競争激化、クラウドサービスも付加価値の時代へ――日本パテントデータサービス:導入事例(2/2 ページ)
特許をはじめとする知的財産に関する情報は、日本国内だけでも年間90万件前後が特許庁から公報によって発行されている。商用特許データベースは、これら膨大な特許情報検索のサービスを提供する日本パテントデータサービスは、検索結果の付加価値として自動翻訳機能を取り入れ、確実にシェアを伸ばしている。
自動翻訳エンジンは、言語処理機能とAPIの使い勝手、サポート体制が重要
JPDSが特許情報特有の翻訳の問題に対処すべく、自動翻訳のエンジンに選んだのは、東芝ソリューション製。東芝といえば、1980年代初頭からTOSWORDの名前でワードプロセッサの開発を手掛け、その後も日本語の言語処理についてのノウハウを持ち続けている企業だ。
「正確な特許情報を素早く、広く提供することで日本の技術産業の発展に寄与すること」(仲田氏)を社是に掲げるJPDSとしては、低価格だからという理由で品質に妥協することは許さなかったそうだ。実際、自動翻訳エンジン導入については、ビジネスとしてのサービス拡張というより、自社への投資と考えているそうだ。自動翻訳サービスという機能アップによる値上げや売上アップを狙うのではなく、商用特許データベースの総合的なサービス向上と、ナレッジの蓄積が目的だと仲田氏は述べる。そのため、専門用語や未知語による翻訳辞書の設定やチューニングなど、サポート体制にもこだわったという。さらにJP-NETのシステム開発を手掛けるベスト・システム・リサーチの田代氏は、「翻訳エンジンが提供するHTTPベースのインタフェースが非常に扱いやすく、既存システムと連携するデモ版のプロトタイプは1週間程度で開発できました」とスピード開発にもこだわったという。
新規顧客の開拓、シェアの拡大
このようにして、2009年11月からJP-NETの英文自動翻訳機能サービスが開始されたわけだが、ユーザーの評価やJPDSにとっての導入効果はどうだったのだろうか。
懸念があったのは、自動翻訳による翻訳の品質だ。いくら精度が高いとはいえ、自動翻訳である。品質に関するクレームは事前に予想していたのだが、実際には翻訳文章に対するクレームは寄せられなかったという。現在のところ、特許資料のうち要約、請求項だけの翻訳となるが、原文との対訳表示(1画面に原文と翻訳文を展開表示)機能などが好評で、英語の読めるユーザーからの支持もあるとのことだ。
サービス開始後の効果だが、自動翻訳機能を追加したことで、契約につながるケースが増えたという。実際に、海外特許情報の翻訳機能を開始してからの受注件数と、それ以前の受注件数を比較すると、およそ1.5倍になったとの報告も受けているとのことだ。
中国語対応や翻訳文書のレポーティング機能を強化したい
仲田氏によると今後は、検索対象となる海外の特許情報を2010年中に70カ国まで増やし、翻訳機能については、中国語−日本語の翻訳機能を実現したいとしている。冒頭でも述べたように、中国やアジア圏は今後日本企業の進出も進むと目されており、中日翻訳にニーズは確実に増えている。中国語以外では、ドイツ語、フランス語などEU圏の言語への対応ニーズもあるそうで、こうした地域への日本企業進出をサポートすべく、JPDSの展開に期待したい。
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