StarOffice 9のリリースに垣間見るSunの一人相撲戦略:Trend Insight(2/2 ページ)
OpenOffice.orgの存在もあり、SunがStarOfficeの扱いに苦慮しているのは明らかである。それでも企業ユーザーには魅力的に映るかもしれないが、かつて期待されたStarOfficeの魅力を損なう方向に進んでいるように思えてならない。
バンドルという差別化
こうした疑問に対する答えとしてSunが過去に取り組んできたのは、各種の特典付きでStarOfficeをバンドル形態にて提供するというものだったが、そうした特典もリリースが新しくなるごとに縮小する傾向を示している。例えば6年前のStarOffice 7には60日間有効な無制限セットアップサポートが付属していたが、ダウンロードおよびスタンダード版のStarOffice 9では、60日間有効なサービスコール3回分というサポートに後退しているのだ。
同じくStarOffice 7に同梱されていた482ページもあるマニュアルは、PDFフォーマットでわずか88ページしかない『最初にお読みください』レベルのガイドに置き換えられてしまった。このガイドも単独の解説書としては完結しており、内容的にも分かりやすく編集されてはいるのだが、それだけではカバーしきれない部分がすっかりそぎ落とされてしまっている。
同様に、StarOfficeにはプロプライエタリ系フォントのArial Narrow、Garamond、Broadwayが同梱されているというのも、今では過去の話だ。
StarOffice独自の提供物として残されているのは、便利だが本質的ではないといったものばかりになっている。例えばクリップアートコレクションに含まれているのは、矢印、吹き出し、ダイヤグラム用の各種図形のほかは、コミュニケーション、コンピュータ、ピープル、タイムといったカテゴリのイラスト類にすぎない。こうしたものは、おおかたのユーザーにとってせいぜいが1度か2度使えば終わりだろうし、それ以前の話として、クリップアートが欲しければOpen Clip Art Libraryからダウンロードすれば済む話なのだ。
同様の状況はテンプレートコレクションについても当てはまる。この分野に関しては、伝統的になきに等しいOpenOffice.orgの品そろえに比べると歓迎すべき差別化が行われており、実際これらテンプレートの編成とデザインは良好で(Sunのシンボルカラーであるブルーの色調がかなり目立つ気もするが)、プレゼンテーションの背景選択とその構成もいい線に達している。だがしかし、これと同じテンプレートセレクションはOpenOffice.orgの機能拡張サイトにアクセスすれば、Professional Template Packからダウンロードできてしまうのだ。
同じ話は、StarOffice 9のCDに別途収録されている機能拡張群のインストールについても成立する。Sun PDF ImportおよびSun Presenter Consoleといった機能拡張がオフィススイートにとって魅力的な存在であることは確かだが、これらをOpenOffice.orgで使いたければ機能拡張のサイトからダウンロードできるのだ。
Sunが自社のCDに付加価値をつけるために行った最後の措置は、MySQLとNetBeansおよび、電子メールおよびカレンダー表示クライアントとしてMozillaのThunderbirdとLightningを収録するというものである。このうちMozillaアプリケーションの採用は特に評価すべきかもしれない。それはMicrosoft Officeではこの種のツールが最初から統合されている点に比して見劣りするという、OpenOffice.orgとStarOfficeに共通した批判があるからだ。だがしかし、これまた繰り返しになるが、これらの追加アプリケーションはいずれもフリーソフトウェアであるため、必要なユーザーは個別にダウンロードすれば済んでしまうのである。その上StarOffice 9のCDには、数度のマウスクリックだけで目的の追加アプリケーションを取り込めるといった統合インストーラは用意されておらず、各自が必要とするものを個々の収録フォルダの中から探り出さなくてはならないのだ。
ターゲットとする市場
SunがStarOfficeの扱いに苦慮しているであろうことは、その価格設定に如実に反映されている。6年前におけるStarOffice 7の基本価格は80ドルであり、企業ユーザー150人については単価50ドルにて提供されていた。ところが今日StarOffice 9の価格は60ドルに変更されている一方で、企業向けの提供価格についてはユーザー数に応じて25から90ドルという幅のある単価に改められているのだ。
こうした価格変更から伺い知れるのは、次の2点である。1つ目は、80ドル当時の価格設定でさえプロプライエタリ系オフィススイートに比べれば破格の低価格であったのに、そこからさらに割引をしないとSun側は競争力を保てなかったということだ。2つ目は、現在のSunは企業ユーザーこそがStarOfficeのメイン市場だと見なしているということである。
市場におけるStarOfficeの最大の競合相手は依然としてMicrosoft Officeであり続けているが、おそらくSunの方向転換は、何らかのMicrosoft側の行動に応じた対抗措置という性質のものではないだろう。そうではなくStarOfficeの価格設定とバンドル戦略を見ると、そのターゲットとして、追加機能の探索とインストールという操作を煩わしく感じるタイプのユーザーを狙っているよう感じられるのだ。そして個人ユーザーにかんしては、こうした追加機能の入手法を知らないという人間の方が今では少数派となりつつある。
つまり“自分でできることは自力で行う”という傾向が薄く、むしろ対照的に“便利な機能なら金を払う”という姿勢が強く見られるのが企業ユーザーなのだ。いずれにせよStarOfficeの選んだ方向性は、フリーソフトウェアをパッケージ化した商用ソフトウェアの成功例に対するそつのない模倣と見ていいだろう。模倣とはいえども企業ユーザーにとっては魅力的に響くかもしれないが、フリーソフトウェアに関するある程度の知識を持つ人間であれば、さほどの手間が掛からずに自力で入手可能な追加機能を得るだけのことに、大枚をはたいてまでソフトウェアベンダーとの従来型の関係形成をしようとは思わないだろう。
このような観点で見るとStarOffice 9とは、フリーソフトウェア全般の成功を示す1つの証拠的存在なのであり、そうした中であえて特定の成功例を挙げるなら、それはOpenOffice.orgだということになる。Sunの場合、OpenOffice.orgを中核としたコミュニティー形成に成功したとは言い難いが、同社が行った努力は、かつて期待されたStarOfficeの魅力を損なう方向に大いに寄与していると評していいのではなかろうか。
Bruce Byfieldは、コンピュータジャーナリストとして活躍しており、Linux.comに定期的に寄稿している。
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