【第1回】ベンダの言いなりにならないために:まるごと! 中堅・中小企業とIT経営(2/2 ページ)
本連載では、激変するビジネス環境を生き抜くために、中堅・中小企業がいかにITを活用して経営の舵取りをしていくか、そのエッセンスを散りばめている。初回は企業がITサービスを導入する上での勘所をお伝えする。
ITサービスの選び方
企業がITサービスを選ぶ場合、一般的には、ビジネス上で付き合いのあるシステム会社に相談するとか、各種セミナーに参加してシステム会社に資料を請求するとか、紹介もしくはインターネットなどで探してコンタクトを取るというパターンが考えられる。いずれも間違っているとはいえないが、それがベストな選択方法であるともいえない。中堅・中小企業においては、入手できる情報に限界があり、自社に合ったITサービスをよく検討する必要がある。
ユーザー企業はITを使って解決したいこと、実現したいことがあるからITサービスを使おうと考えているわけだが、情報量という点においては、システム会社が有利になりがちである。ユーザー企業とシステム会社の間には情報の非対称性が存在する。中堅・中小企業では、システム費の相場はいくらか、自社はどこまでシステム化すればよいかといったことは自社だけでは判断しづらい。
そこで、ITサービスを選ぶ基本的なステップを紹介する。ITサービスを導入、選定する側は、まず自社でやりたいことを明確にすることである。具体的には、システムで実現したいことに加え、スケジュールや予算イメージを固め、それを「文書」にすることである。文書にするというのがミソである。文書化することでシステム会社からより多くの情報を引き出し、情報の非対称性を解消すると同時に、ユーザー企業側がITサービスを選定するときの基準とするのである。ダメな例として、いきなりシステム会社を呼んで、「こういうシステムできない?」と口頭で聞き、システム会社の提案を聞いて予算内に収まればそのまま話を進めてしまうというやり方である。これではシステム会社の言いなりになる可能性が高い。
この文書を一般的には、「提案依頼書(RFP)」といい、本来はユーザー企業が作成するのが基本である。日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の「ユーザ企業IT動向調査」によれば、提案依頼書を作成している企業は従業員100人以下の企業で約10%程度となっており、多くの中堅・中小企業がRFPを作成せずにITサービスを調達しているのが実態である。RFPの書き方はさまざまなところで紹介されているが、筆者が考えるポイントは以下の通り。
(1)システム導入の目的
(2)システム機能
(3)予算とスケジュール(イメージで可)
システム導入の目的は、「一言でいうと○○!」で表す。「○○にかかっているコストを半減!」でもいいし、「○○業務の効率化!」でもいい。次にシステム機能として「これだけは実現したい」という点を箇条書きで記載する。可能であれば、現在の機能と実現したい機能の比較表、現在の帳票と実現したい帳票イメージがあるとより良い。具体的に落とし込むだけシステム会社からの提案確度がアップする。
最後に、システム導入予算とスケジュールである。中堅・中小企業のお手伝いをすると、この点が明確になっていない企業が多い。予算は多ければ良いというものでも、少なければ良いというものでもない。目的や機能から現実的な予算を出したい。例えば、自社の基幹システムを入れ替える場合の予算イメージは、現在自社でIT費用としてどの位かかっているかを調査して、その5倍を予算として考えるとよい。例えば、年間に1000万円であれば、IT予算として5000万円をひとつの目安にする。
では、RFPをどのシステム会社に出すか。システム会社の世界はゼネコン業界と似ている。大手システム会社から仕事が中堅システム会社に委託され、中堅システム会社から中小システム会社に仕事が再委託されている。システム会社と自社とのミスマッチを減らす方法として候補となるシステム会社は、自社が利用しようとしているITサービスを数多く手掛けており、自社と同程度の企業規模(業種、売上、従業員数)を顧客として抱えているところである。たとえITサービスが良くても、顧客が大企業ばかりであれば、単価が高いなどのミスマッチが生じやすい。
その後、システム会社からの提案を受けて選定するわけだが、ユーザー企業の体制もITサービス導入の成功に大きく影響する。システム導入がうまくいかない理由として、自社内のコミュニケーション不足は多い。例えば、システム導入プロジェクトを進めていたら、途中で社長から「これは、こうするべきである」という話が突然出たとする。それが本来のシステム導入の目的から外れていたとしても、システム変更を加えてしまうことがあるはずだ。これでは、いくら良いITサービスを選定したとしても結果はうまくいかない。
自社にそうした事態を防ぐ人がいることが重要なのである。自社に適任がいない場合には、システム会社にその機能を担ってもらう必要がある。
次回は企業が抱える経営課題と、それに対応したITサービスをお伝えしたい。すべての経営課題をITサービスで解決することは難しいし、そうすべきではないと考えている。
著者プロフィール
春日丈実(かすが たけみ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 チーフコンサルタント
筑波大学大学院経営システム科学修了。電子部品メーカー、ダイヤモンドビジネスコンサルティング(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)を経て、2006年1月より現職。業務改革支援、システム構築支援を中心に活動。内部統制(J-SOX)構築・運用支援では、顧客企業の業務プロセス改革支援、IT統制構築支援を中心にコンサルティングを実施。最近はIFRS(国際会計基準)コンサルティングを手がけている。
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