医療IT化の要 レセプトオンライン化の現実:Weekly Memo(2/2 ページ)
NECと日本事務器が先週12日に発表した医療事情報システム分野での協業強化は、来るべきレセプトオンライン請求時代を見据えたものだ。だが、その道のりには幾多の課題もあるようだ。
レセプトオンライン化の課題
今回の発表会見では、両社の協業強化の内容説明に先立って、その背景となるレセプトオンライン化の動きについても触れていたので、そのエッセンスを紹介しておこう。
11年度からレセプトオンライン請求を原則義務化する厚生労働省の方針に対し、08年度は400床以上の病院が対応した。続いて09年度には400床未満の病院と調剤薬局、10年度にはレセプトコンピュータ(以下、レセコン)は設置しているがオンライン化していない病院および診療所、そして11年度にはすべての病院および診療所(歯科を含む)に展開され、最終的には22万を超える医療機関がネットワーク化される格好となる。
ただ一方で、病院の経営は非常に厳しい状態が続いている。厚生労働省の調査によると、07年度の段階で、医療法人や個人、国立の病院はかろうじて黒字だが、都道府県立および市町村立の病院は大幅な赤字に陥っている。また病院数も04年度の9077施設から08年度は8795施設と、5年間で282施設減った。
こうした中で、今後病院に求められるものとしては、医療の質の向上が大前提ながらも、昨今の厳しい経営状況に対応するための業務効率化も避けて通れない。この両方を推進していくためには、継続して医療を提供するための経営基盤を確立する必要がある。そこで要となる病院収入の中核をなすのは診療報酬であり、その病院収入を支える経営の基盤システムこそが医療事務システムなのである。
とはいえ、その医療事務システムにも課題はある。頻繁に行われる診療報酬改定・医療制度改定・薬剤マスター変更に対し、迅速なシステム更新が要求されるのだ。この課題は、病院からすると短期間での対応準備が不可欠となり、医療事務システムベンダーにとっても開発・サポート体制の確保などが求められる。今回両社が発表したIBARSonlineサポートサービスは、この課題に対するソリューションである。
両社の発表会見では、このあと先に紹介した協業強化の内容説明に入っていった。
レセプトオンライン化については、ここにきて撤回を求める声も上がっている。大阪府保険医協会が最近行った調査では、レセコンを使用せずレセプトを手書きしている開業医の約6割が「閉院を考えている」と回答。また1月21日には、全国35府県の医師・歯科医師計961人が国を相手に、オンライン化の義務がないことの確認と損害賠償の支払いを求める訴訟を横浜地裁に起こした。オンライン化は医師の営業の自由や患者のプライバシー権の侵害にあたり違憲だというのが、その主張だ。
ただ、その背景には医師などの高齢化やITリテラシーの問題もあるようだ。さらに医療IT化に詳しい業界関係者によると、「診療報酬を引き下げる一方でコスト負担を強いる医療行政への不満が根底にある」という。
完全オンライン化に向けては、代行入力の体制づくりなどの論議も行われているようだが、医療全体のさまざまな問題に関わるだけに、行政をはじめ関係機関にはぜひともスムーズな移行に向けて知恵を絞ってもらいたいものだ。
プロフィール
まつおか・いさお ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。
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