プライベートクラウドはオンプレミス? ――富士通が独自調査で示した見解:Weekly Memo(2/2 ページ)
富士通が先週、クラウド関連製品を発表した際に、今後のクラウドビジネスの方向性について興味深い見解を示した。同社の独自調査に基づくその中身とは――。
2015年度のIT市場におけるクラウド比率は2割に
会見での説明で最も興味深かったのは、「国内IT市場におけるクラウド浸透予測」と題した同社独自調査に基づくグラフだ(図参照)。それによると、2008年度は1538億円だったクラウドサービスの市場規模が、2015年度には2兆5280億円と16倍以上に拡大すると予測。IT市場におけるクラウド比率も、2008年度の1.3%から2015年度には20.1%に伸長するとしている。
ただ、山本常務はこう付け加えた。「2015年度に2割というクラウド比率を大きいとみるか、小さいとみるかは、見方が分かれるだろう」。続けて、「逆に言うと、2015年度でもオンプレミスが8割も残るということ。われわれはここに着目したい」と力を込めた。
さらに、「クラウドに対するお客様の期待」と題して、2009年度上期でのクラウドをキーワードとした同社商談案件約500件を分析した結果も披露した。それによると、「SaaSアプリケーションの利用」を求める割合が60%、「自社ITシステムへのクラウド適用」を求める割合が30%、「プライベートSaaSの構築」を求める割合が10%だったという。
この結果で富士通が注目したのは、「自社ITシステムへのクラウド適用」を求める割合が30%もあることだ。これはまさしくプライベートクラウドの範ちゅうだが、同社の分類によると、この部分はクラウドサービスではなくオンプレミスに加算されている。
それで先ほどのクラウド比率が小さい謎が解けた。しかし、本当に「プライベートクラウドはオンプレミス」と解釈していいのか。会見の質疑応答では、それを確認する質問が飛んだ。その質問に山本常務が答えた発言の触りが、冒頭に紹介したコメントである。以下に、その続きを紹介しておこう。
「とはいえ、プライベートクラウドにおいても、実際にはさまざまなクラウドサービスが入り込んできて、オンプレミスと混在する形が多くなるだろう。それらが統合されて、IT利用環境として継ぎ目のない形になっていく。重要なのは、そこに新たなビジネス創出の機会があるということだ」
本コラムでは以前に、「プライベートクラウドはクラウドか」と題して疑問を呈した。プライベートクラウドがクラウドの本質をぼやかして、ユーザーに誤解を与える懸念を強く感じたからだ。その意味では、山本常務が冒頭で語ったように「プライベートクラウドはオンプレミス」と言ったほうが分かりやすいかもしれない。
要するに、ユーザーにとっては、ITリソースを「持つか持たざるか」の選択だ。どちらが良いか悪いかではなく、用途ごとのメリットの問題である。そんなことをあらためて考えさせられた富士通の会見だった。
プロフィール
まつおか・いさお ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。
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