できることから始めたダウンサイジング:闘うマネジャー
ダウンサイジングには教科書的な手順があるようだが、まず自分たちが使うシステムをあらためて眺めてみることから始めてみると、最初にできることは何なのかが見えてくる。
シンプルな構造に目を向ける
前回示したように、ダウンサイジングには主に4つの手法があるが、決め手に欠く。そこで、現状のシステムをあらためて眺めてみることにした。長崎県庁では一部のシステムがオンライン処理をしているが、基本はバッチ処理中心である。このため、図1のようなシンプルな構造をしている。
あらためて眺めてみると、登録処理は、論理チェックや整合性チェックなので処理はたかがしれている。チェック後の値はファイルに蓄積されるだけなので、入力画面とファイルとの関係もシンプルである。そこで、まず登録処理部分をWeb系のシステムへ切り替え、汎用機から切り離すことを考えた。ダウンサイジングの手法としてはリライトとなるが、範囲が狭いので、部分的にリエンジニアリングを導入した。業務の見直しは、範囲が広いと収拾がつかないが、狭い範囲においては単純な無駄の排除や手順の見直しに過ぎないため、職員からの反発も少ないし、歓迎される面も多い。
次に出力処理に目を向けた。これはファイルからデータを取ってきて、定義ファイルに従って出力しているだけである。リライトの手法を選択することにした。課題は大量の出力をオープン系で行えるかだが、電算室で行っているから大量と高速が要求されるのであり、出力用ファイルとして各課毎にExcelとPDFを用意すれば、課内のプリンタで十分でまかなえる。また、帳票には何に使われているかも分からないものがあったりするが、ExcelとPDFを作る中で整理することとした。以上で図2の状態となる。
県税処理等の関係で汎用機側に大量出力用の環境は残すものの、実質的に汎用機に残るものは図3となる。ところで、図3はいわゆる業務処理だ。給与計算手順書や県税計算手順書がシステムとは別に整備されている。職員も十分な業務知識を持っている分野だ。すぐに読み解けと言われれば難しいが、時間をかければ職員は確実に作業を完了してくれる。ならば、登録処理部分のWeb化と帳票の電子化を先に行い、業務処理部分は後回しにすれば良い考えた。あれこれ悩むより、できることから始めれば良いと割り切った。
奇異に聞こえるかもしれないが、業務処理部分のダウンサイジングを後回しにすることで、汎用機の専用端末廃止という分かりやすい成果と業務処理部分を検討するための時間が確保できる。
年間2億円のコストを削減
専用端末はPCではあるのだが、汎用機に接続するための専用ハードとソフトを搭載しているだけでなく、プリンタもセットで用意されているので、当時県庁全体で、毎年2億円ものコストがかかっていた。これを無くすのだから大きな成果と成り得る。
業務処理部分は、長年、職員が大事に育ててきた財産である。リエンジニアリングは無意味に思える。リホストでは爆弾の導火線を延ばす程度の効果しかないように思える。では、リライトかというと、COBOLを例えばCで書き直したとして、今より見やすくかつ扱いやすいものになるとは思えない。COBOLは古くさい言語だが可読性については定評がある。
そもそも、ダウンサイジングにより、ファイルからDBに移行することにしている。SQLでデータを自由に扱えるようになるので、DBの方が良いのだが、ファイルの場合とアクセス方法が異なる。COBOLのままとしたところで、SQLへの書き換えが山ほど発生する。自動変換できればいいのだが、プログラムを見てみると、できそうには思えない。急いで結論を出すのではなく、十分に検討した方がよい。時間をかけることにした。続きは次回に。
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