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ビッグデータは両刃の剣、既存の情報システムをどう守る?ビッグデータいろはの「い」(2/2 ページ)

既存の情報システムに多額の投資を行い、それが基幹業務を支えている企業はどのようにビッグデータを扱えばいいのだろうか。そもそもビッグデータは分析の対象だけにとどまらない。ビッグデータ時代の情報システムを考えてみたい。

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Extend ── 外部からアクセスできる企業システム

 外部からアクセスできる企業システムは、APIの公開やスマートフォン向けアプリケーションの配布が考えられる。前者、APIの公開でよく知られているのはオークションサイト最大手のeBayだろう。出品業者の多くは、eBayが無償で公開しているAPIを利用してアプリケーションを構築し、システム同士を連携させている。

 後者の代表的な例は、今時であれば、iPhoneアプリケーションの開発だ。社員やパートナー企業だけでなく、広範にアプリケーションを配布でき、不特定多数の一般消費者にもシステムを開放する手段となる。また、APIを公開することで、第3者による使いやすいアプリケーションの開発も期待できるだろう。

 IBMは今年2月、モバイルアプリケーションの開発および実行環境で定評のあったイスラエルのWorklight社を買収、4月末には自社の技術と組み合わせ、既存システムとのインテグレーションや運用管理までカバーする包括的なソリューション、「IBM Mobile Foundation」を発表している。WorklightとMobile Foundationについては、次回の記事でもう少し詳しく触れたい。

Transact ── 安全性とスケールできる処理能力

 こうして不特定多数の一般消費者にまで情報システムが開放されると、それに耐えられる安全性とスケールできるトランザクション処理能力が欠かせなくなる。つながるデバイスもスマートフォンだけではない。スマートTV、スマートメーター、車載コンピュータ、各種センサーなど、M2M(Internet of Things)の世界へと広がる。膨大なリクエストやデータの流入をどのようにさばき、保持するのか、メッセージングはどうすれば確実に行えるのか、アクセス制御はどうするのか、しかも、ピーク時を想定することは難しいし、縮退できることも重要だ。情報システムはひと工夫もふた工夫もしなければならない。

 IBMでは、従来の基幹業務システムを「Internal Services」と呼び、これを包み込む緩衝材として新たに「Elastic Services」を定義する。システムの開放によって負荷が予想しにくくなるだろうメッセージング、KVS(Key Value Store)、データグリッド、ディレクトリ、アクセス制御などのサービスは外界との緩衝材とし、既存システムを保護しようという考えだ。

 IBMが提供するWebSphere eXtreme Scaleは、こうしたElastic Servicesを構築するための代表的な製品。分散型のキャッシュ機能を提供し、外部のアプリケーションからの膨大なトランザクション要求も高速に処理できる。

 4月に世界同時デビューさせたIBM PureSystemsファミリーもElastic Servicesの構築には大いに役立つだろう。ミドルウェアが統合されたPureApplication Systemsでは、専門家でなくとも、自動スケール、フェールオーバー、ロードバランスなどの機能が盛り込まれた「パターン」(システム構成)が自動的に導入できるからだ。

Optimize ── インサイトをアクションに

 ビッグデータの洪水から守られたInternal Servicesはそのままでいいというわけではない。ビジネスプロセス、ビジネスルール、ビジネスロジックを社内向けにサービスするInternal Servicesも、膨大なビッグデータの分析から得られたインサイトを即時に適切なアクションへとつなげていくことが求められる。

 この分野では、アプリケーションからルールを切り出して管理し、日常業務の中で繰り返し行われるトランザクションやプロセスに関わる意思決定をこれらのルールによって自動化する「ビジネスルール管理システム」が活躍する。

 ビジネスでは経験やノウハウの蓄積から意思決定が行われたり、法規制によってある一定の手続きが求められたりする。既に触れた小売り業の例でいえば、「直近の1カ月間に2回以上来店し、5万円以上の購入がある顧客が店舗の半径50メートル以内に近づいたら、タイミングを逃さず特別なディスカウントを知らせるメールを送る」といった意思決定が考えられる。やや夢物語のようだが、これらの自動化は技術的に不可能なわけではないし、ソーシャルメディアへの書き込みを分析し、その結果によって顧客が好む商品に絞り込んだり、割引率を変えることだってできるだろう。日常業務の意思決定を自動化するビジネスルール管理システムは、ビッグデータの分析システムと密接な連携が実現され、今後さらに重要な役割を担っていくとみられている。

 2009年、IBMはフランスのILOG社を買収、JRulesという商品名でビジネスルール管理システムを提供してきたが、昨年秋、イベント管理機能などと統合、WebSphere Operational Decision Managementとして提供を始めている。

 ビッグデータは必ずしも分析に活用するだけではない。既存の情報システムと隔離された仕組みであればいいのだが、かつてと同様、結局のところは既存システムとの連携が必要となるはずだ。スマートフォンなど、外部からアクセスできる企業システム、それに耐え得る安全でスケールする処理能力、そして、ビッグデータの分析で得られたインサイトをすぐにアクションにつなげる ── ビッグデータ時代の情報システムはさまざまな工夫が求められる。

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