「Excelでどうにかならないか」――中小企業IT支援のミスマッチ:IT Oasis(2/2 ページ)
中小企業へのIT支援の枠組みはさまざまな形で進められている。不況が深刻化する中、こうした動きは非常に重要だ。しかし、支援する側とされる側の間でニーズのミスマッチはどうしても起こる。具体例を挙げて見てみよう。
PCが動かなくなったら飛んできて
リフォーム業の社長から依頼が来た。リフォームといっても便利屋さんで、庭木の剪定から、側溝の落ち葉拾い、頼まれれば蛍光灯の交換までする。会社といっても父親と2人で切り盛りしており、大きめの仕事が入ったときは仲間を呼び集めて対応するのだそうだ。
ほとんど個人事業であるが、そんな会社でITが必要かというと、ネットでホームページを開いていると、そこから結構依頼が来るのだそうだ。
「それで、何をお手伝いすればいいのですか?」
ホームページに請け負える作業と単価が書いてあるのだが、受注促進のためにサービス月間みたいなものを作って動的に変えたい。そのたびにWebデザイナーを頼んでいてはコストもかかるし、時間もかかるので、Excelでデータを変えたらホームページの内容も変わるようにできないだろうか、という相談である。
それはプログラムを組めばできるでしょうと返事したのだが、CGIを使ったプログラムは社長の手には負えないだろう。一方、外部委託するほどの金は出せないので本件はそれまでとなった。
社長の頼みごとはもう1つあった。
お金がないのでフリーソフトを使っている。いろいろなソフトをインストールしているのだが、そのせいか時々、PCがフリーズしたり、プリンターが印刷できなくなったりする。そういうときにどうしていいのか相談する人がいない。1カ月交通費込み5000円で、何かトラブルがあったらいつでも飛んできて直して欲しいというのが社長の頼みであった。
この手の依頼はたくさんある。こういう仕事も100件とか1000件単位で請け負えばビジネスとして回るのかもしれないが、民間でも行政でも、このレベルの要求にこたえる仕組みはない。
まあ、コーヒーでも飲んで
京浜工業地帯の社員10名ほどの板金会社。安い土地を求めて対岸に工場を建てた。土地の値段がものすごく安い。工場用地が10万坪あるのだが、都心近郊の建売を買うのとほぼ同じ値段だそうだ。使い切れないので半分は造成しないで山のまま残っている。そんな所なので、インフラと言えば電気が来て、かろうじて道路はつながっているレベル。驚くことに宅配便は毎日やってくるので、完成する製品は日々託送できるのだ。
通信事情は当然悪い。NTTの基地局ははるかに離れているのでISDNしか使えない。営業部門は本社にあるので、受注すると生産指示が山の中のこの工場に出される。それを工場から本社サーバに取りに行って、製造指示書を印刷する仕組みである。
「やって見せてくれますか」
「いいですよ。この画面を出して、このボタンを押して、指示書を印刷するんです」
かたずを飲んで見守っているのだが、画面は凍りついたまま、プリンターはカタリとも動かない。
「あれ、PCが固まっちゃいましたよ。フリーズでしていませんか?」
「先生、タバコ吸われますか? ちょっと一服いかがです?」
「私、タバコ吸わないので」
「それならお茶にしましょう。コーヒー入れますよ」
別室に移動して、コーヒーをごちそうになり、地元の名物の話でしばらく盛り上がった後、PCに戻ると、PCは依然として元のまま凍りついている。腰をすえて待っていると、しばらくして画面が変わり、指示書が印刷され始めた。指示書は1日1回取りに行くだけなので問題ないそうだ。緊急のときは電話やFAXで直接送って来るのだという。地方ではITインフラがこのレベルというところはかなりある。
しかしネットインフラなんてこんなものだと、納得してしまうと発展がなくなってしまう。次回も中小企業のIT活用について考えていきたい。
プロフィール
さいとう・じゅんいち 未来計画代表。NPO法人ITC横浜副理事長。ITコーディネータ、CIO育成支援アドバイザー、上級システムアドミニストレータ、環境計量士、エネルギー管理士他。東京、横浜、川崎の産業振興財団IT支援専門家。ITコーディネータとして多数の中小企業、自治体のIT投資プロジェクトを一貫して支援。支援企業からIT経営百選、IT経営力大賞認定企業輩出。
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