【第3回】IT導入でやってはいけないこと:まるごと! 中堅・中小企業とIT経営(4/4 ページ)
今回は、中堅・中小企業がITを導入する際にしてはいけないことを、失敗事例を紹介しながら説明する。
失敗しないためのポイント
ITサービスの導入に際して、「こうすれば必ず成功する」ということはないが、「やってはいけない」ことは断言できる。筆者が考える「やってはいけない5つのポイント」(図表3-1)は以下の通りだ。
5つのポイントについてそれぞれ解説をしていく。
RFP(提案依頼書)を作らない
中堅・中小企業がITサービスを導入する際に、RFPを作らない企業は意外と多い。RFPがあれば、必ずITサービス導入は成功するとはいえないが、ここは基本として抑えておきたい。そうしないと、システム会社側の言いなりになる可能性が高くなる。筆者の感触だと企業規模が小さくなるほど、RFP作成割合は低くなり売上30億円未満では10社に1社しか作ってないと感じている。
第1回で書いたが、RFPには最低、「システム導入の目的」、「システム機能」、「予算とスケジュール」だけ書いてあればよい。重要なのは目的と機能であろう。
プロジェクトに現場を入れない
筆者も何度も経験しているが、中堅・中小企業の場合、ITサービス導入プロジェクトは限られたメンバーで進めてしまうことが多い。プロジェクトを管理した経験が少ないことも原因だろうが、現場の人間を入れないと、後で問題が発生する可能性が高いし、要件を決めるときに重要なことが抜けてしまうことにもなる。
ただ、現場の人間を入れることによるデメリットがあることも認識しておく。現場の現状維持を要求する人を入れた場合に、システム導入の目的がズレてしまう可能性があることに注意が必要だ。
社長(プロジェクトオーナー)に中間報告をしない
社長や担当役員など、プロジェクトオーナーになる人は忙しい。結果としてコミュニケーション不足になる可能性が高く、後で話がひっくり返ることも多い。毎回プロジェクトのミーティングに出る必要はないと思うが、月に1回は進捗報告をし、プロジェクトの方向性を確認する必要がある。企業にもよるが、システムに関してはまったく口を出さない社長もいる。どちらにしても社内コミュニケーションは重要である。
予算はぎりぎりに設定してしまう
システム予算を仮に3000万円としよう。RFPに3000万円と書くことは避けたい。というのは、RFPを出してシステム会社から提案をもらった段階でシステム予算が確定することはまれである。システム会社からの見積書には必ず前提条件が書いてあり、「正式な見積もりは要件定義後に提示する」となっているはずである。どんなに詳細なRFPを作っても、いざプロジェクトがスタートしてシステムの要件定義に入ると細かな話が必ず出てくる。予算内に収まるのが前提ではあるものの当初見積から10%〜15%はアップすることを念頭に置いて予算配分を考えておくべきだ。要件定義後のテスト段階でも必ずといっていいほど修正要求は出てくるものである。
ゴールイメージを合意しておかない
これはシステム会社と発注企業のこともあるし、発注企業内でプロジェクトメンバーと現場、もしくは社長などの関係の場合もある。ITサービス導入プロジェクトに関係するメンバー間でゴールイメージを合意しておくことが必要である。システム会社はサービスインすれば、早く検収を上げてもらい、請求&回収をしたくなるのはごく普通のことだ。
発注企業としては、ここで検収をしてしまうと、これ以上対応してくれないのではないかと、いつまで経っても検収を上げないことはよくある。このタイミングがシステム会社の決算時期に重なったりすると、「検収してくれ!」「いやまだだ!」というやり取りがあり、両社で険悪な雰囲気になる可能性がある。こういうことを避けるために、事前に「ここまで出来れば検収します」というゴールイメージを合意しておくのはとても重要である。
以上、「やってはいけない5つのポイント」について解説した。繰り返しになるが、こうしたことをやらなければ、失敗のリスクを減らすことができる。
次回はIT活用の成功事例を取り上げ、企業がITサービスを導入するときに「やるべきこと」ことを取り上げる。
著者プロフィール
春日丈実(かすが たけみ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 チーフコンサルタント
筑波大学大学院経営システム科学修了。電子部品メーカー、ダイヤモンドビジネスコンサルティング(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)を経て、2006年1月より現職。業務改革支援、システム構築支援を中心に活動。内部統制(J-SOX)構築・運用支援では、顧客企業の業務プロセス改革支援、IT統制構築支援を中心にコンサルティングを実施。最近はIFRS(国際会計基準)コンサルティングを手がけている。
関連記事
- ITmedia エンタープライズ「中堅・中小企業」
- まるごと! 中堅・中小企業とIT経営:【第1回】ベンダの言いなりにならないために
本連載では、激変するビジネス環境を生き抜くために、中堅・中小企業がいかにITを活用して経営の舵取りをしていくか、そのエッセンスを散りばめている。初回は企業がITサービスを導入する上での勘所をお伝えする。 - 「地方を元気に!」── 元ライブドア社長がクラウドで村おこし・町おこしの支援へ
ライブドアデパートの流れを汲む買う市が、ミニモールを低コストで開設・運営できるクラウドサービスをスタートさせる。初期費用は不要で、月額料金も成果報酬方式になるという。 - 江口ともみのIT活用ビフォーアフター:ワインの好みもDB管理?――名門ゴルフ場のIT活用に至高のホスピタリティを見た
情報システムを活用し、ビジネスの成長に挑む中堅・中小企業――その実態に、タレントの江口ともみさんが迫る。今回訪問した企業は名門ゴルフ場「東急セブンハンドレッドクラブ」だ。 - Weekly Memo:中堅・中小企業におけるクラウド活用の勘所
ノークリサーチが先週発表した「2011年 中堅・中小企業におけるIT関連市場の展望」を基に、とくに中堅・中小企業におけるクラウド活用の勘所について考えてみたい。 - 中小企業の活力を高めるIT活用の潮流:業務を標準化しミスを減少、沖縄の印刷業が挑んだ経営改革とは
長引く不況により、印刷業界、中でも中小・零細企業は厳しいビジネス環境にさらされている。そうした状況下では、業務上の些細なミスが大きな売り上げ損失につながりかねない。業務プロセスをいかに改善するか――沖縄高速印刷でもこれが喫緊の課題であった。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.