新しい「人脈力」をつけるための10カ条(後編):Next Wave(2/2 ページ)
前編に引き続き、データセクション代表取締役の橋本大也氏が自身の経験から考察した、ソーシャルネットワークを企業の知識経営に役立たせるための10の理論について紹介していきたい。
賢い集団を作るための4条件
9つ目として、コーヒーフィルターの抽出時間から情報の伝播や伝染病の感染拡大の速度予測にまで適用されている「パーコレーションの理論」。ある実験では、箱にパチンコ玉とガラス玉を均等に詰め込んで上からの電流が下に伝わるまでの比率を調査したところ、パチンコ玉が31%を超えると電流が伝わるようになったという。しきい値を超えると全体の性質が変化するということから、浸透しきい値の理論ともいわれ、ネットワークの下地ができていて、そこに一石を投じると組織が変革するという。
1973年に愛知県で起こった豊川信用金庫事件というケースでは、通学電車内で女子高校生が就職の決まった友人に対し、「信用金庫は(強盗に狙われるので)危ないよ」というからかいの言葉が、いつの間にか「倒産する」というデマとして住民に伝播し、数日後に約20億円もの預貯金が引き出される取り付け騒ぎに発展した。
われわれのビジネスでは、パーコレーション理論を良い影響を与える方向で使いたいものである。
そして10個目に橋本氏は、集団の知恵が働く「賢い集団の4条件」を示した。多様な人々が集まるソーシャルネットワークで重要な4条件とは、意見の多様性(各人が独自の私的情報を持つこと)、独立性(他者に左右されないこと)、分散性(身近な情報に特化しそれを利用できること)、集約性(個々の意見を集約するメカニズムの存在)のこと。これらの条件を整えることで賢い集団を作ることができるという。
ソーシャルネットワークを活用する企業
企業がSNSやblog、wikiなどのソーシャルネットワークを利用することで、創造的な知識経営を行っている事例も多い。セールスフォースドットコムの『Salesforce IdeaExchange』は、新機能のアイデアや気に入ったアイデアに投票できる顧客によるコミュニティー。2006年には年間2回だった新機能のリリースが、2008年には4回に増え、一度に300カ所以上の改善が行われているという。
ベリングポイントの『MIKE2.0』は、コンサルティングのノウハウをオープンにして顧客と一緒に考えるコミュニティーとしている。
P&Gは『BeingGirl』というサニタリー商品のコミュニティーサイトを開設。美容と健康のほか、性に関する情報にも話題を拡げ、10代の女性を中心に世界で200万人以上が訪問。女性顧客の40年間分の売り上げ(1人あたり2400ドル)をターゲットとするしたたかな戦略が見える。
インテルの社内wiki『Intelpedia』は、社員それぞれが、業務分野に関する知識の最高の持ち主であるという考えに基づいて構築された。1年で10万人が利用し、5000ページ以上が生成され、1億3500万回以上の閲覧数がある。最初は1人のエンジニアがこっそりと2週間で構築。あまりの利用の多さに上司が正式に認可したという経緯がある。
米国最大の広告代理店であるRazorfishも社内wikiを開設。運用2年で月間180万PV、従業員の9割がログインする利用率の高さが自慢だ。
これからの20年はソーシャル化の経営スタイルへ
MITメディアラボの名誉会長であるニコラス・ネグロポンテ氏は、1995年の自著「Being Digital」で20年後に企業はデジタルテクノロジーでどのように変革していくかを予測した。
その変革が完了しつつあるという橋本氏は、「今後の20年はソーシャルコンピューティングをどのように構築していくか、人間の人脈ネットワークや効率の良い検索システムなど、人と機械が融合して1つの処理系として成立する『Being Social』が未来の経営スタイルになっていく」と予言する。
橋本氏が解説してくれたように、これまでとは違った角度で人脈とは何かを考え、ビジネスサバイバルに生かしていく必要がありそうだ。
「人脈力」をつけるためのヒント | 内容 |
---|---|
スケールフリーネットワーク | スケールフリーとは、P=0ネットワーク(隣同士しかつながっていない状態)、からP=1ネットワーク(ランダムに全員が全員を知っている状態)までの、ちょうど中間に位置し、他とのつながりの少ない人々の中にハブ型人間(つきあいの広い人物)が少数存在している状態のこと。つまり、現実の社会はつながりやすい可能性はあるものの、つなぐことができる人は限られる状態にある。 |
弱い紐帯の強み | 重要な社会資本を生み出しているのは、実は社外や遠方いてたまにしか会わない人たちとの弱い関係だという考え。毎日顔をつきあわせている会社の同僚よりも、年に数回しか会わない知人の方が、重要な関係性やセレンディピティ(偶発的に価値を発見する能力)が生まれやすい。 |
構造的空隙の理論 | 構造的空隙とはネットワーク関係における穴ということ。他人と重複することがないユニークな人間関係(これを、構造同値の低い関係という)を持つ人の方が人脈の中心に位置できる。 |
信頼の解き放ちの理論 | 赤の他人を信頼できるかどうか(一般的信頼)の度合いが高い社会では、離れたコミュニティーにいる者同士が、近道を作って情報交換をすることが容易になる。 |
適正規模150人説 | 軍隊や企業のプロジェクトチーム、宗教組織などでも150人が効率的な機能単位とされ、個人的なつながりや信頼関係を維持する上での適性規模といえる。 |
少数のハブ型人間の影響力 | 新たに構成員が増加し続けて成長していくコミュニティーでは、新規参加者は知り合いの多い有力な人(ハブ型の人物)につながっていこうとする心理が働くため、スケールフリー性がますます強まる。 |
見えざる大学の理論 | 非公式のコミュニティーほど情報密度が高い。公式の掲示板は閑古鳥でも、勝手サイトや裏サイトは情報交換が活況するように、秘密の場の共有感が新たなアイデアを生む。 |
日本家屋のしきりの知 | 音や光、雰囲気を完全に遮断しない日本家屋を参考に、現場のネットワーキングの創意工夫をある程度黙認しようというもの。 |
パーコレーションの理論 | しきい値を超えると全体の性質が変化するということから、浸透しきい値の理論ともいわれ、ネットワークの下地ができていて、そこに一石を投じると組織が変革すること。 |
賢い集団の4条件 | ソーシャルネットワークで重要な4条件とは、意見の多様性、独立性、分散性、集約性。 |
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