「おめでたい」では済まされない上司たち:サバイバル方程式(2/2 ページ)
1人自らのおめでたさを振りまく上司をわらうマネジャーは多い。しかしそのおめでたさがどこから来るのかまで考える人は少ない。
勘違いはどこからくるのか
次は、勘違いCIOの例である。大手電器メーカーE社のCIOであるFはかねてから、情報システム部門はただ単に情報の提供をするだけでなく、業績に直接絡む行動を起こし、企業に直接貢献すべきだという考え方だった。あるとき、ついにそのフォローアップを強力に行うと言い出した。
営業支店内の情報システム部門は「受注が予定通り達成しているか」などを営業部門にフォローアップをし、工場内の情報システム部門は「仕掛り在庫や製造効率、不良率などが目標値に達しているか、原価低減は予算値を達成しているか」などを関連部門にアクションし、その結果を定例の情報システム部門会議でチェックするということだった。Fの執念に、各出先の情報システム部門は従わざるを得なかった。しかし、ライン部門は上司や経理部門からのフォローアップに応えるのがやっとで、情報システム部門のアクションの相手などしている暇はなく、完全に無視をした。しかし、現場の実態を知ろうとしないFは、配下の情報システム部門が業績に貢献していると信じ込んで、無意味なフォローアップを続けた。
Fの考え方も理解できないわけではない。特にFの社内における立場もあったのだろう。しかし、FはCIOの職務や情報システム部門の任務が何たるかを取り違えていたし、正しく知ろうともしなかったことになる。現場の実情も把握せず、主導権を争うことは、お世辞にも戦略的とは言えまい。
CIOの役割は進化する。70年代はコンピュータが戦術的に使われ、せいぜい省人化や効率向上を目的としていた。まだCIO誕生以前で、情報システム部門長がもっぱら技術的管理に専念した。経営感覚は必要ともしなかった。前掲のA社のB取締役は、技術的知識にも関心にも疎く、ひたすら組織の防衛に走る様は、70年代の管理者にも遠く及ばない。
80年代からCIOが認知されるが、その役割はまだ戦術的であった。IT投資効果も省人化・効率化を目指すのが、その役割だったと言えよう。
90年代には、パソコンが普及し、インターネットが急速に環境整備されていく。経営には革新的なマネジメントが要求され、情報戦略が経営戦略の一環として位置づけられた。IT導入目的も、顧客囲い込み・在庫最適化など企業の優位性や最適化を狙うようになった。当然CIOには、IT戦略の立案と実行・業務革新などの役割が求められた。
前掲のC事業所のDは、IT導入を経営戦略の一環として位置づけていれば、一時しのぎの手段をとらずに正々堂々と見込み生産管理の業務改善に取り組むことができたはずである。
そして、2000年代にブロードバンド、光回線化が進み、インターネットの普及が加速され、社会経済構造が大きく影響を受けて変革する。IT導入目的も、資産の最大化や価値の創造など高度化する。CIOも戦略的思考・CEOの信頼獲得・経営への積極的参画など高度な役割を期待される。前掲E社のFは、CIOの役割を勘違いするもはなはだしかったわけだ。CIOは、企業の主観的変化、経営環境の客観的変化に敏感になり、時代の要請に敏しょうに応えなければ、時の流れに置いていかれる。
プロフィール
ますおか・なおじろう 日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを歴任。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。現在は「nao IT研究所」代表として、執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)
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