iPhoneは企業向けに使えるか:Weekly Memo(2/2 ページ)
先週のビッグニュースは、何と言っても「iPhone 3G」の世界同時発売。本コラムでも、iPhone 3Gが日本にもたらしうるインパクトや企業ユースの可能性について記しておきたい。
iPhoneとクラウドコンピューティング
では、iPhone 3Gの企業ユースの可能性はどうか。鍵を握るのが、iPhone専用ソフトウェアの開発および提供の仕組みの有効活用だ。Appleでは今年3月から、iPhone専用ソフトウェアを開発するための支援キットを用意しており、開発されたソフトウェアはAppleが62カ国で展開するアプリケーション配信サービス「App Store」を通じて提供される。ちなみに開発支援キットの価格は99ドル(約1万円)。App Storeを通じてのソフトウェアの販売価格は開発者が自由に設定できるが、売り上げの3割がAppleの取り分となる。
ソフトバンクモバイルのテレビCMに出演していることから、ヨドバシカメラ マルチメディアAkibaの発売記念セレモニーに駆けつけた俳優の谷原章介さんが、MacユーザーでiPhone 3Gも少し触ったという実感から、iPhone専用ソフトウェアの仕組みを次のようにうまく説明していた。
「今までの携帯電話だと、新しい機能を使いたければ買い替えなければならなかったが、iPhoneなら必要なソフトウェアをダウンロードすれば自分なりのカスタマイズができるようになる。App Storeがこれからの可能性を大きく広げていくと思う」
現在、App Store上に用意されているソフトウェアはすでに500本を超え、Salesforce.comのiPhone版CRMソフト「Salesforce Mobile」などのビジネスソフトも徐々に増えつつあるという。
こうしてみるとiPhone 3Gは、孫社長が「パソコンが手のひらの上に来た感じ」と言ったように、まさしく新しいモバイルパソコンが登場したともいえる。先ほどSalesforce.comのiPhone版CRMソフトを紹介したが、AppleはこのビジネスにおいてGoogleとも緊密な連携をとっている。Googleが先導するクラウドコンピューティングがIT業界の新たなパラダイムになりつつある今、iPhone 3Gが生まれてきたのは必然のような気がしてならない。
ただ今後、iPhone 3G「的」なツールが、ライフスタイルだけでなくビジネスにおいても大きなイノベーションを起こしていくためには、Appleがグローバルに築いたこのビジネスの仕組みを何らかの形でオープンにする必要がある。言い換えれば、Appleの独壇場では、大きなビジネスイノベーションは巻き起こせない。それはAppleが一番よく分かっているはずだ。その鍵を握っているのが、クラウドコンピューティングなのか、OSなのか、はたまた新しい技術なのかは分からない。
巷では、iPhone 3Gの売れ行きに注目が集まっているが、iPhone 3Gの登場によってiPhone 3G的なツールの必要性を感じた人が少なくなかったのではないか。
明治維新ほどではないにせよ、2008年7月11日は、日本が新たな文明開化へ動き出した日として歴史に残るだろう。そう思える取材も、そうそうあるものではない。
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プロフィール
まつおか・いさお ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。
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