ヒトモノカネから「3つのP」へ――ITSMの新資源:ITIL Managerの視点から(3/3 ページ)
企業のビジネスドライバーは「ヒト・モノ・カネ」だと言われてきたが、ITサービスマネジメントの世界ではやや事情が異なる。「3つのP」というリソースが重視されるのだ。
ROI(Return On Investment)
真に必要なのはコスト削減ではない。やみくもにコスト削減を目指すのでは、ダイエットのために絶食するようなものだ。それでは会社が、そしてビジネスが体調を崩してしまう。重要なのは適切な投資とその投資に見合った成果である。
それを簡単に示す指標が、ROIである。「投資利益率」とか、単に「投資対効果」などと呼ばれることもある。大事なことはこのROIの算出式である。ROIは決して「利益を投資額で割ったもの」ではない。この間違った解釈が、投資の決定を見誤らせているのだ。
ROIの正しい計算式は、「利益増加額÷投資額」である。例えばあるビジネスの利益が500万円だったとしよう。ITサービスを変更するのに100万円かかり、それによって利益が550万円に増えたとすると、ROIは次のように表される。
(550万円−500万円)÷100万円=50%
ただし、ITサービスの場合は投資に対する効果を数値化することが大変難しい。そのため余計に、ITサービスに対する投資を躊躇させてしまう。それを防ぐためには、ITサービス部は常に以前のRFCの説明でも述べたような「投資しなかったらどのような負のインパクトがあるか」ということを定量的に示すクセをつける必要があるだろう。
谷 誠之(たに ともゆき)
IT技術教育、対人能力育成教育のスペシャリストとして約20年に渡り活動中。テクニカルエンジニア(システム管理)、MCSE、ITIL Manager、COBIT Foundation、話しことば協会認定講師、交流分析士1級などの資格や認定を持つ。なおITIL Manager有資格者は国内に約200名のみ。「ITと人材はビジネスの両輪である」が持論。ブログ→谷誠之の「カラスは白いかもしれない」
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