キヤノンS&Sで基幹系とフロント系の橋渡しをするFileMaker:導入事例(2/2 ページ)
キヤノンS&Sは、約6000人もの規模でFileMakerを利用しているという同製品の“国内最大級”とも言えるユーザーだ。その活用範囲は、フロントから、一部基幹系をフォローする部分にまで及ぶという。
「エンドユーザーの気持ちになって作れる」開発効率の高さ
キヤノンS&Sが全社規模で利用しているFileMakerは、基本的に情報リテラシー推進部が管理している。FileMakerを担当しているのが4人、そのサーバの管理に2人という人材配分だ。なお、FileMakerのバージョンはグループ全体で共通化されており、現在はFileMaker 10を使っているとのこと。
「7から10にバージョンアップして、機能的にはスクリプトトリガなどが増え、使いやすくなりました。今後は、もっと開発の幅が広がるかと思います」と語るのは、キヤノンS&S 情報リテラシー推進部の国枝俊哉副部長だ。
国枝氏は、以前の情報システム部門では汎用機を担当していたという。その後、グループ全体のITガバナンスの変化に伴い、情報リテラシー推進部でFileMakerを担当することになった。3年ほど前に初めて触ったFileMakerを、氏は「“とっつきやすい”ツール」と評価している。
「この年齢からでも、ある程度は自分でやりながら習得できます。解説などの情報もWebに充実しているし、詳しい人に質問するなどすれば、講習会などを受けるまでもなく使いこなせます。特に便利だと感じるのは、ほかのDB製品と違って、関数をほとんど書かなくて済む点です。スクリプトを組むときなど、ほとんど手入力することなく、かなりの部分まで作れるのです」(国枝氏)
内田氏も、やはりFileMakerの開発効率の良さを高く評価している。
「開発ツールとエンドユーザーの使うツールがほとんど一緒というのも良い点ですね。最終形をイメージしつつ作れるので、使いやすいシステムにできます。かつて情報システム部門では汎用機からPCまで扱っていましたが、その多くの環境と比べると、FileMakerはエンドユーザーの気持ちになって作れるツールです」(内田氏)
ユーザーからのちょっとした要望などは頻繁に上がってくるが、情報リテラシー推進部では、「だいたい3日くらいで」(内田氏)対応しているという。一方、社員たちもローカル管理システムでFileMakerを使ったり、全社規模ではない小さなシステムを数多く作ったりしている。その多くは、特別なトレーニングなどは受けていないという。
「顧客にFileMakerの活用を教える業務を担当している社員を除き、一般社員向けのFMトレーニングは特に行っていません。ときには情報リテラシー推進部に相談してくるケースもありますが、社員どうしで使い方を教え合っていますね。社員たちも全国各地のローカル管理システムで経験を積んでおり、我々と同じくらいのスキルを持つ“達人”がたくさんいますから」(内田氏)
全国各地の多数の拠点、地域ごとの企業だった企業を全社的に統合していくために
6000名弱の社員を擁し、約200もの拠点網を全国各地に展開するキヤノンS&Sでは、サーバへのアクセス数も相当なものになる。全社規模で使われるFileMakerサーバは、そのアクセスにも耐えるパフォーマンスを発揮しているという。
「初期のサーバ版では同時に利用できるユーザー数の限界などもあって苦労しましたが、最近のバージョンは良くなってきました。まだまだ改善の余地があるとは思いますが、今のところ200拠点でも特に問題はありませんね。とはいえ、最近ではシステム数の増加につれてサーバ台数も増えており、管理が大変になりつつありますので、今後は仮想サーバを活用するなどして、サーバのスケールアウトを検討しています」(内田氏)
これだけの規模で運用していると、異動に伴うオペレーションも煩雑になると考えられる。だが内田氏は「FileMakerはActive Directoryと連携できるので、課、部、本部、事業部、そしてグループ単位で柔軟にアクセス権を設定できます。特定のレイアウトやレコードの表示/非表示や、スクリプトを動かすか動かさないかなどは、Active Directoryと連携したアクセス権で制御できます」と話す。
一方、情報リテラシー推進部が抱えるFileMaker開発のバックログもまだ残っているという。例えば、グループ共通ワークフローに適合しない、自社独自要件のワークフローをFileMaker上で構築していこうとしている。
「拠点数が多いので、1つの部署でも各地に分散する形となってしまいます。1カ所にまとまることが非効率なので、承認を求めるべき上司が別の拠点にいる、というケースも少なくありません。この承認を紙やメールで行うには、やり取りが大変です。ワークフローシステムを作ってやれば、上司が承認するのも簡単にでき、紙やメールのやり取りに要した時間ロスもなくなり、しかも承認記録を一元的に残せるようになるわけです」(内田氏)
キヤノンS&Sは、かつて地域ごとに別々の販社だったのが、統合して現在の姿になったという経緯がある。時間を掛けて整備はされてはいるが、帳票類やルールも地域によって微妙に異なるものがまだまだ存在する。それらを統合していくためのきっかけとしても、FileMakerによるワークフローシステムが期待されているのだという。
「FileMakerは古くからのつきあい。とはいえ、ずっとFileMaker一本槍だったわけでもなく、過去にはいろいろなシステムを使ってきました。また、5年先か10年先には、状況が変わって違うものを選んでいるかもしれません。今のところは当社の置かれた環境、例えばグループ内での自社のポジションや、我々の部署の立場などを考えると、最も適しているのがFileMakerだと考えたからこそ、使っているのです。もっとも、ここまでやってしまうとほかの製品に移行するのは、容易ではないと思いますが(笑)」(内田氏)
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