原上ソラ――勉強会の再構築を図る気鋭の中学生:素顔のデジタルネイティブ(2/2 ページ)
1990年代以降に生まれ、その才能を芽生えさせつつある若い人材――原上ソラもそんな一人に数えられる。「勉強会の空気を新たにネット上にも構築してみたい。今度はオフが苦手な人たちも巻き込む規模で」と話す彼の素顔に迫る。
勉強会は進化する
ソラは大人のプログラマーに対して「もっと技術を教えてほしい。『ほしい』というと少しネガティブな印象を与えるから、そう表現はしたくないのだけど」と静かに話す。続けて、「勉強会は近年盛んに開催されているけど、開催場所が大都市部に集中していて、北関東に住んでいる自分にはハードルが高い。地理的な問題のほかにも、さまざまな事情からリアルの勉強会に参加することが困難な人も多い。ひどい場合には、勉強会自体が手段ではなく目的になってしまっているものもある。勉強会でなく、その後の懇親会に重きを置いているものもあるし。時代の変遷とともに、勉強会の定義も変わらなければならないのに、『勉強会はすばらしい』という言説だけが、まるで呪文のように残ってしまっている」とも話す。
熱意や熱気が空気を介して参加者に伝わるリアルの勉強会のよさは否定しないものの、自らのような立場の人間でも気軽に参加でき、かつ知識を得られる場がほしい――彼が現時点で作り上げた最大の成果は、コードではなく、オンラインの勉強会であるOnline.sgだと記者は考える。事実、ソラがその存在を知られるようになったのは、Online.sgを開始したことが大きい。
ソラが高校1年生のPasta-Kとともに立ち上げたOnline.sgでこれまでに開催したテーマを挙げてみると、「Railsではてブもどきを作ろう」「GAE/PでPython入門」などリアルの勉強会で取り上げられるような本格的なものが並ぶ。3歳から7歳までの4年間、米国で暮らしていたソラは英語のリーディングも難なくこなす。英語のドキュメントに対する抵抗感も少ないため、勉強会では自らが講師を務め、Online.sgをきりもりしている。まだ荒削りな印象だが、そこに潜むイデオロギーをソラはこう語る。
「インターネットはかりそめのコミュニケーションで、リアルの勉強会こそ本当の温かいコミュニケーション、みたいなのは絶対嘘だと思う。ネットでつながる時代になって思うのは、みんなすごくコミュニケーション好きになっているということ。そして、意見の民主化。Twitterなんかがその代表的な例だけど、何か疑問があればすごく詳しい人に聞きにいくんじゃなくて、ネット上の身近な存在に聞くことが多い。Online.sgはまだ歴史が浅く、リアルの勉強会と比べて軽んじて見られるけど、細かなテーマをタイムリーに拾えるし、話者と聞き手の関係がリアルの勉強会よりさらに近く、開催中は皆が言いたいことを言い合う。僕は、勉強会の空気を新たにネット上にも構築してみたい。今度はオフが苦手な人たちも巻き込む規模で」
Online.sgでは、時に年長者から手厳しい意見をもらうこともある。しかしソラはそれでも勉強会を通じてさらに成長したいという。「人生の究極のゴールは、楽しむことだと思う。僕は、こうして取り上げられるに値するほど優れたプログラムを作成したわけではない。だけど、プログラミングは楽しい。楽しいからプログラミングをする。何かを好きになるのに理由はない」と語るソラに、「Just For Fun」(それがぼくには楽しかったから)の言葉でも知られるリーナス・トーバルズの姿を重ねるのは言い過ぎだろうか。少なくとも、ソラはプログラミングを心から楽しんでいる。そして、こうした者が後にひとかどの人物になるのではないかと記者は思う。
「次回のOnline.sgはVimをテーマに開催する予定。vimはカスタマイズの幅が広い上、Emacsと比べて動作が軽いのがいい。僕はhjklじゃなくていまだにカーソルキーで移動させていたりするけど(笑)。でも、カスタマイズについてかなり知識がたまってきたので、皆で共有できればと思う」
若さを疑え、そしてひねくれろ
ソラは、中学校の仲間うちではまだそれほどプログラミングができると認知されていない。それは彼が原上ソラという架空の存在を作り上げることで、望んだ結果でもある。「プログラミングをするようになって、論理的な思考や数学的な知識も自然と身についたけど、学校の友人などからは『ハッキングできる?』のような誤解を持たれていて、その感覚の違いにいらっとする。自分のいる学校という場所が息苦しくて仕方ない」――現実の彼と原上ソラとのギャップはこうして少しずつかい離していく。そのことが彼にオンラインのコミュニケーションを志向させているようにみえる。それは、この世代ではもはや珍しいことでもないのかもしれない。
「本来なら若者は消費者としても、あまり価値はない。お金を自ら稼いでいるわけではないので、これは当然のこと。まして、ものづくりをする人間としては未熟で、ますます価値が低い。若さには価値があると自らを納得させ、若さの幻想に振り回されてしまってはならない。僕もまだまだ若輩者なので、何かメッセージを残すのはおこがましいけど、同じような世代には『もっとひねくれていいんだよ!』と伝えたい」
若きイノベーターであるソラが今一番ほしいもの、それは、「ネットブック」。「Macbookは慎重に品定めをして購入したものだから気に入ってるけど、軽いネットブックを持ち歩いてエクストリームプログラミングみたいなことをしたい。でも、親にはPCを所有しすぎだ、とかいわれている。実はイーモバイルなども契約したいだなんてことはおいそれと口にできない。またまた退屈な答えで申し訳ない(笑)」と嘆く。
本当の意味でのハッカーとは
そんなソラからすると、ハッカーの定義もまた変わるようだ。「まだ自分の世界がそれほど広がっていないので個人的な見解だけど」と前置きし、「大物ハッカーといえば、はまちや2さんやamachangさん。比較的身近な存在であれば、rosylillyさんのような方にもいつも刺激を受けています……よくdisられるけど」とソラは自らの価値観を説明する。rosylillyとは別記事「ひとりで作るネットサービス」にて「絶対、僕たちよりすごい高校生がいるはずなんです。もっと前に出てきてほしい。『俺すげー!』で終わってほしくない」と訴えていた草野翔さんだ。草野さんも若くして活躍しているが、ソラはさらに若い。こうした若い才能が世の中に開花しつつある。
「こうしてプログラミングをしていてよく思うのは、本当の意味でのハッカーというのは、周りのみんなに認められることだと思う。自分で『ハッカーだぜ!』とか自称している人にたいした人はいないし、そもそも、手より口を動かしているプログラマーという時点で薄っぺらい。白鳥が美しいのは水面下の一生懸命さを見せないからだと思う」
ソラは自身の今後について、「近い将来なら、リアルの勉強会でLTを経験しておきたい。未踏や各種コンテスト、セキュリティ&プログラミングキャンプなどへの参加はまだしばらく先だと思う」と話す。しかし、その先はすでに決めている。
「これからいろいろなことがあるだろうけど、許されるならいつまでもコードを書いていたい。将来の夢はプログラマー。小学校2年のときからはてなのサービスを使い続けているので、いつかはてなに入社して恩返ししたいかな」――ナナロクでもハチロクでもキューイチでもない、これから時代を動かしていくであろう人物の一人に原上ソラが名を連ねるのかもしれない。
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