業務のプロ=発注者が仕様を書く、は無謀か:闘うマネジャー(2/2 ページ)
設計書は発注者が用意する。「そんなことできるものか」という読者もいるかもしれないが、ここから直さなければ失敗はいつまでたってもなくならない。
システムの画面デザインをもとに質問
業務のプロは県職員であって、SEは開発のプロなのだから、冷静に考えれば当たり前のことだ。だいいち、ここ10年程度の間におかしくなっただけで、以前は職員がシステム開発に携わっていたのだ。「そんなことできるものか」という読者もいるかもしれないが、ここから直さなければ失敗はいつまでたってもなくならない。
決心をしたら、後はどうやって詳細な設計書を作成するか、手法を考えるだけである。試行錯誤しようと正しいのならやり方はあるはずだ。
まず業務を知っている職員とSEとの距離を狭める必要がある。答えは意外と簡単だった。SE経験のある筆者自身が設計書を書くことすればいいだけだ。筆者は職員の上司であるから、聞けば教えてくれる。しかも丁寧にだ。さらに立場を利用し、まとめて聞くのではなく、分からないことが発生したら直ちに聞くことにした。仕事が中断される職員にとっては迷惑かもしれないが、分からないことは聞くしかない。疑問を消さないと先に進めない。聞くしかないのだ。
次はどんな形で聞くかだ。やみくもに聞いても答える側が困るだけである。例えば、電子決裁を作るとき「今どんなふうに決裁を回しているの?」と聞いても、「紙に書いてある順に」としか職員は返せない。そこで、システムの画面デザインをもとに質問することにした。そうすると、こんな会話に変わった。
「見たり聞いたりされてもらった感じを具体的にするとこんな画面になるんだけどどうだろう」
「悪くはないですが、他課に決裁回すときどうすればいいんです?」
「なにそれ?決裁ルートって金額とかで決まってるんじゃないの?」
「行政の仕事は申請者の権利確認みたいなことが多いので、案件ごとに合議先が変わるし、あちこちいろいろと回ったりもしますよ。用地交渉案件の決裁なんて過去の経緯まで考慮して決裁するんですからまさにケース・バイ・ケースです」
「もしかして、決裁ルートが固定しないって言ってない?」
「そうなんですよ。先輩や上司に回った後に、あそこにも決裁回しておいてなんて言われるの普通ですよ」
「電子決裁になったのに、合議先が変わる度に起案者に差し戻して決裁ルートの変更なんてしたら、効率化どころか面倒なだけだね。根底から考え直せってことかい」
「その通り。だから、あなたを民間から招いたんです。考えてください」
なんのことはない。SEはすぐシステムフローを考えようとするが、実は、そんなことはどうでもいいのだ。画面には職員が必要とする機能が実現されていなければならず、それを詰めないことには、DB設計もフロー設計も始まらないのだ。それに、やって分かったことだが、本番の画面に可能な限り近い画面で話をする方がいい。手書きの簡単な画面では、何を聞きたいのかを職員は一生懸命想像しなければならず、うまい回答ができない。色合いを始めボタンや入力欄の位置・幅など、可能な限り現実に近い画面をデザインした方がいい。自治体でのシステム開発では、できあがった後に、予算も無いのに、ベンダーに対し「あれを直せ!これを直せ!」とよく聞くが、最初に画面を詰めないからそんなことになるのである。画面は発注側も受注側も理解できる業務フローそのものなのだ。
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