をKPIに設定することは手段の目的化であり、過去のDXと同じ失敗を繰り返すことになると警鐘を鳴らした。
効率が上がることは成果ではない
「AIによる成果」とは一体何を示しているのか。一志氏は「AIによる効率化とビジネス成果は同一ではない」と断言する。多くの企業が「業務処理時間の短縮」や「従業員の生産性向上」をAIの成果指標としているが、それだけでは財務的なビジネス成果(ROI)や収益の向上には直結しない。
真の変革を起こすためには、AIを「使う」ことを意識させず、業務の中に自然と溶け込ませる「組み込み」戦略が必要不可欠であると一志氏は指摘した。
一志氏は、生成AIの活用には「維持」(既存業務の改善)、「拡張」(既存プロセスの再設計)、「転換」(新ビジネスの創出)の3つのパターンがあると説明した。この中で、ビジネス成果に直結する本丸と呼ぶべき領域が「拡張」である。既存のチームやプロセス、KPIなどの条件がそろっている領域に狙いを定め、AI活用による効果を業務成果や財務成果につなげるところまで計画した上で、投資を集中させることが重要であると説いた。
「発注者」から「設計者」への転換と、内製化すべき2つの役割
講演の後半で強く訴えたのは、IT部門の役割転換だ。これまで日本企業は、ビジネスの企画のみに取り組み、設計や実装、技術選定に至るまでを外部ベンダーに丸投げする「発注者」の立場にいた。真のイノベーションを起こすためには、自社でシステムの設計図を描き、ベンダーを「施工のプロ」と位置付ける「設計者」へと変化し、技術の主導権を取り戻す必要があると述べた。
そのために企業が内製化すべき不可欠な役割として、一志氏は以下の2つを提示した。
(業務/UI)デザイナー
現場の観察を通じてユーザーの暗黙知を発見し、「何をAIで変えるか」を業務視点で設計する。単なる機能要件ではなく、理想の業務フローを再定義し、業務ルールの変更まで踏み込む権限を持つ。
アーキテクト
個別の最適化ではなく、組織全体の技術的モデリングやデータ標準化(セマンティックレイヤーの整備など)を担い、AI活用の障壁を排除する。ベンダー選定や技術標準化の最終決定権を持つ。
「AI-Readyなデータ」への誤解と、プロトタイプ主導の開発
AI活用に不可欠とされる「AI-Readyなデータ」についても、一志氏はよくある誤解を指摘した。社内の全データを一元管理する巨大な基盤を作ろうとするのは誤りであり、実際には「現場の課題(ユースケース)起点」で考えるべきだという。特定のAIユースケースに必要なデータだけを洗い出し、品質を評価して改善していくプロセスを繰り返すことが正しいアプローチであると明言した。
また、システム開発の手法についても、ドキュメント主導の従来型から「プロトタイプ主導」への転換を強く推奨した。動くプロトタイプを迅速に作成し、現場との反復的なすり合わせを通じて開発を進めることで、手戻りを防ぎ成果を確実にすることが重要だという。
リーダー層が明日から実践すべきこと
講演の最後に一志氏は、CDAO(最高データアナリティクス責任者)やCAIO(最高AI責任者)といったAI活用をけん引するリーダーに向け、「『AIをやらなければ』という世間の空気に流されず、AIで何を変えるのかというビジョンを明確に持つこと」を求めた。そして、不足する人材を確保するために人事部門と連携することの重要性も強調した。
一志氏は「現場で仲間を見つけ、まずは1件のユースケースでAIによる課題解決とROIを証明すべき」と提言。日本企業が真のイノベーターに進化することへの期待を語り、講演を締めくくった。
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