開拓者から改革者へ ネタで未来を切り開く男 大沢和宏:New Generation Chronicle(6/6 ページ)
10年以上前から、斬新な“ネタ”を率先して実装し、世界を驚かせてきたトリックスターがいる。そんな彼が最も追い求めたのは、足す美学ではなく、「引く美学」……。今回のNew Generation Chronicleは、ネタを革新に昇華させた、Yappoこと大沢和宏の物語。
開拓の楽しみから発展の楽しみへ
思いついたアイデアを実行に移す秘訣(ひけつ)を「自重しないこと。いや、僕もエロギークに比べれば自重していますけどねw」と明かす大沢氏。1日の過ごし方も、「1/3はコード書いてて1/3は睡眠して残りでネタ考えてる感じ」とまさに自由人。2007年9月には、「征夷大将軍に就任しました」と想像を超えた脊髄反射ネタを披露、Ustream.TVのyappo_noteでは自らの生態を動画で公開するなど、ネタが円熟の域に入ってきた。
―― 征夷大将軍としていまのIT業界にもの申したいことは?
エンジニア哀れみの令を出したいですね。あと、お前らもっと表に出ろ! と。プログラマー同士で集まっているのにスイーツな話ばっかじゃなく、少しは前向きな議論をしろよ、と。
―― IT業界は3Kだと思いますか? また、どうすれば改善できると思いますか?
金持ってる、かっこいい、結婚したい。ですか? 分かりません>< 不満のある人たちを掻き集めて暴動とか起こせば少しは世の中変わるんじゃないですかね。
―― 最近のインターネットは黎明(れいめい)期と比べて楽しいですか?
とても面白くなりました。世界が無限大に広がり、密度が格段に高くなりました。この加速がさらに続くとすると世界はブラックホールになってしまうんじゃないかと今から心配しています。そして、お金もなく技術的知識を持ち合わせていない山師は駆逐される、もしくは携帯コンテンツに場所を変えていっていますね。
そもそも、黎明(れいめい)期は開拓する楽しみがあり、現在は発展させる楽しみがあるので比較対象にはなりません。黎明(れいめい)期は素晴らしい技術情報がどうやったら手に入るのか方向性も分からず見当違いの方向で面白いことをしていこうと頑張るのが楽しかったのですが、今は専門分野の人たちのアウトプットをキャッチしやすくて、同じ土俵の人々と話し合う機会や密度がグンと高くなっているので、それはそれでとても楽しいです。
とはいえ、実際問題として、さまざまな事情から表に出てきている人はごく限られた人でしかなく、2ちゃんねるなどでは、「amachangはたいしたことない」的なことを匿名で書いている自称優秀な人っぽい人とかがいるわけなんです。そういう人たちは、しがらみ的に表に出てこれなかったりするから匿名であれこれ言うわけなんですが、そういった人たちが表に出てこれない限りは、まだまだ議論できる土台にはないと思いますね。やっかみでamachangたたいてるにしろ何にしろ、表立ってたたけないという状態というのは、まだまだ健全じゃないよね、と思うわけです。
―― インターネットは10年後、どのように進化していると思いますか?
日本に限って言えば暗いものになるでしょう。政策の失敗に抗議するためのテロが起きないことを祈るばかりです。世界規模に視点を移しても、ニュータイプとオールドタイプとの争いがたくさん増えるんじゃないですかね。
―― 今の時代、若いウチにこれをやっとけば幸せになれるよ、というものがあれば
法人登記して解散するだけの簡単な作業をすると結構勉強になります。法的な意味でどうやって会社が誕生して消滅するのかまで肌で覚えれば物の見方がちょっと変わるはず。実印も手に入るしね!
―― 今、数あるITベンダーの中で「いい仕事してるなぁ」と思うベンダーは? また、その理由は?
ITベンダーって単語だと日立とか日立とか日立とかそういう企業しか思い浮かばないので答えようがないなぁと思ったんですが、nipotanの記事をみるとはてなとかでもよかったんですね。
だとすると「ライブドア」ですね。単なるポータル屋かと思えばSledgeとかFastladderとかをオープンソース化しちゃったりとか。かと思えばサービスをたくさん買いあさり、それを放置せずに今もちゃんとライブドアのサービスの一部として定着させたりとか。データセンターを自前で運用したり、独自のハードウェアを作ったりとか、L1-L7ってレベルじゃねぇぞってくらいの幅広いレイヤーをカバーして長年やっている日本企業、しかもメインはPerl。ってところが心打たれます。
またFFXIのネットワークを構築した伊勢幸一さんがライブドアに転職されて活躍されているところもポイント高いです。FFXIもうログインしてないですけど。
別にnipotanからバトンが回ってきたからよいしょしてるわけじゃないですよ。僕だって昔は「オンザエッヂ(笑)」って感じでしたから。あーでも最初のころは小室哲哉のWebサイト作っていたりしたので尊敬していたかも。
―― 未来の開発者たちに一言
より若い人たちが活躍できる環境を作ってください。アドバイスをするとすれば、やっぱり“普通の人の下をいけ”ですかね。レベル的な下ということではなく、技術的な階層の下、という意味で。同じ階層の別の技術を知っているより、その下の階層の技術を知っていれば、物事の考え方はかなり変わります。
―― この質問に項目を追加するとすれば、どんな質問を加えたいですか?
「国分:自分が書いたコードで人に感謝されてどうだった?」
―― ここ数カ月で1番のニュースは?
YAPC::Asia 2008ですね。てっきり、はてな社長のjkondoさんに嫌われているとばっかり思っていたのに会話して頂けたのがうれしかったです。それだけじゃなく、やっぱりあのイベントは本当に素晴らしいもので行ったことがない人もぜひ次回のYAPC::Asiaを体験して欲しいですね。
―― 自分が実際に会ったことがある人の中で、「この人に回答してほしい」という人は?
lopnorこと檀上伸郎さんです。昨年まで、はてなのインフラを面倒みていた方で、はてな退社と同時にソフリットを設立されました。はてなに負けないくらい面白い会社です。ぜひともlopnorさんの素顔を見たいですね。
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