SaaSに対するユーザーの本音:アナリストの視点(3/3 ページ)
クラウドコンピューティングからSaaSの将来を読み解く本連載。2回目は、SaaSに対するユーザーの本音や、SaaSの不安をクラウドコンピューティングが解消する可能性を明らかにする。
データを外に預けることへの抵抗感
SaaSがコスト削減の手段から、これまでに述べたメリットを享受できるレベルに進化するには、超えなければならない壁がある。その最たるものは「データに対するユーザーの意識」だ。
下記のグラフは、社外に預けたくないと考えるデータをたずねた結果だ。ここでは、財務会計データや顧客データなど、企業のコンプライアンスや個人情報保護関連のデータを社外に預けることに少なからぬ抵抗を感じていることが読み取れる。
一方でセールフォース・ドットコムのように顧客データを扱うSaaS型のCRM(顧客関係管理)アプリケーションが受け入れられている実態もある。データを外に預けるという点だけを取り上げると否定的な反応が返ってくるが、実際の業務に照らし合わせて検討すれば抵抗感が和らぐなど、心理的な側面も多分に影響していると考えられる。
「社内だから安全、社外だから危険」とも言い切れない。中堅・中小企業では、財務会計データをアプリケーションと経理担当者のクライアントPC内に保存している場合も少なくない。データの消失や盗難、担当者の長期病欠といったリスクを考えた場合、物理的なセキュリティや運用管理体制に乏しい自社内よりも堅牢なセキュリティと万全の運用体制、バックアップ体制を整備したデータセンターに預ける方が安全という見方もできる。
実際、若手の二代目経営者層にはそうした考えを持つ傾向が見られる。「内か外か」という一元論的な視点ではなく、社内の不正行為や天災、ハードウェアの故障やシステムエラーによるデータの損失など、実際に起こり得るリスクを想定し、最適解を導きだすことが大切といえよう。
クラウドとコンプライアンスがユーザーの意識を変える
どうすればデータを外に預けることの抵抗感を解消できるのだろうか。
調査では、データを社外に預けたくない理由として、「自社固有のデータ形式であるため、社外に配置すること自体が難しい」と「個人情報保護方などコンプライアンスの観点から好ましくない」という回答が挙がった。
1つ目の理由であるが、これには「SaaSでは自社固有のデータを扱うことができない」という暗黙の前提が隠れている。しかし、第1回で述べたようにクラウドコンピューティングの要素を取り入れたPaaSやXaaSであれば、独自開発した自社内システムと同等のものを、インターネットを介したデータセンター内に構築できるようになる。つまり、1つ目の理由はクラウドコンピューティングの活用によって解消できる可能性が十分にあるといえよう。
2つ目の理由は、今後求められるコンプライアンスの方向性によって大きく左右される。例えば、「個人情報は施錠され、入退室管理がなされた区画内にて管理・保存する」ということが、順守すべきコンプライアンスの常識になったとしよう。そうした特別区画を新たに設けるコストとSaaSを活用するコストを比べた場合、後者の方が現実的である企業が少なくないはずである。
先にも書いたが、本当にセキュリティの高いデータ管理とは何なのかということを冷静に考えた場合、「データを外に預ける⇒コンプライアンスに反する」とは単純に言えなくなるはずである。今後啓発が進めば、そうした単純な論法に頼らず、ユーザー自身が自社に最適なデータ管理対策を考えるようになっていくものと期待される。
今回は実際の調査データを基にしてユーザーのSaaSに対する意識と、今後SaaSが普及するために必要となるユーザーの意識改革のヒントを考察した。最終回では、クラウドコンピューティングによって進化したSaaSのメリットを解き明かしていく。
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