ネットワークを根底から革新する「プログラマブルフロー・スイッチ」出現:伴大作の木漏れ日
この業界にいると、時代を画するような新製品に出くわすことがある。だがさまざまな事情からひっそりと紹介されることも多い。NECの研究所が開発した試作品もその1つだ。
長い間、この業界にいると時々、時代を画するような新製品に出くわすことがある。一般に新製品は鳴り物入りで紹介されるケースが多いのだが、革新的な技術で出来上がったモノは、ひっそりと紹介されたり、人伝で聞いたりするケースが多い。おそらく既存の製品とどのようなすみ分けをするのかが決まっていない、あるいはその技術に否定的な人が開発した会社にいるなどさまざまな理由で諸手を上げて応援することが出来ない事情があるのだろう。
今回取り上げる「プログラマブルフロー・スイッチ」はその典型的な試作品だ。なぜ試作品といわなければならないかを少し説明する必要がある。開発した主体が、日本電気(NEC)の研究所だからだ。NECは今から4年も前にインターネット系の機器の製造販売を日立製作所との合弁会社「アラクサラ・ネットワーク」に移管しており、自社で全て判断を下せる立場ではない。
今回の状況研究成果に関する発表に関しても、再三NECに今後の方針を問い合わせた。商用化に関しては決定されているが、いつ商用化された製品が出荷されるのか、コンソシアム結成、フィールドテストなどの具体的な時期は今後詰めていく段階という回答だった。
個人的な見解だが、このような技術は一日でも早く一般化する努力をしないと、力の強い企業が高いシェアを背景に技術の摘み食いをして、市場をクローズにする可能性がある。
さて、NECがスタンフォード大学Computer Sciennce Nick McKeownと彼が率いるOpen Flow Teamが共同で開発し、GENI(Global Environment for Network Innovations) Engineering Conference 3rdの期間中に実証実験に成功した「プログラマブルフロー・スイッチ」だが、GENIの目指す次世代ネットワークには欠かせない基盤技術だ。現在我々が使用しているインターネット技術は、基本的にイーサーネットをベースにしている。これはLANを想定して開発された技術である。
そのため、ネットワーク遅延が常時発生し、その値が極めて大きなグローバルネットワーク、ブロードバンド通信で利用するにははじめから限界がある事はあまり知られていない。実際、ブロードバンドサービスが一般化している日本でも、実効帯域は物理層で規定されている帯域とは大きな違いがある。
この原因は主にイーサーネット/インターネットで広く使用されているTCP/IPプロトコルに起因している。
したがって、現在日本で広く普及した光ファイバーのような広帯域通信網を今以上に効率的に利用しようと考えるなら、全く新たな、プロトコルを造り上げるか、あるいは少なくともTCP/IPプロトコルに内包した機能的な欠点を補う通信装置が必要なのだ。
NECがスタンフォード大学と共同で開発した「プログラマブルフロー・スイッチ」はその点で活気的な製品だといえるのだ。
プログラマブル・フロースイッチの最大の長所は上記したように高速化が可能だという点にある。NECの発表によるとTCP/IPの通信を行った場合、従来ソフトウエアで処理していたスイッチに比較して約100倍、ハードウエアで処理しているスイッチにも引けを取らない処理が可能だという。
また、複数のネットワークを同一のスイッチ上に並存が可能で、仮想化スイッチ機能により、複数の異なるサービス処理実現を可能としている。オープンフロースイッチの内部構造はネットワークの制御を行うハードウエアFlow Tableとそれ上でコネクションの制御などを行うSecure Channelの部分に分かれいるが、Secure Channelを制御するためのContorollerはAPIが公開される予定だという。
このControllerだが、通信を行う上で接続されているオープンフロースイッチのそれぞれの接続ルール(Rule)、処理(Action)、接続状況(Statistics)全てを監視、制御しているという。
さらに、今回の取材でNECが明らかにしたのは、従来は同じ物理媒体を使っていても実際には接続が不可能な主にTCP/IPを使用したWAN接続や、ファイバーチャネルのような拡張接続、内部バスも1つのスイッチで接続が将来的に可能だということだ。
また、枯渇が問題となっているIPv4と無限のアドレス付与が可能なIPv6では、相互の接続する事は困難と信じられているが、このスイッチを使用することにより、一元的な管理が実現できるという。
まさに夢のようなネットワーク機器だが、今のところはあくまでも研究段階というのがNECの説明だ。しかし、ネットワーク機器の開発は日進月歩だ。一日でも早い実用化が待たれている。
それにしても、NECのこのスイッチに対する熱意があまり表に出てこない感じが強い。今のところは残念に感じている。実用化にはさまざまな問題があることは承知しているが、誰もが待ち望んでいる技術なのだ。NECの総力を挙げて取り組んでもらいたいと心より願っている。
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