人を稼ぐと、人が育つ――分割発注の発想:闘うマネジャー(2/2 ページ)
もし、官の役割が「足らざるものを補うこと」にあるとするなら、分割発注により中小零細企業に直接受注の機会を与えることは理にかなっている。
入札単位を500万円以下に
筆者は20年近く民間にいたのだが、当時、自身がした仕事が給料に比べ十二分に価値あるものだと認識できる機会は数回程度しかなかった。まして、「自分の稼ぎが、会社を支えているんだ」なんて思えなかった。結局、歯車でしかなかった。優秀な歯車としての役割しか求められなかった。
東京であったから、大企業であったから、こんなことで良かったのだろうが、地方では無理だ。もっと肌で感じ、実感し、誇りに思えるようにしなくてはならない。やはり、人を稼がなくてはならないが、具体的にどういうことか曖昧だ。地方では中小企業が多いことを前提に、筆者は、次のようなことではないかと考えた。
(1)自分のした仕事の価値が、金額としてすぐ見え、給料と比較できること。
(2)顧客orユーザーに直接会うことができて、自分のした仕事の評価・価値を肌で感じられること。
(3)時間が経つにつれ、以前と違う育った自分を感じられること。
(4)誇れる仕事を持っている自分を感じられること。
(5)大手でなければできないと思っていた自分がなくなり、私でもできると思っている自分を感じられること。
(6)業界のプロに認められること。
筆者は、これを実現するために分割発注を行っている。詳細な設計書を用意した上で、入札単位を500万円以下にした。
すると、中央の大手ITベンダーが入札に参加することはなくなる。ブラック・ボックス化できない上に、中央大手の体質では営業赤字となるからだ。また、地場大手もあまり参加しない。地場大手は中央大手の代理店のような位置づけがあり、その枠組みの中で既に仕事があり、県庁の仕事にうま味を感じないからだ。結果、中小零細ベンダーに受注機会が確保される。
ITの分野では、土木のような資材や重機も必要としないので、文頭で述べたような問題がない。また、500万円以下とすると、調整・監理するような仕事もない。設計書通りに動くかどうかを確認するだけだ。一方、受注したベンダーはどうであろう。発注者でありユーザーでもある県庁職員と直接対話するため、自身の仕事の評価や価値を肌で感じることになる。いい仕事をすれば賞賛され、いい加減な仕事をすれば「あの人は駄目だ」と相手にされなくなる。500万円以下という金額は、会社ではなく本人を正確に評価してしまう。
今、長崎の地場ITベンダーは(4)の段階に到達し、(5)に挑み始めた。人を稼ぐと、人が育つ。是非、そちらの地域でも実践してほしい。
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