無線LANの電波の伝搬を測れ:計る測る量るスペック調査隊(3/3 ページ)
電波は目に見えない。そのため、無線LANのアクセスポイントから実際にどのように電波が伝搬しているのか、またどのくらいの距離まで通信ができるのか、直感的に把握しづらい。そこで、今回はプロのツールを用い、無線LANで使用される電波の伝搬をスペック調査隊が調査する。
信号強度とアプリケーションパフォーマンス
最後に、信号強度と実アプリケーションパフォーマンスの関係を調べるため、FTPを使用した計測を行った。適当なポイントに無線LANクライアントをセッティングし、既知のサイズのファイルをFTPで転送、送信にかかった時間から単位時間当たりのデータ転送量を測定した(図6)。
また、実験では6階にAPを設置したが、APから送信される電波は壁や天井によって減衰するものの、ほかのフロアにも到達する。それがどの程度のものになるのかも測定した。測定はセミナー会場として利用されている7階から9階までを対象に、パッシブサーベイを実施した。なお、サーベイのサンプルが多いほどより正確な値になると考えられるので、6階については先ほど示したアクティブサーベイとパッシブサーベイの測定結果をマージしたものを使用している。
フロアごとの信号強度と実伝送速度
実験結果は上記のようになった。AP1、AP2のどちらの場合でも、APが置かれた6階と比べて7階では20〜30dB程度信号強度が落ちていた。また、上のフロアほど信号強度は弱くなっているが、減少の度合いは小さくなっており、8階と9階ではそれほど大きな差はない。理由は不明だが、8階や9階では床(天井)を通過した電波よりも近隣のビルに反射して戻ってきた電波が優勢のため、フロアによる差が出にくくなっているのかもしれない。
次に実伝送速度について見てみると、全般的には信号強度が強いところではスループットが高く、弱くなるとスループットもそれに従って落ちることが確認できる。図7は測定された信号強度に対する実伝送速度をグラフ化したものだ。信号強度が-60dBm以上であれば、おおむね20Mbps程度のスループットが得られている一方、-60dBmを下回るにつれてスループットは低下している。ただし、信号強度が-60dBmより大きい場合でもスループットが増加しない点から、この環境ではこの20Mbps程度のスループットが限界となるようだ。
さらに、特筆すべきは6階のAPを使用して9階の無線LANクライアントで通信が可能だったことだろう。AP1ではそれなりのスループットも出ている。この結果から推測すると、一般家庭であればこの無線LANシステムを使用した場合、家中ほとんどどこでも通信が可能と思われる。しかし、違うフロアでも通信可能な電波強度ということは、フロア間での干渉が問題になるということである。測定結果を見ると、今回の実験環境*では同じチャンネルを使用する場合2、3フロア離れていても無線LAN間の干渉を避けることがなかなか容易でないと考えられる。このような場合、APの出力の設定を調整するほか、アンテナをつけ替えて電波の飛ぶ方向を調整するなどの対策が考えられる。
まとめ
今回の実験を通して、信号強度に対してフレームの伝送速度やアプリケーションパフォーマンスが密接に関係していることがお分かりいただけたかと思う。また、思いのほか無線LANの電波が飛んでしまうことがあることもご理解いただけたのではないだろうか。
無線LANは伝送媒体を基本的に信頼せず、その品質に多くを期待しない通信方式であるが、当然のことながら伝送媒体の品質は高いほど良い。無線LANの伝送媒体の品質とは、信号強度や干渉を引き起こす電波の有無のことである。今回の実験から通信品質を無線LANで確保するためには、サイトサーベイが非常に大きな役割を果たすことがお分かりいただけたのではないだろうか。
電波というのは目に見えないため、どのように伝搬しているのか把握しづらい。そのため、使用する環境でどのように電波が伝搬しているのか、一度調査してみると思わぬ発見が得られるかもしれない。
今月の結論
≪物理的にAPから離れると信号強度は弱くなる
信号強度が下がるとフレームの伝送速度とパフォーマンスは低下する≫
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このページで出てきた専門用語
今回の実験環境
もちろん、APが発する信号の強度や指向性は製品ごとに異なるため、すべてのAPでこのような結果が得られるわけではない。
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