ネットワークスイッチのスループットを調査せよ【前編】:計る測る量るスペック調査隊(1/3 ページ)
ITは、分かっているようで意外と説明できないことの集合体である。本連載では、IT業界に眠るそれらの謎を文字通り徹底的に調査していく。第1回は、ネットワークの代名詞的な技術といえる100BASE-TXが本当に100Mbpsの速度で通信するのかどうかを調査してみよう。
現在、ネットワークの代名詞的な技術といえば通信速度100Mbpsの100BASE-TXだろう。しかし、100Mbpsということは1秒間に1億ビットもの情報を送っているわけである。規格としてはそうでも、本当に100Mbpsの速度で通信はできているのだろうか? そこで、今回はネットワーク通信速度の鍵を握っているであろうスイッチをターゲットに据え、ネットワーク測定の専門家である東陽テクニカにその疑問を解決すべく調査を依頼した。
ネットワーク機器の性能指標を測れ!
皆さんは、ネットワーク機器といえば何を想像されるだろうか。PCやNAS*などの端末ももちろんそうなのだが、それ以外ではスイッチと呼ばれる、数千円で販売されている手のひらサイズの機器を想像される方が多いと思う。この機器はスイッチングハブとも呼ばれ、1台で4〜8程度のポートを搭載し、LANケーブルでPCなどを接続してLANの中心になる。このようなスイッチは、厳密にはレイヤ2(以下、L2)スイッチと呼ばれるものである。そのほかに身近なネットワーク機器としては、ブロードバンドルータ、PC UNIXによるPCルータなどが思いつくのではないだろうか。企業系、学術系ユーザーの方ならルータ、レイヤ3(以下、L3)スイッチなどを挙げられるかもしれない。
実はこれらのネットワーク機器には重要な性能指標があるのだが、ユーザーにはあまり知られていない。そこで今回は、ネットワーク機器の性能測定について紹介したい。また、実際の性能測定の一例としてL3スイッチやPCルータの性能を専用の測定器を使って測定し、両者の違いや特徴を比べてみよう。
スイッチやルータの性能評価とは
スイッチやルータとは、単純にいえば、あるポートに入力されたフレーム*を適切なポートに転送する機器である。そして、その性能評価には、大量のフレーム転送処理を行わせ、処理できるフレーム数の限界(スループット)を測る方法や、その処理にかかる時間を計る方法などがある。このような単位時間当たりの処理フレーム数や、機器の内部処理によって発生する遅延時間(レイテンシ)、フレームロス*などの測定は、一般的にはパフォーマンス測定と呼ばれている。
パフォーマンス測定の方法
パフォーマンス測定を行うには、何らかのフレームを試験対象機器に入力し、その出力を入力と比較すればよい。ただし、正確な測定を行うには、その測定器自体のネットワークインタフェースが大量のフレーム転送処理に耐えられ、かつ負荷のかかった状況でもIPの規格どおりの動作を行うことができなければならないため、専用のハードウェアが必要となる。これを一般的なPCで行おうとすると、以下の問題が発生する。
- OSの割り込み発生がフレームの高速処理に適さない
- マルチタスクOSのプロセス間の待ち合わせやI/Oの競合によって待ち合わせに揺らぎが発生し、時間測定に悪影響を及ぼす
- 時間測定解像度のナノ秒単位、マイクロ秒単位といった細かさが専用ハードウェアには劣る
そのため、高精度測定や大量フレームの測定には専用の測定器が必要となる。そして、そのような測定器の1つが今回使用したSmartBits(スマートビット)である。
パフォーマンス測定システムSmartBits
SmartBitsは、米SPIRENT Communicationsが開発した、ネットワーク機器のパフォーマンス測定システムである。SmartBitsは、例えば店頭で見かけるようなスイッチやブロードバンドルータなどのベンダーもそのパフォーマンス測定に使用し、パッケージにその測定結果やSmartBitsの名称を列記する例があるほど著名なツールであり、パフォーマンス測定のデファクトスタンダードである。
今回の測定機器およびソフトウェア
LAN3101モジュール(100BASE-TX対応)×12
SmartFlow Ver.4.71
SmartBits Automation Ver.3.00
SmartBitsの特徴
SmartBitsの特徴としては、一般ユーザーに利用されるイーサネットだけではなく、電話会社やISPなどが使用するようなATMやPOS回線、10GBASE系などの幅広いネットワーク規格に対応している点が挙げられる。さらにモジュール方式で高密度にネットワークポートを搭載できるため、大規模なネットワーク機器やネットワーク環境にも対応できる。例えば、SmartBits SMB6000Cでは、10/100BAST-TXであれば1台で最大96ポートまで搭載できるほか、複数台のSmartBitsを接続することでさらに大規模な構成にも拡張できる。ファーストワンマイルからラストワンマイルまでさまざまな環境に対応できる、ネットワーク測定のオールラウンドプレーヤーだ。
SmartBitsの機能
SmartBitsで行える主な測定としては、以下のようなものが挙げられる。
- フレーム損失量
- 最大フレーム転送レート
- ネットワーク機器の内部処理遅延時間
- 経路の片方向伝搬遅延時間
これらの機能はパフォーマンス測定の機能だが、これとは別に、SmartBits自体がルータのふりをして試験対象ルータとの間でRIPやOSPF*のやり取りを行うことや、またどれくらいの数のルーティング経路を保持できるのかなども測定できる。そのほかに、SmartBitsがWebブラウザのようなクライアントアプリケーションや、Webサーバのようなサーバアプリケーションのふりをすることも可能である。これらの測定は「機能試験」と呼ばれる測定だ。
今回は、SmartBitsのパフォーマンス測定機能を利用してL3スイッチとPCルータの特性を調査してみよう。ターゲットは、オフィスなど比較的小規模〜中規模のネットワークで利用されている、10/100BASE-TXポートを24ポート搭載した一般的なL3スイッチだ。
今回の測定ターゲット
プラネックスコミュニケーションズ SF-4024FL
- 搭載ポート数:10/100BASE-TX×24、10/100/1000BASE-T×2、MiniGBIC用拡張スロット×2
- 対応ルーティングプロトコル:RIP/OSPF、スタティック
- 搭載機能:VLAN、QoS、SNMP、RMON、ポートトランキング、ポートミラーリングほか
日立電線 Apresia 3124GT
- 搭載ポート数:10/100BASE-TX×24、10/100/1000BASE-T/GBIC兼用ポート×2
- 対応ルーティングプロトコル:RIP/OSPF、スタティック、BGP4(サポート予定)
- 搭載機能:VLAN、QoS、SNMP、RMON、VRRP、ポートミラーリングほか
アライドテレシス CentreCOM 8624EL
- 搭載ポート数:10/100BASE-TX ×24、拡張ポート× 2
- 対応ルーティングプロトコル:RIP v1/v2、スタティック
- 搭載機能:VLAN、QoS、SNMP、RMON、ポートトランキング、ポートミラーリングほか
*** 一部省略されたコンテンツがあります。PC版でご覧ください。 ***
このページで出てきた専門用語
NAS
Network Attached Storage。ネットワークに接続されたストレージのことで、ほかのPCなどの端末からはファイルサーバとして認識される。
フレーム
ネットワークでデータをやり取りする単位。パケットとほぼ同義語で、レイヤ2にかかわる記述ではフレーム、レイヤ3にかかわる記述記述ではパケットと呼ばれる。
フレームロス
フレームがスイッチ/ルータ内で処理しきれずに消失すること。
RIPやOSPF
ルータ間でルーティング情報をやり取りするためのプロトコル。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.